日本をあと一歩のところまで追いつめたが、終了間際の失点に泣いた。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 12月9日に味の素スタジアムで行なわれたE-1選手権の初戦で、日本代表は朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)に辛くも勝利した。決勝点は後半アディショナルタイム。今野泰幸が頭で落としたボールを、井手口陽介が冷静に決めた。まさに劇的な勝利だったが、逆にガックリと肩を押したのは北朝鮮のほうだ。
 
 奇しくも北朝鮮は、過去2度、日本で開催された日朝戦で、いずれも試合終了間際に決勝ゴールを浴びている。2005年2月に埼玉スタジアムで行われたドイツW杯アジア最終予選では大黒将志が、2011年9月のブラジルW杯アジア3次予選では同スタジアムで吉田麻也が後半アディショナルタイムに決勝点を挙げた。
 
 そんな経緯もあるからだろうか。井手口のゴールに北朝鮮代表はショックを隠せず、中にはピッチに座り込んでしまう選手もいた。ミックスゾーンに姿を現した選手たちの足取りも重かった。試合前には北朝鮮関係者から、「(選手たちは)在日Jリーガーから教わった覚えたての日本語で冗談を言い合うぐらい和やかな雰囲気です」と聞いていただけに、なおさらそのムードは重く、沈んで見えた。
 
 北朝鮮代表を率いるヨルン・アンデルセン監督も、試合後の記者会見で開口一番にこう語っていた。
 
「今日は運がなかった。本当に良い試合だった」
 
 ただ、現役時代にはブンデスリーガで得点王にも輝いた指揮官は、「日本のチャンスは1、2回しかなかったが、(北朝鮮は)4、5回は得点チャンスを作っていた。フィニッシュの精度が足りなかった」とも振り返っていた。内容では引けをとっていなかったと自負しているわけだ。
 
 実際、取材に来ていた韓国人記者たちも、「GKの中村(航輔)がチームを救ったと言えるほど、北朝鮮の攻撃は日本を脅かしていた」「両チームの実力は拮抗していた」と口をそろえていた。大会前、取材に応じた在日本朝鮮蹴球協会理事長で同国サッカー協会副書記長の李康弘氏は、「(北朝鮮代表は)他の3か国に引けを取らない実力を持っていると思いますよ。大口を叩けるほどではありませんが、東アジアのトップ4に入れる水準にはあるはずです」と言っていたが、その言葉通りの実力を示したと言えるだろう。

 北朝鮮代表の在日Jリーガー3人も、手応えを感じていた。
 試合後、77分から出場したFWの安柄俊(ロアッソ熊本)にミックスゾーンで話を聞くと、「在日の皆さんがたくさん応援に来てくれて、力になりました」としながら、悔しさをにじませた。
 
「どっちに転ぶかわからない試合だったから、もったいない。選手たちも、みんな悔しがっていました」(安柄俊)
 
 また、フル出場したMFの李栄直(カマタマーレ讃岐)は、目を真っ赤に充血させながらこう話した。
 
「割り切ったサッカーをして勝てなかったのは、正直きついです。今日はチーム全体がしっかり戦えていた。個人というよりは、みんなががんばって、あそこまでやれていた。でも、それを継続できないとダメですね。チャンスで決めきれないと、最後にああいうことが起きるっていう、典型的なゲームでした」
 
 事実、アンデルセン監督も、「映像で日本を徹底的に研究した。きつくプレスをかけてボールを奪って素早く前線に運ぶようにした」と明かし、イメージ通りの攻撃ができたと分析していた。
 
 しかも、この日はハリルジャパンにも隙があったという。DFの金聖基(町田ゼルビア)が語る。
 
「日本代表はまだ招集されて日も浅いからか、ベンチから見ていても、コンビネーションなども完成していないように思えました。まだ“付け焼き刃”なところもあるのかもしれない。だからこそ、やっぱりこの初戦は勝っておきたかった」
 
 前出の李栄直も、その言葉に同調する。
 
「日本代表は、プレーが噛み合っていない部分もあった気がします。それでも、例えば、見えないところでのうまさには感心したし、そんな日本を相手に十分戦えたことには意味がある。これだけの観客やメディアの関心がある中で、僕たちははまだ戦えるということを見せられましたから。この結果を、次につなげたいです」
 
 欧州組と浦和勢を欠くハリルジャパンは、さらに負傷離脱者が相次ぎ、急ごしらえを余儀なくされている。そんなチームの歯車が完全に噛み合っていないことは、北朝鮮選手たちも感じたのだろう。日本の試合は、残りふたつ。中国、韓国という強豪を相手に、どんなパフォーマンスを披露するか見ものだ。と同時に、北朝鮮の巻き返しにも注目したい。
 
取材・文●李仁守(ピッチコミュニケーションズ)