ビジネスシーンのみならず、あらゆる場で必要とされる交渉能力。優位に進められる「テクニック」があるなら、誰でも知りたくなるものですよね。今回の無料メルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』では、まさに交渉のプロである現役弁護士の谷原さんが、とある書籍で紹介されていたという実験結果を例に上げつつ、人間心理を上手く利用した「説得法」を紹介しています。

なぜ順序を変えるだけでこんな結果に?

こんにちは。

弁護士の谷原誠です。

人間には感情と理性があります。感情は、「嬉しい」「欲しい」「悲しい」などであり、理性は、「費用対効果が低い」「能率が悪い」などです。相手からイエスを引き出すためには、感情と理性との関係にも配慮する必要があります。

次のような実験があります(『アイデアのちから」(チップ・ダース、ダン・ハース著、飯岡美紀訳、日経BP社発行)。被験者を2つのグループに分け、1つのグループには、次のような問題を出しました。

ある物体が分速1.5メートルで移動するとき、この物体が360秒で何メートル移動するか計算してください。

もう一方のグループには、次のような問題を出します。

「赤ちゃん」という言葉を聞いたときに感じることを、ひと言で表現してください。

その後で、両方のグループに、次のような寄付の依頼の手紙を渡しました。

寄付金はすべてロキアという少女に贈られます。ロキアはアフリカのマリに住む7歳の少女。極貧生活を送り、深刻な飢えに脅かされています。皆様の寄付があれば、ロキアはもっとよい暮らしを送ることができます。セーブ・ザ・チルドレンは、皆様の温かいご支援によって、ロキアの家族や地域の人々と協力しながら彼女に食事と教育を与え、基本的医療と衛生教育を与えます。

その結果、両グループの被験者達は、寄付をしましたが、物理の問題を出されたグループが寄付をした平均額は、1.26ドルでした。これに対し、赤ちゃんを想像したグループの寄付の平均額は、いくらだったでしょうか? なんと平均2.34ドル。物理の問題を解いたグループの約2倍の寄付をしたことになります。

この結果は、人は理性的思考をした後で説得されるより、感情を動かされた後で説得された方が、イエスと言いやすいことを示しています。したがって、相手からイエスを引き出したかったら、理性的思考をさせることを極力回避し、感情を惹起するように会話をすることが望ましいということになるでしょう。

だから、深夜番組の腹筋の器具は、始めに値段を言うことはなく、まずは腹がだらしなくたれている映像を流した後に引き締まった腹筋を見せ、「私の腹もだらしない。なんとかしたい。あんなボコボコの腹筋になりたい!」という感情を惹起させるのです。テレビを売る時には、「このテレビは大変高い画素数で、耐久性も抜群です」とは言わず、「こんな大きなテレビが、ドーンと居間にあったら、お友達が来たら自慢できますよ〜。家族でテレビを観るようになるので、みんな仲良くなることを請け合いです」など、感情を刺激するような台詞で説得してくるのです。

もちろん、決断するときは、最後は理性の審判を受けることになります。嫌なことをされて、「あいつを殺したい!」と感情で思ったとしても、多くの人が実際に殺すことはしませんよね。これは、理性がそれを許さないからです。したがって、感情を刺激したとしても、その後で理性も説得することが必要です。

先ほどの寄付を募る場面であれば、多額の寄付をお願いすると、理性が邪魔をすることになります。「1ドルでも2ドルでも、いくらでもいいんです」と言うことで理性を同意させることができるでしょう。

深夜の腹筋器具を売る通販番組の場合には、感情を刺激した後に、「代金は、1日一杯のコーヒーを我慢すればいいのです。それくらいは、できますよね? さらに分割払いの金利は、当社が負担します」などと言い、理性に、「じゃあ、いいか」と思わせるのです。

このように、人は決断するときに、感情と理性の両方を使っています。そして、どちらを先に刺激するかによって、イエスと言わせることができる確率が違ってくるのです。イエスを引き出したければ、理性ではなく、まず感情を刺激し、「イエス」を言いたくなったところで、理性を説得することが重要です。

今回は、ここまでです。

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