「民泊」に対する地域住民の不満と不安は高まる一方だ(写真はイメージ)


 次から次へと参加者が手を挙げて発言する。まるで、こういう場を待ってましたと言わんばかりに、住民の不満と怒りが堰を切ったように流れ出した──。

 住宅の空き部屋に旅行客らを有料で泊める「民泊」を自治体が独自に規制する動きが出てきている。

 来年6月から住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行される。住宅に人を泊めて宿泊業を営む民泊(住宅宿泊事業)について定めた法律である。民泊を始める際は、この法律に沿って届け出をすることが必要となる。

 この法律が施行されると、どこの区域でもなし崩し的に「素人」が民泊を始めてしまう可能性がある。そこで都内では、大田区、新宿区、中野区、練馬区などが、民泊新法に条例を上乗せする形で独自規制する方針だ。

 とりわけ住宅専用地域が大半を占める中野区は神経をとがらせている。同区は、「民泊を実施できる区域を限定する」「住宅地では月曜正午〜金曜正午の営業を禁止する」「鉄道の駅近くは規制対象外にする」といった条例の素案を提示した。

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ゴミを始末しているのは地域の住民

 11月下旬、中野区で民泊を規制するための素案をめぐり、区と住民との意見交換会が行われた。筆者も2日間にわたりこれに参加した。冒頭はその会場の様子である。意見交換会に出席してみると、住民の多くが民泊に「不満と不安」を抱えていることが分かった。違法民泊に困っているという意見が数多く聞かれたのだ。

 まず、住民が指摘したのは街の治安が悪化するという問題である。

 隣の家で民泊が行われているという住民は、「毎日のように外国人が入れ替わり立ち替わり訪れてきて、不安で仕方がない。隣の家には消火器を用意してコンロはIH対応にしてほしいと申し入れた」と言う。近辺は木造の戸建てが多いため、外国人旅行者の歩行喫煙やタバコのポイ捨てによる火災が心配だという住民もいた。

 すでに生活に実害を受けている住民もいる。例えばこんな怒りの声があった。

「民泊の宿泊者は指定の曜日以外に平気でゴミを出し、それをカラスがつついて道路を汚す。行政は私道に散らばったゴミは回収しない。結局、これを始末しているのは私たち地域の住民だ」

 この発言からは、民泊事業者の無責任ぶりが伝わってくる。「家主不在型」の民泊には批判の声も多い。

 民泊新法が施行されていない現在、民泊は「簡易宿所」としての届け出が義務付けられている。だが、中野区の調査によれば、区内の民泊は600件にも上るが、簡易宿所として届け出を行っている合法的なところはわずか9件にとどまる。

 中には近隣のクレームに対し、「民泊などやってない、泊めているのは友人だ」としらを切るケースもあるようだ。これは、目下社会問題になっているタクシーの違法営業(白タク問題)と同様の現象といえるだろう。ちなみに中野区の保健所によれば、民泊事業者は「日本人ではないケースが多い」という。

 民泊によって平穏な住環境が破られることへの反発は決して小さくない。昨今はどの自治体も訪日客の受け入れに熱心だが、「まずは公衆の利益を考慮すべきだ」とする意見もあった。

 会場では、たまった怒りを吐き出すかのように挙手が相次いだ。「クレームの持っていきどころがない」という不満も聞かれた。ある男性は「違法民泊を警察や役所に訴えても、何もしてくれない」と憤る。厳格なルール作りと罰則の強化を望む声も強かった。

「素人」事業者への不安

 事業者の中には、純粋に文化交流を目指す事業者もいる。ある事業者は「家主同居型の民泊なので、ゲストの行動には常に目が届く。ゲストのゴミもちゃんと処理しているし騒音は出させない。民泊のイメージが良くないようだが、一括りにしないでほしい」と主張する。確かにこうした活動は地域のPRにもなるし、区民にとって異文化理解にもつながる。

 だが、地域住民が民泊に大きな不安を抱いていることは事実である。それは「実態がつかめない」ことの不安であり、「言葉が通じない」ことへの不安である。そして、今後、規制緩和によって宿泊業界にどんどん「素人」が参入していくことへの不安でもある。

 宿泊事業者が素人ばかりになると、テロや暴力団などの反社会的勢力の排除や感染症の防止など、これまで旅館業法が担保してきた「宿泊者の安全や近隣への責任」がおろそかになるおそれがある。

 違法民泊が水面下で行われていることも大きな問題だ。実態の把握が不可能な民泊ビジネスを、いかにして水面下から引き揚げ健全な運用に結び付けるかは行政の責任だ。言葉の通じない民泊経営者に対しては、登録を促し、公平に課税を行う必要がある。地域住民のクレームを事業者に伝えて改善してもらうのも行政の役割だろう。

 しかし、意見交換会で出た「地域住民の相談の行き場はどこなのか」という質問に、中野区側は「苦情処理窓口は観光庁内に設置する考えがある」と回答した。地域住民に寄り添う姿勢があるならば、いの一番に区に設置すべきではないか。

 民泊事業者には表札となるようなシールが配られるというが、これも漏れなく普及させてほしいところだ。これを実施するには、町内会を上げての「民泊事業者の所在地確認」が有効だろう。

 だたし、ここでも問題になるのは、「言葉の通じない民泊経営者」である。

 意見交換会の最終日、中国人のある個人事業者が手を挙げ、「民泊の宿泊者に悪い人はいない」と訴えた。こうして意見交換会に堂々と出席して意見を述べる外国人事業者は稀有な存在である。外国人の多い自治体の場合、1人でも多くの外国人事業者とコミュニケーションを取ることが必要だろう。

 民泊新法は、国が推進する「4000万人の訪日客」の受け皿として浮上した法案である。しかし結果的に、このインバウンド施策によって住民がしわ寄せを受けている。民泊事業者との「顔の見える交流」ができず、民泊への嫌悪や誤解は募るばかりだ。これがもしも「外国人排斥」の動きにつながれば、それこそ本末転倒になってしまう。

 国や行政はこれを直視し、地域住民と調和した責任あるインバウンドツーリズムを目指してほしいものだ。

筆者:姫田 小夏