マーリンズ時代のイチロー【写真:田口有史】

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「スポーツ界の名珍場面総集編」…4月にイチローが放った全米感動のホームラン

 2017年のスポーツ界を沸かせた名シーンを連日にわたって振り返る「名珍場面2017」。今回は4月に米大リーグ(MLB)マーリンズのイチロー外野手が放った「感動の本拠地“凱旋弾”」。古巣マリナーズ戦の3連戦3戦目、その最終打席で今季初ホームランをマーク。MLB公式ツイッターは歴史的瞬間を動画付きで紹介し、味方はもちろん、敵軍、実況、ファン、それぞれが敬意を示す感動の一撃に。日米のイチロー党に感動を呼んだ。

 だから、イチローはレジェンドと呼ばれる。そう思わざるを得ない感動のドラマは最後にやってきた。4月19日、かつての本拠地セーフコ・フィールドで行われたマリナーズ戦。3連戦3戦目、9回の第4打席だった。

「イチローコール」に迎えられて打席に立った背番号51は右腕マーシャルが投じた初球の速球を強振。すると、43歳とは思えない力強いスイングから舞い上がった打球はグングン伸びた。そんなことがあるのか――。日米のファンが固唾をのんで見守った白球は右翼席へと消えた。最後の最後でやってのけた凱旋弾。それは25年連続弾のメモリアルとなる今季1号アーチとなった。

 1本のホームランを巡り、その裏では数々のドラマが起こっていた。敵味方のファンが関係なく総立ちで祝福に包まれたスタジアム。ダイヤモンドを回る時、三塁ベース上では後輩との無言の会話があった。マリナーズ三塁手ジーガーは当時、「相手チームのホームランは普通、見たくないよね。でも、あの瞬間は、スペシャルだったんだ」と話し、こう振り返っていた。

「彼に対して戦慄が走ったよ。彼相手にもホームランは打たれたくはない。それでも、彼がこのセーフコで打ってしまった。ここで彼が成し遂げた全ての偉業などを考えれば、まさにスペシャルなワンシーンだったよ」「僕は何も言わなかった。彼を見つめる感じで、彼もまた僕を見るようだった。そこに言葉はなかった。でも、すごくクールな瞬間だったんだよ」

 かつて同僚として背番号51を追いかけたから偉大さを知っている。だから、言葉なんて必要ない。それは、中継していたテレビ局も一緒だった。マイアミでテレビ中継をした「FOXスポーツ・フロリダ」では「イチローがホームランだ!」と興奮していた実況と解説は、イチローが二塁ベースを回ったあたりで突然、沈黙した。

実況&解説は“43秒の沈黙”、記念球キャッチのファン、同僚たちも敬意

 熱狂と化したスタジアムの光景が次々と映し出される中、ひたすら無言を貫いた。イチローはそんな中、クールにダイヤモンドを一周し、総立ちとなっていたベンチの監督、チームメートと次々とハイタッチを交わした。そして、次打者のゴードンが打席に立つと、ようやく実況は「何てドラマチックなんだ。ワオ」と沈黙を破った。その間、43秒だった。

 解説のホランズワース氏も「(イチローは)驚いているんでしょうか? 私はそうは思いませんが。これ以上の脚本を書けますか?」と感嘆。誰も想像しえなかったドラマの感動を伝えるため、示し合わせたわけでもなく、2人は一切の言葉を挟まず、“43秒の沈黙”で粋な演出を施したのだった。

 このホームランに立ち会った人々も格別だった。試合後、右翼席でボールを掴んだシアトル在住のケヴィン・シャノンさんは関係者からの依頼を受け、歴史的なボールとイチローのサイン入りボールの交換に応じ、「イチローが大好きなんだ。自分が見てきた中で最も素晴らしい選手の一人だね。僕の野球好きとしての魂はイチローによるところが大きいよ」と話したという。

 ベンチから見守っていたマーリンズのイエリッチは「彼が打った時はベンチに座っていたんだけど、『彼なら当然』という感じだったね。他に何を期待すればいいんだ?」、先発したボルケスは「彼はキングだ。彼はこの球場でとても愛されている。今日、彼が本塁打を放ったのは、彼の友達、チーム、そして彼自身にとっても素晴らしかったね」と敬意を払い、称賛したという。

 当然、米メディアも絶賛の嵐に。「果たして、これがイチローのセーフコ・フィールドでの最後の試合になるのだろうか。しかし、彼にはまた違う考えがあるようだ」と記したMLB公式サイトでは、イチローの“再凱旋”を希望するコメントを紹介していた。

「そうは思っていないです。戻ってくると思います。そう願っています」

 今季限りでマーリンズからFAとなり、所属先が決まっていないイチロー。しかし、背番号51は来季もメジャーのグラウンドに立ち、セーフコ・フィールドにも帰ってくるだろう。年齢は44歳。ただ、そんなことは関係ない。イチローはイチローなのだから。