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「顧客第一主義」「都民ファースト」「社員を尊重する!」よく使われるスローガンだが、これらのスローガン、叫べば叫ぶほど、空虚な思いにかられるのはなぜだろうか。これらのスローガンを繰り返して発せば発するほど、嘘っぽく聞こえてしまう。

 演習参加者の率直な受けとめ方をふまえれば、スローガンを口にした途端、行動ではなく言葉で取り繕っているのではないかと思われてしまったり、口にしなければならないほど、出来ていないのはないかと誤解されてしまったりするためだという印象を持つ人が多い。

 だとすれば、スローガンなど用いない方がよい。「社員を尊重します」というスローガンを使わずに社員を尊重する行動を積み重ねていけばよい。では、社員を尊重する行動というのは、どういう行動なのだろうか。いろいろな方法を試してみたが、話したい時に話してもらうという方法は、たいへん効果のある、ひとつの方法だ。

◆話したい人に話させることで、社員を尊重する方法

 例えば、初めて会議に参加した社員が、ひとりひとり自己紹介をするとしよう。一般によく行われていることは、「時計回りで自己紹介をしていきましょう」「名簿順に挨拶してください」……という方法だ。進行役が話す順番を指図する。実は、この方法は、社員を大事にしているとは言えないのだ。

 このように言うと、「話し手を指図して、秩序だって、発言させることは、進行役の責務ではないか」「右回り、前から後ろなど、発言の順番を決めることは、社員に話すタイミングをあらかじめ示すことなので、社員を大事しているからではないのか」という反応が返ってくる。

 しかし、私が言いたいことは、進行役が話し手を指図することは、話し手の意思を尊重していないし、話す順番を決めることは、話し手の個別の状況を斟酌していないということなのだ。

 私が用いる方法は、「話したくなった人から自己紹介をしてください」という進行だ。それにより、早めに話したい人は早めに、じっくり考えたり、他の人の話を聞いてから自分が話したい人はその後にというように、自分のペースで発言できる場をつくりだす。

 加えて、この方法は、時計回りや、前から後ろという順番に従って話せというような強制を決してしない方法だ。強制することは尊重していることとは言えない。一人一人の意思を重んじて、ひとりひとりの気持ちや準備が整ったら、話してくださいということを、そのような表現を用いずに、「順番は決めずに、話したい人から話してください」という一言で示しているのだ。

◆「会議の準備」なんてやらないほうがいい

 ただ、実際に会議や研修の冒頭の自己紹介で、この方法を試してみると、発言が途絶えてしまう組織がある。順番を決めてもらえないと発言できない組織が、実は少なくない。それほど、今日のビジネスパーソンは、お膳立てをしないと行動を起こせないほど、飼いならされてしまっているのかと思わざるを得ない。

 私が会議の進行役を担う場合は、会議の席は、自由席だ。座りたい席に座っていただく。どこに座ったからといって良いとか悪いとかではなく、前の方に座りたい人もいれば、前の方の席だと落ち着かないので後ろに座りたい人もいるだろう。席を自由性にするということは、そういう個別の状況を尊重するということの証なのだ。

 このように言うと、その会議の進行役や事務局は、名札をつくって、席を決めて、その席に誘導するべきだというご意見に接することがある。私に言わせれば、よかれと思ってそういう準備を周到にすればするほど、社員に席を強制し、社員の主体性を損ない、社員を尊重していないということになってしまう。

 もう、会議の準備は不要だ。研修の名札作成の不要だ。不要どころか、やらない方がよい。

 このように見てみると、会議に参加する社員に気を遣って、丁寧な仕事をしなければと思ってしたことが、実は社員を尊重することとは真逆の影響を及ぼしてしまうということがある。自分がアクションしていることがが社員を尊重することに役立っているかどうか、一度見直してみることをお勧めする。

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第61回】
<文/山口博>

【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある。