GK中村は好プレーを披露。再三のファインセーブでピンチをしのいだ。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

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 1、2回だけなら個人のひらめきか。しかし、2回も3回も、4回も5回も続いたら、チーム戦術と考えるしかない。
 
 北朝鮮のGKリ・ミョングクは、キャッチしたボールを全部高く蹴り上げ、宇宙開発のような配球を続けた。前線に人数が揃っていなくても、お構いなし。ほぼ全部蹴った。日本が帰陣する前に。
 
 一般的にGKからの配球は、グラウンダーか、距離が長ければライナーで届けるのがセオリーだ。そのほうが味方にとって受けやすい。そういう意味では北朝鮮のGKは、最低の配球ばかり。しかし、受けづらいボールは、クリアしづらいボールでもある。このボールの滞空時間を利用し、北朝鮮は1トップと分断されている中盤が駆け上がって行く。コーチングエリアに目を移すと、ヨルン・アンデルセン監督は腕を振り回す。まるで長打が出た時の三塁コーチャーのよう。つまり得点チャンス、と捉えているわけだ。
 
 アンデルセン監督は“日本の弱点”についてコメントを控えたが、推測はできる。空中戦の技術が低いこと、不規則なボールの処理を失敗しやすいこと、こぼれ球に対して中盤のプレスバックが遅れること。GKの配球に限らず、セットプレーやサイド攻撃でも、北朝鮮はフィフティ・フィフティのボールを蹴り、こぼれ球に対してポジションを取る。特にコーナーキック後のカウンター、あるいはサイドチェンジに対する競り合いなど、日本のサイドバックが競り合う局面では、より危険が大きかった。
 
「平日に1日2回トレーニングできる契約を結んだ」とアンデルセン監督が語るように、北朝鮮は攻守の連係が良く、対策も整理されていた。インスタントチームの日本が苦戦するのも無理はない。
 
 難しい試合だった。日本を救ったのは、間違いなくGK中村航輔だ。
 
 25分にフリーキックからワンタッチシュートを打たれた場面のローリング・セーブを皮切りに、69分にはヘディングシュートをダイビング・セーブ。83分にも、裏へ飛び出されてのワンタッチシュートを止めた。GKは結果を変えられるポジション。中村は日本の結果を変えた。
 この柏レイソル育ちのGKは、何よりもシュートストップの準備が素晴らしい。その瞬間、いつもバランスの取れた構えを作り、シューターに正対している。一般的には、相手のラストパスに対してポジショニングを修正すると、GKはボディバランスが崩れ、逆を突かれたシュートに反応できなくなりがち。ところが、中村はその瞬間、左にも右にも流れず、いつもニュートラルに構えている。だから、どんなボールにも反応できる。そこからボールに飛びつく動作にも無駄がない。打った、せーの、ドンッ、で飛びつくのではなく、打った、ドンッ! まるで猫がボールに飛びつくようだ。
 
 この反応の早さが可能になるのは、タイミングの合わせ方がうまいからだろう。人間の身体の構造上、GKはセービングするとき、身体を一度縮めてから跳ばなければならないが、いわゆるプレジャンプのように大きな予備動作を取ると、シュートにタイミングが合わなくなる。そして、崩れたバランスを整えてから再度跳ぶので、セービングが遅れる。
 
 ところが、中村はもっとステップが細かい。プレジャンプというより、プレスプリングくらいの弾み方。タイミングを合わせてセーブに行く。欧州では標準的なGK像だが、これができる日本人GKは少ない。
 
 中村は芯のあるGKだ。いや、芯そのものだ。プラスアルファの評価点はあまりない。身長は184センチとGKとしては小柄。キックの質が低いのは難点。スペースカバーが広いタイプでもない。現代サッカー的な要素を持たないGKとも揶揄できる。しかし、GKにとっていちばん大切なのは何か? それはやはりセービングだ。GKは結果を変えられるポジション。その芯は間違いなく持っている。加えて、代表デビュー戦でここまで堂々とやれる図太さも、GKには欠かせない。
 
 もちろん、まだまだ川島永嗣を脅かしたとは言えず、本人が語るように、すべてにおいてレベルアップしなければならない。それほど川島は日本人GKの中では図抜けたレベル。その背中は決して近くはない。
 
 同日に行なわれた韓国対中国で、22歳以下の選手を6人起用した中国代表のマルチェロ・リッピ監督は、「22歳を若いと見るのは中国だけではないか。若いというのは18歳前後だと私は考えている」と語った。
 
 GKは特殊なポジションとはいえ、本来ならば、いつ主力になってもおかしくはない。22歳の中村が、川島の背中にどこまで迫ることができるか。ロシアワールドカップに向け、楽しみが増えた。
 
取材・文●清水英斗(サッカーライター)