神戸・京都・宝塚線のジャンクション阪急十三駅。なにわ筋連絡線は地下ホームへ乗り入れる想定で、既存線との直通は考えていない模様だ(筆者撮影)

2017年3月、阪急電鉄は、なにわ筋連絡線構想を打ち出した。十三(じゅうそう)駅から分岐し、大阪駅北側の再開発地、うめきたエリアに設置されるJR北梅田駅(仮称)へ至るプランで、北梅田と難波を結ぶ地下新線「なにわ筋線」計画と連動した動きになる。5月には、大阪市と大阪府、JR西日本、南海、そして阪急の5者が合意文書を交わした。

阪急は、新線整備に意欲的だ。今年だけでも、なにわ筋連絡線のほか、新大阪連絡線構想、伊丹空港連絡線構想、神戸市営地下鉄直通運転構想と立て続けに報道があり、関西で話題を呼んでいる。なぜこのタイミングで前向きな発言をし始めたのだろうか。

5つの阪急新線計画

近年、阪急が検討をしてきた鉄道計画は、次の5路線だ。

なにわ筋連絡線(十三―北梅田)
なにわ筋線の起点となるJR北梅田駅(阪急梅田駅の西側)と十三駅を結ぶ構想。なにわ筋線は北梅田―JR難波・南海新今宮間を結ぶ地下鉄計画(事業費3300億円)で、2031年春にJR西日本と南海の関西空港アクセス列車が乗り入れる予定だ。なにわ筋線電車を新線経由で十三駅まで乗り入れるのが前提で、レールの幅は阪急線の1435mmではなく、JRや南海と同じ1067mmで整備する。
新大阪連絡線(十三―新大阪 2.4km)
十三駅から新大阪駅へ至る延伸計画で、すでに鉄道事業許可を得ている。東海道新幹線ホームの北側に阪急所有の駅予定地があり、線路用地のほとんどは確保済だ。事業費330億〜400億円との試算はあるが、他の阪急線とどのように連絡するか定かでない。
西梅田・十三連絡線(西梅田―北梅田―十三 2.9km)
大阪市営地下鉄四つ橋線を西梅田駅から北梅田経由で十三駅まで延伸するプランで、2004年の近畿地方交通審議会で「中長期的に望まれる鉄道」として高評価で採択された。事業費950億円と試算され、阪急と大阪市が前向きだったが、西梅田駅以北の工事が技術的に困難との指摘もあり具体化してこなかった。
伊丹空港連絡線(曽根―伊丹空港 約3km)
阪急宝塚線曽根駅から分岐して伊丹空港(大阪国際空港)へ至る約3kmの延長構想。2017年7月の国土交通省の検討会で初めて示された。ルートや開業目標時期などは不明。角和夫阪急電鉄会長によると、事業費は1000億円に届かない見込み。
神戸市営地下鉄直通運転(神戸三宮駅付近―西神中央)
阪急神戸線と神戸市営地下鉄西神・山手線との相互直通運転構想で、2004年の近畿地方交通審議会で示された。当時、阪急春日野道―地下鉄三宮間に連絡線を整備する案が報道されたが、神戸市役所は採算性に難色を示していた。2014年度から実務者レベルでの協議がスタートし、事業費は1000億円超と試算。ルートとして5つの案が検討されている中、角阪急会長は「王子公園駅の西側から地下化するプランが有力」と発言した。


阪急が構想するなにわ筋連絡線・新大阪連絡線・伊丹空港連絡線とその周辺の路線概略図

新線構想の接点となるのが、大阪市淀川区の十三駅だ。阪急梅田駅から3分。宝塚線、神戸線、京都線の3本線が集まるジャンクションで、乗降客数は阪急線内で6位。乗換客を含めれば梅田駅に次ぐ重要拠点となっている。

5つの構想がすべて実現すれば、十三駅には、伊丹空港や関西空港、新大阪、難波、堺などから直通列車が乗り入れてくる。

阪急が新線に積極的な理由

阪急は、なぜ鉄道新線に積極的となっているのか。その理由を4点指摘したい。

まず、阪急が乗り入れを希望するJR北梅田駅の工事が2016年10月から本格的に着手されたことがある。


JR大阪駅の北側で整備されているJR西日本の北梅田駅の建設現場。なにわ筋線と阪急なにわ筋連絡線もここに乗り入れる予定だ(筆者撮影)

JR東海道線支線(新大阪―福島)の地下化と新駅が2023年春に完成すると、JR西日本の関空特急「はるか」などが乗り入れる予定だ。なにわ筋線の開業は2031年の予定で、JR西日本と南海の関空アクセス列車が難波地区と新線を経由して北梅田駅までやってくる。南海は最速38分、JRは40分で北梅田駅と関西空港駅を結ぶ。

90年代、なにわ筋線の起点は新大阪駅を想定していたが、JR東海道線支線と北梅田駅を共有する形に変更された。建設費を圧縮して事業性を改善するためで、ゆえにライバルとなる南海はJRに駅使用料を払って乗り入れることとなる。JR地下線と新駅の工事が本格化しているうえに、2018年度の政府予算に盛り込むため国への働きかけも始まった。阪急も早めに手を挙げないと北梅田駅への乗り入れは難しくなる。決断するには最後のタイミングだった。

次に、鉄道新線の実現に前向きな政治家たちの存在がある。

代表的なのは橋下徹・元大阪府知事だ。大阪維新の会が2011年の大阪市長と府知事のダブル選挙で勝利した後、鉄道整備を具体化すべく意欲的に取り組んできた。2015年の「大阪都構想」の住民投票でも、なにわ筋線、西梅田・十三連絡線などの建設を公約として掲げていた。阪急系の北大阪急行電鉄は今年1月に箕面市への延伸工事に着手したが、これも大阪維新が与党となった影響が大きい。

一方、神戸市営地下鉄と阪急の直通構想に積極的なのは神戸市長だ。自民などの推薦を受けて今年10月の市長選で再選されたことで議論がスタートすることになった。

大阪圏の将来も見えてきた

3番目に、大阪圏で大規模プロジェクトの方向性が定まりつつあるタイミングだということも見逃せない。


阪急伊丹空港連絡線は、宝塚線曽根駅付近から分岐する3kmの支線となる。2001年に完成した高架線は折り返し線があるなど比較的余裕のある構造になっている(筆者撮影)

阪急グループは梅田駅に隣接する「うめきた」開発に参加し、グランフロント大阪の運営に参加するなど商圏の拡大を目指してきた。貨物駅移転の大幅遅延で先行きが危ぶまれてきたが、2024年に完成するメドがついた。廃港の動きのあった伊丹空港、経営再建問題が長引いた関西空港の運営権は、共にオリックス系の関西エアポート社に委ねられ、将来への道筋がようやく示された。また、新大阪駅には2037年にリニア中央新幹線、2046年に北陸新幹線が乗り入れると発表があったばかりだ。

最後に、関西において、将来の鉄道ネットワークを議論する時期が近づいている点を指摘したい。

過去、旧運輸省系の審議会が約15年ごとに次世代の鉄道計画をデザインした答申を出してきた。審議会のお墨付きを得ることが鉄道新線建設に必要な許可や補助の最低条件と考えられてきたので、事業者や自治体は懸命にアピールしてきた。東京圏では2016年4月に答申が示されて話題となった。関西だと1989年と2004年に答申路線が発表されている。

次の答申はいつになるのか。近畿運輸局交通政策部の担当者に聞いてみると、「やるかどうか、時期も含めて内部で検討している段階だ」という。阪急は早めに観測気球をあげることで、関係する自治体や政治家、国交省の反応を探りつつ、答申での採択につなげていきたいのだろう。

ただ、他の関西大手私鉄4社やJR西日本が1980年代後半から意欲的に新線建設を推進してきたのに対し、阪急は何も動かなかった。今年になってアピールし始めたのには、唐突な感は否めない。

たとえば、なにわ筋連絡線について、1989年に構想を公表した後は長年放置してきた。2004年に審議会答申が出された際には、構想の提案を見送っている。事実上、計画中止の扱いだった。

代わりに推進してきたのが西梅田・十三連絡線である。2004年の答申で事業性や費用対効果が高いと評価されたこともあり、国交省や大阪市などと2007年から検討を進めていた。橋下徹大阪市長時代には、地下鉄四つ橋線を南海経由で関西空港まで直通させる案も示された。ただ、現行の四つ橋線西梅田駅ホームが比較的浅い位置にあるため、阪神梅田駅とJR大阪駅の下を潜って北側に延長するのは困難だ。大規模なルート変更が必要なこともあり議論は進まなかった。

そこで阪急は方針転換して、同じ役割を持つ、なにわ筋連絡線構想を再提案した。なにわ筋線は巨額の事業費に見合った整備効果があるのか不安視されており、阪急の新線が乗り入れてくることで事業性を高める可能性があるなら、南海など他の関係者にとってありがたい話になる。

新大阪への延長にも難しさが

なにわ筋連絡線とセットで検討される新大阪連絡線構想も難しい状況にある。


新大阪駅前で1960年代から準備されていた「阪急新大阪駅」の予定地に、2012年以降、新大阪駅北口と新大阪阪急ビル、そして東海道新幹線27番線ホームと引上線が設置された。残りは阪急関連会社の駐車場として使用している(筆者撮影)

新大阪駅への延長構想は60年前から存在する。当時は十三―新大阪―淡路(神崎川)間で京都線急行を走らせる予定だった。開業目標は大阪万博のあった1970年とされたが、土地を確保しただけで凍結された。新大阪駅周辺の開発が伸び悩んで需要が期待できなかったからだ。

京都線と接続する十三駅と淡路駅の立体交差化のメドが立たないのも要因だ。淡路駅の立体交差化は1994年に都市計画決定されたが、新線の乗り入れを想定しない設計とされたため、新大阪―淡路間の計画は中止された。阪急は2004年の審議会で十三―新大阪間の構想を提案するが、費用対効果で低評価となって答申の中長期プランからは外された。

新線と阪急線のジャンクションとなる十三駅の将来像も不透明だ。


伊丹空港へ乗り入れる大阪モノレールに阪急も出資している。伊丹空港の年間利用者数は約1500万人だが2004年から2割以上減った(筆者撮影)

なにわ筋連絡線の十三駅は地下ホームを想定している。阪急の角会長も、今年の株主総会で言及した。そうなると、地上を走る宝塚線や神戸線、京都線との直通運転は無理である。現在線とホームを地下化すれば話は別だが、人口密集地であるがゆえに立体交差化には膨大な建設費と工期が必要だ。具体化する気配もない。地下ホームから地上ホームへの乗換が必要なら、新線に対して期待通りの需要を見込めるのか。精査が必要だろう。

伊丹空港連絡線も、微妙なところだ。現状でもバス輸送が充実しているうえに、阪急宝塚線蛍池駅で接続する大阪モノレールもある。将来、リニアができたら羽田便の大幅削減の可能性があると指摘されており、投資には慎重になるべきかもしれない。

政治に左右される大阪の鉄道建設

この25年間で、大阪圏における鉄道利用者は大幅に減少した。この先の見通しも厳しい予測が出ている。阪急沿線は比較的恵まれたエリアだが、2016年の年間輸送人員は6億5000万人と1991年の2割減に落ち込んだ。東京の大手私鉄とは環境が異なる。

海外からの個人旅行者の増加、梅田地区の各開発の進展などプラス要因はあるが、大阪府が誘致している万国博覧会やカジノ構想にどこまで期待できるのか。北陸新幹線やリニア中央新幹線の開業時期はどうなるか。不透明要素が大きい。

今後は、政治の動きにも注目したい。2018年4月に大阪市営地下鉄が民営化され、10月に2025年万博の開催地が決定される。秋には2回目の「大阪都構想」の住民投票がうわさされている。2019年には大阪市長と大阪府知事のダブル選挙の予定だ。

新線の建設費はどのように捻出するのか。阪急単独での整備はありえないので、大阪市や大阪府、国の財政的支援が前提となる。大阪維新の会は、大阪市営地下鉄を継承する新会社の株式を売却して原資にするアイデアを示したこともあるが、続報は聞かない。

大阪では新線建設の是非が政治情勢に左右されがちなので、阪急の希望が素直に反映されるとは限らない。計画が本当に必要なのか、立ち止まって考えるべきタイミングに来ていると思う。