終了間際に決勝点!井手口が勝負強さを発揮した。(C)SOCCER DIGEST

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 2万人の観客が、どれほど満足して帰っただろうか。
 
 アディショナルタイム、井手口陽介の劇的なゴールで1-0で勝ったが、それ以外はGK中村航輔の健闘が目立ったぐらい。GKが目立ったのはイコール北朝鮮に良い形を作られて攻められたということで、チームにとっては喜んでばかりいられない。
 
 この試合の目的は勝つこと。そのうえで個々の選手がアピールしないといけないという難しいミッションになっている。初めて一緒にプレーする選手もおり、国内組だけの急造チームであるため、攻守を上手く機能させるのは簡単ではない。
 
 優勝した2013年大会では3試合で8得点したが6失点しており、打撃の差で勝った。それを踏まえると、今回の初戦は北朝鮮をゼロに抑えて守備面はまずまず、と表向きには捉えられる。
 
 しかし、攻撃面や全体を見てみると北朝鮮のほうが決定機が多く、2、3点入れられてもおかしくはない展開だった。中村の好セーブがなければ試合後、ハリルホジッチ監督の愚痴が長々とつづくことになっただろう。
 
 試合を観ていて単純に思ったのは、選手はこの試合の意義を明確に把握しているのか、ということだ。求められるべきものはチームの勝利だが、勝ったうえで自分の個性をアピールする。自分勝手にプレーするのではなく、チームの中でより個を出し、輝くようなプレーを見せてワールドカップの切符を取りに行く。それが目的なはずだが、そういう姿勢で挑めば、少なくとも前半のような試合にはならないだろう。
 
 たとえば攻撃は、監督の要求を順守し過ぎた。
 
 ボールを取ったら早く前へ、ボールを握っている状態でも前へ。横パスで回すとハリルホジッチ監督が出てきて怒鳴っていた。
 
 選手は監督の要求を守ろうとする。だから、攻撃を急いでしまう。目の前の選手に早くパスを入れることに苦心し、その結果、パスの精度が低くなったり、タイミングがズレたりしていた。さらには、相手が上手く守備のブロックを敷いてきたこともあり、前につながらない。
 
 強固なブロックを崩すためには、縦パス、斜めのパス、裏へのパスなど駆使して打開していかなければならないが、そうしたパスだけでなく、50:50でトライするようなパスも非常少なかった。それでは、決定機的なチャンスなど作れるはずがないし、ゴールも生まれない。
 
 もっとも、これまで守ってカウンターというスタイルを重視してきたので、ボールを握って戦える場合の崩し方など、ほとんど練習をしていない。そのため、攻撃はピッチに出た選手任せになってしまうのでイメージが共有できず、チグハグになってしまうのは致し方ない部分でもあるのだが……。
 
 それでも後半、多少の変化が見られた。
 前半、相手のFWの前でボールをフリーでさばいていたボランチの井手口と今野泰幸のどちらかが、後半は前に出るようになった。今野は「前半の状況を監督はあんまりいいと思っていなかった」と語ったが、横ではなく、縦に動きを出すためにボランチが前に出るようにして、センターバックにもう少し前までボールを運ばせようとしていた。
 
 しかし、前にポジションを取ってもいいタイミングでなかなかボールが入らない。結局、最後までミスを恐れていたのか、安パイなプレーを続けていた。しかも、前に出た分、相手のカウンターに対処できず、危険なシーンを逆に何度も作られた。
 
 ロスタイムに井手口が意地を見せたが、ゴールを決めたのは偶然ではない。
 
 今野が上がっていたなか、井手口も最後とばかり自らも前に上がって行ったからこそ生まれたゴールだった。この判断と気持ちの強さは、代表のレギュラーになりつつあることと無縁ではない。このゴールが生まれたプロセスをワールドカップメンバーの生き残りを賭けて出場するチャンスを与えられた選手は、もっと考えるべきだろう。
 
 選手は全体のバランスを考えてプレーすることも大事だが、攻撃ではもっと強引にいってもいいし、トライするパスをどんどん入れるべき。ミスしたくないと思う気持ちからはポジティブな結果など得られない。「チームのために」という意識は大事だが自分のプレーでチームを助けるぐらいの気持ちでやらないと何も生まれないし、生き残れない。
 
 そういう観点から公開オーディションとなったこの試合でプレーや意識の違いを見せてくれたのは、この3人。

 中村航輔(柏)、井手口陽介(G大阪)、伊東純也(柏)
 
 小林悠のプレーからは裏に抜ける動き、ゴールへの貪欲な気持ちが感じられた周囲が感じてくれず、やや空回り。だが、そういう姿勢こそ代表チームには必要なので、次戦もアグレッシブなプレーを見せてほしい。
 
 初戦を終え、硬さも取れ、次の中国戦では選手個々がもっと「らしさ」を発揮してくれるはずだ。果たして、誰が生き残りリストに名を連ねることができるだろうか。
 
取材・文●佐藤 俊(スポーツライター)