9日の北朝鮮戦では後半途中から小林悠と金崎夢生が縦の関係で並び、流れを日本に引き寄せた【写真:Getty Images】

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勝利した北朝鮮戦。後半途中から採用された「2トップ」

 日本代表は9日、EAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会(E-1)の初戦で朝鮮民主主義人民共和国代表に1-0で勝利を収めた。前半は格下と見られていた相手に多くのチャンスを作られたが、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が戦術変更を決断した後半は日本が盛り返し、それが決勝ゴールに繋がった。選手交代によって実現した「2トップ」は、ハリルジャパンの新たなオプションになるかもしれない。(取材・文:河治良幸)

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 EAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会(E-1)の初戦、日本は朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)と対戦した。前半は強固な守備のブロックから相手DFの背後にボールを蹴り込む北朝鮮に苦しみ、攻撃のリズムも掴めず。後半は日本が盛り返したものの、北朝鮮のディフェンからなかなかゴールを奪えず、最後のワンプレーかという時間帯に右サイドのボール奪取から鮮やかにつなぎ、最後は井手口陽介が決めて1-0で勝利した。

 ホームとはいえ慣れないメンバー、しかも相手の徹底した対策にはまる形で、A代表デビュー戦だったGK中村航輔の活躍がなければ前半から後半の立ち上がりに失点を喫し、もっと苦しい展開になってもおかしくなかった。そうした状況から何とか自分たちのペースに引き戻し、勝利で終えられたことは“Jリーグ選抜”から“A代表”に成長する転機となるかもしれない。

 さて、その後半だがヴァイッド・ハリルホジッチ監督は1つ大きな選択をした。[4-2-3-1]のトップ下を務めていた高萩洋次郎に代えて伊東純也を右サイドに投入。小林悠を右サイドから中央に入れ、金崎夢生と縦の2トップを形成させたのだ。守備のメカニズムを含め、形としては[4-2-3-1]のままだが、攻撃面では実質的な2トップとなった。

 前半はチーム全体が攻撃リズムを取れない状況で、金崎、小林、高萩の関係が悪い意味であいまいになり、周囲の選手もボールの収めどころを見出せなくなっていたが、配置を換えてからいきなり左サイドの倉田秋のクロスに小林が飛び込んで受ける形でチャンスを作ると、今度は右の伊東が鋭い仕掛けからのクロスでコーナーキックを獲得するなど、いきなりチームのスイッチが入ったような状況になった。

 さらにセンターバックの谷口彰悟を起点に、伊東の鮮やかなスルーから右サイドバックの室屋成がクロスを惜しくも相手ディフェンスにカットされる場面が続く。サイド攻撃が明確になった状況でボランチの井手口陽介から相手ディフェンスの背後を狙う金崎にロングパスが通りかけたところをGKリ・グァンミュンに間一髪で対応された。サイド攻撃が機能したことにより、中央で裏を狙う攻撃も効果を発揮し出した。

縦関係の2トップがもたらす好影響

 そこからも北朝鮮にロングパスから大きなチャンスを作られ、中村のセーブに救われるシーンはあったが、金崎に代えて川又堅碁を前線に投入してから縦のクサビのパスも安定していく。さらに高いポジションを取ったボランチの今野泰幸と井手口のつなぎから、右サイドでは伊東が積極的にドリブルで仕掛け、左サイドは倉田とサイドバックの車屋紳太郎が近い距離で切り崩そうとするなど、サイドを使って最後は前線の2トップに合わせる形がシンプルに共有され、変なボールの失い方もほとんどなくなった。

 後半30分には伊東をフォローしていた室屋のクロスが川又に合いかけ、その直後には車屋とのワンツーで抜け出した倉田のインサイドへのパスを小林が受けにいき、大きなチャンスになりかけたところでコントロールが乱れてシュートまで持ち込めなかった。

 さらに高い位置からのプレスでボールを奪った伊東が惜しいクロス、さらにペナルティエリア付近から小林が川又に合わせようとするも、GKのパンチングに阻まれるなど、一発のロングカウンター以外はハーフコートマッチ状態になった。

 こうした状況が続くと、基本的に縦に速い攻撃を掲げる“ハリルジャパン”の攻撃は機能不全に陥りそうなものだが、左右のサイドを縦に突破して最後は中央というイメージが整理されたことで、いつ決勝点が入ってもおかしくない時間帯とシーンを多く作り、終盤には左に阿部浩之が入ったことでさらに仕掛けを活性化させた。最後にゴールとして結びついたことは確かな前進につながるはずだ。

 ハリルホジッチ監督が完全な2トップの並びにしないのは、守備時のプレッシャーを整理するため、そして1人が深みを取り、もう1人が手前のスペースを使う関係を取りたい理由があると考えられるが、点を取るスペシャリストが前線の中央に2人いる形は攻撃のベクトルが明確になり、相手に対しても迫力を出していきやすい。また伊東のような純然たるサイドアタッカーをいきなり機能させる意味でも非常に効果的で、サイドバックの室屋の役割も整理されたことは大きかった。

W杯に向けた“ソリューション”発見なるか。2トップは新たなオプションに

 最後の得点シーンを振り返ると、相手のリスタートからの攻撃を室屋が奪い、左に展開されたボールを阿部が左に開いた川又へ出し、ファーサイドへのクロスを攻め上がった今野が冷静に折り返すと、バイタルの中央に走り込む井手口が右足でしっかりミートしてゴールネットを揺らしている。この時、左に開いた川又に代わり、小林が鋭く斜めに走ることでペナルティエリア内に4人いた北朝鮮のディフェンスを引き付けた。これは小林を残した記録には残らない効果だ。

 欧州遠征の最初にハリルホジッチ監督は[4-2-3-1][4-3-3]に続く“第3のオーガナイズ”として[4-3-1-2]の採用を示唆するコメントを出しており、今回の形は[4-2-3-1]の中のオプションであるかもしれない。アルジェリア代表監督時代も形上は[4-2-3-1]のまま、起用する選手のタイプを使い分けることで戦術的なメカニズムの違いを生み出していた。

 重要なのはストライカーやセンターFWタイプの選手を前線に2人起用するプランがあるということで、それが明確になれば今回のE-1に限らず、選択するFWやサイドのチョイスにも影響が出て来るかもしれない。例えば1トップであれば大迫勇也がファーストチョイスだが、縦の2トップを使う場合は岡崎慎司や杉本健勇が有力になるかもしれない。大迫と金崎、大迫と川又、大迫と小林といったバリエーションもイメージできる。

 E-1の残り2試合でどの形が採用され、誰が起用されるかは分からないが、清武弘嗣に代わり追加招集された土居聖真も純然たるトップ下よりはセカンドトップでフィニッシャーとしても振る舞えるタイプのため、彼を北朝鮮戦で小林が後半途中から務めた中央のポジションに入れることで、また新たな発見があるかもしれない。ハリルホジッチ監督はもともと固定的なシステムや戦術にこだわるタイプの指揮官ではなく、引き出しが増えれば増えるほど相手の対策に応じた戦い方を選択しやすくなる。

 すでにロシアW杯グループリーグ3試合の相手はコロンビア、セネガル、ポーランドに決まっているが、それぞれのプランを想定しながら、まずは目の前の中国、韓国にどういうオーガナイズの“ソリューション(解答)”を導き出すのか。優勝タイトル、そして選手の生き残りをかけたアピールに加えて要注目の見所だ。

(取材・文:河治良幸)

text by 河治良幸