おおよそ、Jリーグ選抜とも呼べるようなメンバー構成だった。

 12月9日に味の素スタジアムで行なわれた「EAFF E-1サッカー選手権」第1戦の北朝鮮戦。先日表彰された今季のJリーグベストイレブンが5人スタメンに名を連ね、90試合のMF今野泰幸(ガンバ大阪)をのぞけば、通算キャップ数が10試合に満たない選手たちばかり。これまでの主軸をなしてきた欧州組を招集できない状況のなか、この大会をワールドカップに向けた強化試合と位置づけるのは、ほとんど不可能だろう。


将来の守護神として期待される22歳のGK中村航輔

 準備期間もほどほどの、いわば寄せ集めのチームに多くを望むのは難しい。こうした試合では個々のアピールが期待されるが、いかんせん連係すらままならない状況下ではポジティブなプレーを見せることさえ困難だ。

 たとえば1トップとして出場したFW金崎夢生(鹿島アントラーズ)は、中央でボールを受けようとしてもサポートが足りずに失う機会が目立ち、次第にサイドに流れて強引な突破を繰り返す。センターバックのDF昌子源(鹿島アントラーズ)もサイドバックとの連係不足を露呈し、1対1の状況に持ち込まれる場面が目についた。

 ワールドカップのメンバー入りに向けて、選手たちも絶好のアピールの機会として意気込んでいたはずだが、味方との距離感、あるいはあうんの呼吸といったものが備わらなければ、持てる力を示すことなどできないのだ。

 本来はベースのメンバーの中に組み込まれてこそ評価は下されるべきであり、その意味で、”別のチーム”で戦うこの大会で既存の序列を覆すことは無謀なミッションとさえ思える。それは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の振る舞いを見てもうかがえるものだ。「多くのことは期待していない」。普段よりもおとなしくベンチに座っていた指揮官の姿からは、そんな感情さえ透けて見えた。

 ただし、急造チームのなかで唯一、アピールできるポジションがある。それはGKだ。フィールドプレーヤーに比べれば連係に影響される要素は少なく、自身のパフォーマンスが如実に結果に反映されるポジションだからだ。

 言い方を変えれば、評価のわかりやすいポジション。だからこそ、ミスをすれば批判にさらされるし、いいプレーをすれば称賛を浴びる。そしてこの日、日本のゴールマウスに立ったGK中村航輔(柏レイソル)は見事にそのアピールのチャンスをモノにした。

 序盤こそ攻撃を浴びる機会がほとんどなく、暇を持て余すかのような状況だった中村だが、25分に至近距離からのシュートをストップし、勢いに乗った。直後には角度のない位置からのシュートをはじき、こぼれ球を押し込まれるも素早く体勢を立て直して、確実にキャッチする。

 後半は、まさに中村の独擅場だった。決まったと思われたヘディングシュートを鋭いセーブではじき出せば、目前でコースが変わったダイレクトシュートも驚異的な反応でストップ。この日が代表デビュー戦とは思えない堂々としたプレーでゴールにカギをかけ、完封勝利の立役者となった。試合を決めたのは決勝ゴールのMF井手口陽介(ガンバ大阪)だったが、勝利をもたらしたのがこの若きGKだったことに異論の余地はないだろう。

「いいプレーをした選手たちがいた。特に若いGKはいろいろな場面で解決策を見つける姿を見せてくれた」

 収穫の少ないゲームのなか、指揮官も中村のパフォーマンスに関しては称賛の言葉を並べていた。

「いつも通りできたと思います」

 デビュー戦の感想を聞かれた中村は、淡々と試合を振り返った。

 その後も何を聞かれても、「勝つことができてよかったです」「結果を出すことが一番だったのでよかったですね」と、素っ気ない。決して饒舌(じょうぜつ)ではない22歳の本心をうかがい知るのは困難だったが、ようやく訪れた代表デビュー戦に並々ならぬ想いで臨んでいたのは確かだろう。

 2年前にレンタル先のアビスパ福岡でプロデビューを飾り、同年にチームのJ1昇格に貢献。昨季、柏レイソルに復帰し、すぐさま守護神の座を掴むと、リオ五輪でも当初は第2GKだったが、大会途中からスタメンをモノにして2試合に出場した。そして今季は柏でフル出場を果たし、チームの躍進に貢献。圧巻のセーブを連発し、今季のベストイレブンにも輝いている。

 5月には初の代表入りを果たし、迎えたこの日の北朝鮮戦。驚異的な成長曲線を描き続ける未来の守護神候補は「いつも通りのプレー」で特大なインパクトを放った。

 現在、日本代表の守護神を務めるのは、川島永嗣(メス)。2010年から日本のゴールマウスを守り続けるベテランからポジションを奪い取るのは、決して簡単ではないだろう。他にも、西川周作(浦和レッズ)、東口順昭(ガンバ大阪)と、ライバルはいずれも30歳を超える経験豊富な選手たちだ。

 GKが経験の求められるポジションである以上、中村にアドバンテージは少ない。それでも中村にはすでに確かな実績があるし、若さがもたらす勢いも備わる。一方で若さには似つかない落ち着きも、そのプレーからは感じられる。それは「いるだけで安心を与えられる存在感」と言ってもいい。

 常日頃(つねひごろ)から柏レイソルの試合に触れてきた人たちにとっては、この日のプレーも見慣れた光景だっただろう。重圧のかかる状況のなか、「いつも通り」にプレーできることこそが、中村の最大の強みなのかもしれない。

「これから先、苦しいこともたくさんあると思いますけど、乗り越えていきたい」

 静かに語るその言葉には、確かな熱が備わっていた。困難を乗り越えた中村がロシアのピッチに立っていても、なんら不思議ではない。

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