「多くの人が投票時に『政策」を参考にしたと言いますが、候補者名をすべて伏せて投票してみたら結果は違ってくるかもしれないという疑いを私はずっと持っています」と語る畠山理仁氏

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日本の民主主義の根幹をなす「選挙」。建前では、すべての立候補者は法の下に平等に扱われることになっている。しかし、現実はそうではない。マスメディアは大政党の支援を受ける「主要候補」のみを大きく扱い、「それ以外の候補」は“黙殺”する。

『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』の著者である、フリーランスライターの畠山理仁(はたけやま・みちよし)氏は、“黙殺”された彼らを「無頼系独立候補」と敬い、彼らがひたむきに選挙に挑む姿を追うとともに、日本の民主主義のあり方に疑問を抱き続けてきた。

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―いつ頃から無頼系独立候補の取材を始められたのですか。

畠山 20年前くらいからですね。当時、私は記者として『週刊プレイボーイ』のニュースページに携わっていました。その際、ネタ探しで新聞を読むのですが、そこには全国で行なわれる選挙の情報が載っていまして、その立候補者欄に「43歳無職」とか「革命家」など不思議な経歴の方がいることに気づいたんです。その頃、ちょうど大川興業の大川豊さんが政治をテーマにした連載をされていて、大川さんも彼らのことを「インディーズ候補」と呼んで取り上げていました。そこで、大川さんと一緒に取材を始めることになったんです。

取材を重ねていくうちに、日本で立候補することはすごく難しいという現実を知りました。供託金や書類の準備に追われ、立候補を断念する人が実はとても多い。そのなかで選挙を戦う無頼系独立候補は、もしやスーパーエリートなのではないか、と見る目が変わっていきました。

―主要政党に属している候補者と比べて、無頼系独立候補の方々はどこか一風変わっているというか、近寄り難いようなオーラを放っている方もいます。

畠山 私も初めは怖かったですよ(笑)。でも実際にお会いしてみると、皆さんとてもユニークで、真剣に政治のことを考えている。意外かもしれませんが、奇抜な選挙活動で有名なマック赤坂さんも、初めの頃はスーツを着た普通のいでたちでした。選挙カーも普通のハイエースで、エアロビクス風の踊りもなかった。演説内容は「恋愛モテモテコースをやってます」とかユニークなものでしたけどね(笑)。

でも、普通の活動をしていてもまったく注目されず、主張が伝わらない。そこで「自分の訴えを聞いてもらうにはどうしたらいいのか?」と考え、選挙を重ねるたびに独自の改良を重ねた結果、今のスタイルに至っています。

マックさんを断片的にしか見る機会のない有権者からすれば、「この変な格好をしたおじさんは何者!?」と理解されない部分がありますが、マックさんを含めて、ほかの皆さんもマジメに考え抜いた末の選挙活動なんです。

―畠山さんは主要メディアで報じられない無頼系独立候補を集めた『公開討論会2.0』をニコニコ動画で企画するなど、さまざまな試みをされています。

畠山 やっぱり「彼らのことを多くの人に知ってもらいたい」という思いがありますね。「この人たちの政策が世の中に伝わったら、日本はどうなるんだろう?」とか、そういった“ワクワク感”もあります。

実際に当選したらめちゃくちゃなことをやる人もいるかもしれませんけど、日本の社会というのは案外カッチリとしているので、それほど心配ないというか、実は誰がやっても変わらないんじゃないか、とすら思っています。だったら、何か面白い選択肢があってもいいと思うんです。

―そうした数ある選択肢のなかで、有権者は何を基準に投票する人を選ぶのでしょうか。

畠山 選挙後のメディアのアンケートによると、有権者が投票の際に参考にしたもので一番多かったのは「政策」となっています。ですが、主要候補といわれて当選した人の政策をよく読むと、極めて抽象的なものばかりです。なので、一度候補者名をすべて伏せた状態で政策を並べて投票させたら、結果は違ってくるかもしれない、という疑いを私はずっと持っています。

さらに言うと、候補者同士で相手の政策をパクってもいいと思うんです。候補者は世のため人のためと思って政策を立案しています。なので、仮に落選者が出した政策が当選者にパクられても、自分の政策が実現されるのだったら立候補した意味があるでしょうし、社会としても有益なことだと思います。

そうしたことを含めて、無名の候補者の存在や主張をあらかじめ切り捨ててしまうというのはもったいないと思うんです。

―長年の選挙取材のなかでつらかったことはなんですか?

畠山 それは、選挙が終わってしまうことです(笑)。終わると、候補者の皆さんに会うこともなくなりますし、「こんなに楽しい祭りが終わってしまう!」と“選挙ロス”になってしまいます。なので、どこかで政治家が辞めそうだって聞くと、「選挙が近いぞ!」って、がぜん元気が出るメンタリティになってしまいました(笑)。

―週プレの読者世代に伝えておきたいことはありますか?

畠山 選挙は私たちの税金で行なわれていて、最終的にはその使い道を決める人を選ぶということ。なので、若いうちに一度は選挙に関わってみてほしい。

もし私が立候補するとしたら、若い人たちの「選挙ボランティア推奨制度」を公約にしたいと思うほどです(笑)。関わるきっかけは、ウグイス嬢やバイトにかわいい女のコが来るとか、そういうことでもいいと思います。

アメリカの選挙はすごくオープンで、若い人たちが一生懸命手伝いに参加していますし、そこでカップルが誕生することも珍しくありません。マジメに取り組みつつも、選挙をすごく楽しんでいる。そしてそのような経験をした人は、その後も投票に行き続けるんです。人生をかけて立候補する人の重みを間近で見て、感じていますから。日本でも勇気を出して選挙の手伝いに行けば、候補者側も優しく迎え入れてくれますよ。

これまで選挙の取材を続けてきて思うことは、とにかく選挙は面白いということ。この本で選挙の面白さを知って、政治に関心を持つ一歩を踏み出してくれたらいいなと思います。

―ちなみに、畠山さんご自身は若い頃は選挙に行かれていましたか?

畠山 選挙権を持った直後は無視していました。けど、22歳からは欠かさず行っています。当時付き合っていた今の妻に「行かないと別れる!」と言われて。選挙が人生を変えました(笑)。

(撮影/村上庄吾)

●畠山理仁(はたけやま・みちよし)

1973年生まれ、愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より雑誌を中心に取材・執筆活動を開始。関心テーマは政治家と選挙。著書に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)。『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著、扶桑社)、『10分後にうんこが出ます』(中西敦士著、新潮社)などの取材・構成も担当

■『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』

(集英社 1600円+税)

選挙への立候補を望む者に立ちはだかる厳格な諸審査と数百万円の供託金。そんな高いハードルを越えてでも立候補を望むすべての者の胸には、「日本を変えたい、良くしたい」というおのおのの熱き思いが宿っている。しかし、彼らが皆平等に報じられ、世間の目に触れることはない。それでも諦めることなく挑み続ける、個性豊かな“無頼系独立候補”たち。彼らの戦いの日々を追い続け、マスメディアや選挙のあり方を根本から問いただした一冊