資生堂の商品(「Wikipedia」より)

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「プロ経営者」のひとり、魚谷雅彦社長兼CEO(最高経営責任者)は間合いを図っていた。そして好業績を背景に、長年の懸案である“負の遺産”の処理に踏み切ったのだ。

 資生堂は11月1日、米子会社ベアエッセンシャルの「のれん代」などの減損損失655億円を計上すると発表した。これに伴い2017年12月の連結決算の見通しを修正した。売上高と営業利益は上方修正、純利益は下方修正した。

 売上高は当初予想の9650億円から9850億円へ200億円増える。営業利益は560億円から650億円へ90億円のプラス。売上高は前期比16%増、営業利益は77%増の見込みだ。一方、純利益は当初予想の325億円から100億円へ、225億円下方修正した。一転して前期比69%減となる。

 インバウンド(訪日外国人客)の取り込みに成功し、資生堂本体の化粧品事業は絶好調だ。売上高、営業利益とも当初の予想を上回り、過去最高となる。稼ぐ力がついてきたことから、ベア社の負の遺産を解消することにした。ベア社にかかわるのれん等の無形固定資産などの減損損失を特別損失として計上する。

 のれん代は、日本会計基準では20年以内に各決算で販売費や一般管理費の費用に組み込んで処理する。ベア社に絡む減損は13年3月期に続き2度目。減損の合計額はのれんとほぼ同額の941億円だ。償却分を含めたコストはのれん代を上回り、ベア社は海外大型M&A(合併・買収)の典型的な失敗例となった。

 ベア社を含む米国事業の16年12月期の営業赤字は118億円と、前期に比べて62億円悪化した。資生堂は今回計上する減損損失655億円の半分強が、のれん代の減損と説明している。償却が今後は減少する結果、来期以降の米国事業の営業損益は30億円弱改善するという。資生堂はアキレス腱だったベア社に、ひとまずケリを付けたといえる。
 
●テレビショッピング主力のベア社、百貨店販売に転換して失敗

 資生堂がベア社を完全子会社にしたのは10年10月3日。米サンフランシスコの化粧品会社だったベア社を19億ドル(当時の円換算で約1800億円、100%株式取得のための17億ドルと債務の継承分が2億ドル)で買収すると発表した。

 資生堂の09年3月期の売上高は6900億円。売り上げの25%も投じる大型買収だった。しかも、大型買収で通常使われる株式交換方式ではなく、自己資金300億円と銀行からの借り入れ1500億円で賄った。

 05年に資生堂社長に就任した前田新造氏の最大の功績は、中国市場にシフトしたことだ。資生堂の売り上げは国内が主体だったが、国内市場が頭打ちになり海外に活路を求めた。中国の事業は年率20〜30%の勢いで伸びていた。その余勢を駆って中国以外の市場開拓を進め、ベア社の買収によって最大の市場である米国に進出を果した。

 ベア社の年間売上高は約500億円。テレビショッピングを軸に、ミネラル100%でつくる「ベアミネラルファンデーション」など、“自然派”と呼ばれる化粧品を展開する。自然派系の強いブランドを持っていなかった資生堂は、米国や欧州市場での拡大が見込めるとして大型買収に踏み切った。ベア社の買収で11年3月期の海外部門の売上比率は、その前の期の37%から43%に高まった。

 だが、買収後、ベア社の業績は低迷した。主な原因は販路や広告・宣伝の路線変更だ。百貨店や化粧品専門店での売り上げ拡大に向けて、得意としてきたテレビショッピングを縮小したが、これが大失敗だった。

 百貨店では世界の名だたる化粧品メーカーの高級ブランド品が競い合っていて、ベア社が食い込む余地はなかったのだ。そしてベア社の収益は低迷した。

 資生堂は13年3月期連結決算でベア社ののれん代を、減損として286億円の特別損失を計上、8期ぶりに146億円の最終赤字に転落した。そのため13年4月、末川久幸社長を解任し、11年から会長を務めていた前田新造氏が社長に復帰した。

 前田氏は社長復帰に伴い、マーケティングのプロとして高い評価を得ていた魚谷雅彦氏を後任社長にスカウトした。魚谷氏を資生堂のマーケティング分野の統括顧問に招き、1年後の14年4月、魚谷氏は資生堂の社長に就任した。

●ベア社の減損を処理し、次のM&Aに打って出る

 資生堂の業績は好調だ。17年12月期上半期(1〜6月)の連結決算の売上高は前年同期比15%増の4721億円、本業の儲けを示す営業利益は74%増の346億円。

 日本事業の売上高は10%増の2085億円。このうちインバウンドの売り上げは42%増の270億円。空港などでの免税事業は2倍超。中国事業の売上高は14%増の686億円。中国での人気は「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポー・ボーテ」といった高級化粧品である。

 しかし、米国事業は90億円、欧州事業も31億円の営業損失と、水面下のままだ。

 資生堂はブランドの数を減らすことやマーケティング投資の強化など事業基盤の立て直しを優先的に進めてきた。ベア社の減損処理も、その一環だ。

 次はM&Aの再開だろう。

 16年6月、高価格帯化粧品「ローラメルシェ」や「リヴィーヴ」を展開する米ガーウィッチ・プロダクツを買収した。

 今年1月、スマートフォンアプリを活用したオーダーメイド化粧品を開発する米化粧品ベンチャー、マッチコーを買収。11月には、米人工知能(AI)関連ベンチャーのギアランを買収した。買収額はいずれも非公開だ。

 化粧品市場に占めるインターネット通販の比重が高まるなか、マーケティングのデジタル化対応を加速させる。

 資生堂は20年に売上高1兆円、営業利益1000億円の目標を掲げる。課題は営業利益だ。米国事業のM&Aが収益向上に寄与するかにかかっている。

 ベア社の失敗の二の舞いは許されない。
(文=編集部)