急成長中のコシダカホールディングスで前代未聞の不手際が起きた(編集部撮影)

カラオケまねきねこ」と女性向けフィットネスジム「カーブス」を2本柱に、快進撃が続くコシダカホールディングス(HD)が、法曹関係者の間で注目を集めている。

11月24日に開催された、同社の2017年8月期定時株主総会の招集手続きについて、「上場会社にあるまじき不手際」(株主総会運営に詳しい弁護士)という声が出ているのだ。

コシダカHDは2007年6月の上場以来、目下のところ10期連続で増収営業増益を継続中。上場当時と比較すると、営業利益は9倍、時価総額はおよそ15倍になっている、急成長企業である。

監査報告書を未受領のまま招集通知発送

そのコシダカHDが、11月9日、発送済みの定時株主総会の招集通知から、会計監査人の監査報告書と監査等委員会の監査報告書を削除することを公表した。

監査法人からも、監査等委員会からも、監査報告書を受領していないのに、受領したことにして招集通知を出してしまったが、実はまだ受領していないから削除する、というものだった。

4日後の11月13日には監査法人の交代議案も撤回した。今総会で新日本監査法人から仰星監査法人に変更する予定だったが、仰星が辞退したためだ。

11月17日になって会計監査人と監査等委員会から監査報告書を入手できたので、招集通知の監査報告書のページを時間差で差し替えた形を取り、24日の総会に臨んだ。 

結果的に監査報告書は総会に間に合い、波乱なく総会は終了したわけだが、そもそも定時総会の招集通知を送るには取締役会決議がいる。招集通知を送るには、総会に上程する議案決定に関する取締役会決議が必要で、そのためには決算の承認決議も必要になる。

それではその決算の承認決議を、いったいどのようにして行ったのか。通常は、決算期末からおよそ7〜8週間後までに会計監査人から無限定適正意見のついた「独立監査人の監査報告書」を監査役会が受領する。

監査役会は会計監査人が行った監査の方法と結果を「相当」と判断したら、その旨を記載した『監査役会の監査報告書』を作成して取締役会に提出する。

取締役会は監査役会の見解を踏まえて決算承認決議をすると、決算が確定し、株主総会には『報告事項』として上程できる。

もっとも、会計監査人と監査役会、経営陣の見解が一致せず、会計監査人から不適正意見や限定付き適正意見がついたり、意見を表明しないというケースもありうる。その場合、監査役会が決算は適正であると判断するのなら、その理由を明示した監査報告書を取締役会に提出、取締役会が決算を承認することは可能だ。

そうすると株主総会での扱いは「報告事項」ではなく「承認事項」となり、判断は株主の手に委ねられる。

さらに、粉飾が発覚して第三者委員会の調査中である場合など、定時総会の招集通知発送までに会計監査人の監査報告書を会社側が受領できないという事態は起こりうる。

企業は定款で基準日を定めており、定時株主総会は必ず開催しなければならないし、決算の報告もしくは承認は、定時株主総会でなすべき事項として会社法に定められている。

実務上は次善の策として、定時株主総会では取締役の選任など、できることだけを決議しておき、決算に関しては後日、臨時株主総会を開催して報告もしくは承認を得る方法がとられている。

浮かび上がる2つの疑問


コシダカHDが11月8日に開示した株主総会招集通知の会計監査人の報告書(左)と11月9日に文字どおり"白紙撤回"したもの(右)(編集部撮影)

コシダカは監査等委員会設置会社なので、上記の監査役会の業務は監査等委員会が担う。

会社側は「監査報告の受領を前提とした条件付きで、決算承認と定時株主総会に決算を報告事項として上程することを決議した」ことを認めている。

会社側によれば、「10月25日になって、新日本監査法人から追加の資料提出も含めた追加の手続きが必要であり、当初予定していた監査報告を提出できないことを通告された」という。

11月30日の同社開示によれば、多岐にわたる勘定科目の誤り、関係会社株式評価プロセスの運用不備、カラオケ事業におけるカード未収売掛金の適切な消し込み処理の不備などを監査法人から指摘されていた、とある。

同時に開示した2017年8月期決算短信の一部修正も、損益科目では売上総利益が144億5664万円から142億8497万円へと、1億7166万円減額訂正されたが、販管費も同額減額されており、営業利益には影響がなかった。つまり、原価計上すべき費用が販管費計上されていたということだろう。

数字が大きく動く可能性があるような見解の相違ならば、もっと早い段階で問題になっていたはずで、会社側は細かい確認の次元と考え、確認が済めば当然に無限定適正意見がもらえると考えていたのだろう。

実際、総会開催1週間前に会社は無限定適正意見が付いた監査報告書を入手している。それでもなお、一連の手続きには2つの疑問が浮かび上がる。

1つ目は新日本の動きだ。11月30日の開示にあるような、細かいながら見逃すべきではない不備を、新日本はいつから指摘していたのか。第3四半期まで四半期報告書がつつがなく提出されていることからすると、最近まで新日本は問題視してこなかったことになる。

10月25日になって突然追加資料の提出を求めたのであれば、担当の公認会計士が監査法人内のレビューで指摘を受け、確認を余儀なくされた可能性が浮上する。

同社の定時総会が11月下旬に予定されていること、そのためには遅くとも11月2週目の前半には招集通知を発送しなければならず、招集通知のゲラチェックや印刷の時間を考慮すれば、10月末までには監査報告書を必要としていたことは承知していたはずだ。

この点については、会社側は回答を控えており、真相は明らかにされていない。

最大の疑問は監査等委員がどう行動したのかである。会社側が監査等委員会の監査報告書を受領したのは新日本の監査報告書を受領した日と同日だから、少なくとも監査等委員会は新日本の監査報告書を見ずに監査報告書を作成したわけではない。

さらに、決算承認を報告事項で上程するのか、承認事項で上程するのかで議案は変わる。株主総会提出書類の調査は監査等委員会の義務だ。

会社側は、決算承認と議案決定について「条件付き」で、全会一致で決議をしたことは認めているが、監査等委員を含め、各取締役がどういった意見を述べたのかについては明らかにしていない。

加えて、11月7日に発送された招集通知には、仰星監査法人への交代が盛り込まれていた。会社側は「11月6日に適時開示をする予定だったが、辞退されてしまった」ことは認めている。

ただ、印刷、ゲラチェックの時間を考えれば、10月中には決定していておかしくないのに、仰星への交代リリースは出ないまま、11月13日になって「(仰星が)辞退してしまったので交代しない」というリリースが出されている。

仰星への変更をいつ決議したのか、そして会社側は決議後速やかに開示をしたのか、それともしなかったのかも明かにされていない。

会社側は11月30日の開示で、さまざまな不備の発生について、経理に必要な人材を確保できていなかったことや、内部監査人の退職、期末直前での経理担当者の退職などを原因として挙げている。

加えて、「株主総会招集手続きにかかる事務処理ミスについては、財務報告に係る内部統制とは直接関係ないものと認識しているが、内部統制における課題として認識している」とある。

新興企業にとっては他山の石

有価証券報告書と同時に提出する内部統制報告書は、あくまで財務報告に関する内部統制を対象としているので、招集手続きに関する部分が“直接関係ない”のは間違いない。

しかし、総会招集手続きについて、「事務処理ミス」と認識している点は重い。予定稿として決議したのに、予定稿のまま招集通知を発送してしまったことを事務処理ミスと認識していて、「条件付き」で決議したこと自体は問題がないと考えていることになる。

11月24日の定時株主総会では、取締役選任議案の賛成割合は、監査等委員長のみ76%で、残る7人は9割以上。創業一族が発行済みの4割強を保有しているとはいえ、一連の不手際を株主が問題視している形跡は見られない。

業績は絶好調であり、優待狙いの個人投資家からの人気も高いゆえんだろう。

しかし、ガバナンスの脆弱さは思わぬ落とし穴になりかねない。株主総会実務に詳しい弁護士は、「招集手続きに瑕疵(かし)があるとして、株主から株主総会決議取り消し訴訟を起こされてもおかしくないケース」だと指摘する。特殊株主に付け入る隙を与えれば、経営が混乱する可能性もある。

会社の機関に関するガバナンスは会計監査人の領域からも外れるため、外部からの監視も効きにくい。だからこそ社外取締役の機能が重要になる。

小規模かつ新興の上場会社の実態に詳しい弁護士は、「上場会社にふさわしいガバナンスを備えているとは言いがたく、苦笑するしかない」という。

「よくある、とまでは言わないが、新興の小規模な上場会社では、表面化していないだけで、似たような話はそこそこ耳にする。現場はずさんな体制を危険だと感じているが、トップがその危機感を共有しておらず、リスクにも自覚がない。今回のケースはぜひとも“他山の石”としてほしい」(同弁護士)