アディショナルタイムのゴールで北朝鮮代表に辛くも勝利した日本代表【写真:Getty Images】

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ナビゲーション・システムが付いていない

 E-1選手権初戦、日本代表はアディショナルタイムの決勝ゴールで辛くも勝利した。急造の寄せ集めに近いメンバー構成となった今大会だが、日本チームを率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、所属クラブでの連係を活かすというよりも、監督が目指すスタイルの実践を優先。結果として選手間のコンビネーションは乏しく、探り探りの試合運びに。完成度の高い北朝鮮に圧倒される格好となった。(取材・文:西部謙司)

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【日本1-0北朝鮮】

 ブラジルのレジェンドで読売クラブ(現在の東京ヴェルディ)の特別コーチだったジノ・サニは、プレーメーカーのラモス瑠偉について、「頭の中に地図が入っている選手」と、評したことがあった。現在なら地図ではなくてカーナビだろうか。北朝鮮戦の日本にはナビゲーション・システムが搭載されていなかった。

 世界選抜などで、初めて組む選手同士が見事な連係プレーをみせることがよくある。ディエゴ・マラドーナは、優れた選手とコンビネーションを確立するために要する時間について「10分」と回答していたものだ。

 しかし寄せ集めのチームが、地図を見ながら道を探るようなプレーになるのは無理もない。「次の信号を右です」と知らせてくれるシステムなしで目的地を目指すことになる。

 E-1の日本代表は寄せ集めに近い。そこで少しでも連係を確立しようとするなら、クラブチームでのコンビネーションをそのまま使うか、監督がパターンを導入することになる。

 前者の方法、極端にいえば川崎フロンターレをほぼそのまま日本代表にしてしまえば、北朝鮮戦はずっと良いプレーができただろう。だが、ハリルホジッチ監督の選択は後者なのだ。相手のディフェンスラインが引ききる前に裏のスペースへ蹴ってFWが追う、これまでの代表で使っていたやり方に当てはめた。

 その結果、

「背後へのボール、それを引き出す動きも少なかった。クラブでのプレーをしてしまった」(ハリルホジッチ監督)

 想定内といっていい。監督も「1回の練習で習慣を変えるのは難しい」と話している。平日は1日2回の練習を代表チームとして行い、週末だけ所属クラブで活動する北朝鮮とはチームとしての完成度が違っていた。

個で崩せないならセットを試す手もあったが

 北朝鮮は日本をよく分析していたようだ。引いてスペースを消し、ボールを奪ったら素早く切り替えて縦へ運ぶ……日本がやりたいプレーをやられていた。

 北朝鮮に引かれてしまうとナビの付いていない日本は味方を探しながらのプレーになる。ガンバ大阪の今野泰幸、倉田秋のコンビネーションが辛うじて使えるだけの状況。小林悠がDFの間でパスを受けられる場所に立っていても周囲は気がつかない。高萩洋次郎もカウンター以外はほとんど攻撃に絡めず。

 北朝鮮はカウンターアタックから得意のコンビネーションを使って崩し、決定機の数で日本を圧倒する。GK中村の活躍がなければ2、3点は失っていた。代表デビュー戦で素晴らしいプレーをしたのは収穫だが、それだけ日本にピンチが多かったわけだ。

 ようやく日本が北朝鮮の守備ブロックを崩したのはロスタイム、阿部浩之と小林のコンビネーションが起点だった。そして井手口陽介の決勝ゴールも、カウンターとはいえ小林、阿部を経由しての川又堅碁のクロスボールからだった。

 相手が引くとわかっている試合で日本が見つけたかったのは攻撃のオプションだったはずだ。柴崎岳、小林祐希、森岡亮太など個人をテストしてきたが決定的な答えは見つかっていない。個で崩せないならセットを試す手もあるが、ハリルホジッチ監督はあくまで個としてのテストを行った。

 もっとも、例えば川崎の大島僚太、小林、阿部をセットで起用すると交代枠3人をそれで使い切ってしまいかねない。堅守速攻型が基本なので、たとえセットに効果があるとしても、現状では現実的に使えないわけだ。

ナビ搭載は育成の課題

 かつては、頭に地図が入っている選手は特別だった。ジノ・サニがわざわざそう言っていたのも希少価値だったからだ。ところが、現在では特別な才能に恵まれていない選手でもナビゲーション・システムは搭載されている。

 ルカ・モドリッチやアンドレス・イニエスタのそれは特別としても、彼らの周囲にいる特別でない選手にもナビは付いているのだ。いつ、どこで、どういう状況で何をすべきか、自動的に判断できる選手が多くなっている。

 クラブチームで毎日一緒にいるという環境でなく、寄せ集めでもある程度イメージの共有ができる。ペップ・グァルディオラのような特別な監督の下でナビが搭載されるという例もあるが、根本的にはナビが搭載されるような育成をしてきた結果だと思う。

 寄せ集めに近いE-1の日本代表にコンビネーションがないのは仕方がない。なので、これは現在の代表チームではなく育成の課題になるのだが、素の状態でもスムーズに連係できる選手を育てる必要があると思う。現状でそうなっていないので、すでにこの部分では遅れていると考えたほうがいい。

「JリーグのFWは背後でパスをもらうのに慣れていない」(ハリルホジッチ監督)

 素の状態で連係できないうえに、選手は慣れていないことを要求されているのだから、余計に上手くいくはずがない。しかし、ハリルホジッチ方式で機能しなければ、Jリーグの連係をそのまま代表に転用する芽はなくなる。

 あと2試合で何ができるかわからないが、北朝鮮戦でのアディショナルタイムにあった2つの攻撃がわずかな望みであり収穫かもしれない。

(取材・文:西部謙司)

text by 西部謙司