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text:Jeremy Taylor(ジェレミー・テイラー)

もくじ

ー 極めて過酷な挑戦
ー 最も奇妙な光景
ー 太陽光だけが頼り
ー いざ参加してみると
ー 番外編1 3つのクラス 違いは?
ー 番外編2 数字で見る太陽レース

極めて過酷な挑戦

「南回帰線を横切れ、備蓄の変動を避けよ、世界最長の柵を超えろ、闖入者に注意しろ」

レース・ルートの説明書はホビット族の道路地図のようだ。

2年ごとに開催されるブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジの競技者は、地上で最も過酷な場所のひとつでレースをする。

長い間、オーストラリアで最も危険で過酷な道として怖れられてきた悪名高いスチュアート・ハイウエイを、ダーウィンからアデレードまで2977km進むのだ。

細いタイヤを履いたエアコンのない軽量なクルマを運転する各チームのメンバーはほぼ学生で、彼らは焼けつくような気温、予測のつかない野生動物、50mもある縦列トラックの轍を乗り越えていかなければならない。ただチェッカー・フラッグを受けるために。

この不毛の地では2007年まで速度制限がなく、飲酒運転も当たり前だった。ここは1994年にオーストラリアで初の、そして唯一の、キャノンボール・レースが開催されたコースなのだ。そのレースではフェラーリF40がチェックポイントでクラッシュし、4人が亡くなった。

ソーラー・イベントの管理者であるクリス・セルウッドはレースの意義を、次のように説明する。

最も奇妙な光景

「参加する若者たちは、何かひとと違ったことをやろうという意欲を持った将来有望なひとたちなのです。われわれはこのレースで、ソーラーに関して驚くほどのノウハウを集めてきました。どんな自動車メーカーでも今まで使ったことがないようなものです」

「資金が潤沢なチームほど有利なのは明らかですが、ルールはとても厳格です。どの参加チームも、スタート・ラインをまたぐ前にこのルールに従うことを宣言しなければなりません」

レースはダーウィンのステート・スクエアで始まる。

モータースポーツで最も奇妙な光景のひとつだろう。ホイールスピンもなく、おなじみの金髪ガールもいない。もちろん、エグゾーストの咆哮もまったくない。

数千人の観客がお行儀よく拍手する中、各車は出発する。後ろでは15人のオーケストラがアバの曲を奏でている。72km/hで何時間も走り続ける480kgのクルマの運転席に座ってみると、このレースがスピードと同時に忍耐力のレースであることがわかりかけてきたのは、実際に自身で挑戦したからであった。

キャビンの温度は50℃に達する。追い越していくトラック-4縦列トレーラーだ-の風圧は、カーボンファイバー製のマシンにはすごく応える。わたしはランブル・ストリップに乗り上げて一度ならず路肩にそれてしまったり、死んだカンガルーに危うくぶつかりそうになった。

更に悪いことに、わたしの乗った2シーター・クーペには、ダッシュボードに雑に取り付けられたプラスチックの旅行用ファン以外にはベンチレーションが全く付いていない。水のボトルはシートの背に結び付けられているが、中の液体は生温くまったく飲む気がしない。

わたしはクイーンズランドを本拠地とするクレナジー・チーム・アローの4人のドライバーのひとりだ。勇敢にもチームは、ダーウィンからキャサリン(奥地と熱帯の境界だ)までのレグの運転をわたしに任せてくれた。

太陽光だけが頼り

アローSTF(スポーツ・ツーリング・フレームワーク)はクルーザー・クラスに属する。ふたり以上乗れるよう設計されたクルマのクラスで、実用性と速度で判定される。

より高速なチャレンジャー・クラスはひとり乗りで、レースでは最初に全速力でスタートする。

このソーラー・チャレンジには40チームが参加しており、多くが世界中の主要大学だ。各チームはクルマの開発に長い年月を費やしており、ほとんどが数千万円の費用をかけている。

アローはこのレースで最も重要な参加チームのひとつである。このオーストラリアの自動車メーカーは他に先駆けてソーラーカーを商用化したいと考えている。来年発売予定のソーラーカーの価格はおよそ148000ポンド(2235万円)である。

このレースが始まる前、オーナーのキャメロン・チュースレイはこう説明した「本質的にSTFは、われわれが市場に出したいクルマのプロトタイプなのです。これはレース仕様ですが、市販車ではエアコン、より快適なシート、それに適切なインフォテイメント・システムが装備されます」

息が苦しくなるキャビンの暑さを考えるとエアコンが最優先だといいたい。このクルマの窓はすべてはめ殺しだが、おかげでSTFはテスラ・モデルSより3倍も空力特性が良いのだ。

ソーラーカーの長距離レースとは、つまるところ、いかにエネルギーを節約するかということだ。各チームはリチウムイオン電池を10%まで充電しておいてよいが、あとはレース中の太陽光だけが頼りだ。

したがって、雲が出てくるとバッテリー・パワーは深刻なことになる。最後の手段として外部充電することも許されているが、最終成績からはその分が差し引かれる。そのため、屋根のソーラー・パネルの発電量と最適なスピードのバランスに常に気を配らなくてはならない。デジタル・ダッシュボードには、アクセルを踏み過ぎているとか、最大効率でクルージング中だとかの情報が表示される。

いざ参加してみると

汗がTシャツに染み込むにつれ、ブレーキを使うことはダメで、惰性で坂を下ったり、勢いを殺さずに丘を越えたりするのが良いということがすぐわかった。

チームの伴走車は72km/hをキープしろというが、平坦な道でさえすごく難しい。

極細のタイヤは軽量化のためだけではなく、クルマの空力特性を良くするために成形されており、ひとつ800ポンド(12万円)もする。転がり抵抗は最小だが、ごくわずかな横風でもクルマはふらつく。

ボディ・シェル自体はカーボンファイバー製で、屋根とボンネットは隙間なくソーラー・パネルで覆われている。傷つきやすいパネルは、携帯電話のスクリーンに使われているゴリラ・ガラスで保護されている。

オーストラリアに棲息する巨大な蚊と5種類の猛毒ヘビを別にすると、クルマにとって最も危険なのは至るところにいるカンガルーである。カンガルーは日没時にもっとも活発に活動するため、各チームは午後5時にはレースを中断し、再びレースが始まる夜明けまで道端でキャンプしなければならない。

だから、キャサリンに到着してもう運転しなくてもいいとなったときは最高だった。ヘルメットからは汗がしたたり落ち、わたしはといえば、運転席から降りるのに助けが必要な始末だ。ものすごい暑さのせいで腕時計のバンドはぐじゃぐじゃになっている。

ワールド・ソーラー・チャレンジにはフォーミュラ1の興奮はないかもしれないが、一大イベントであることに変わりはない。主催者は欧州でも長距離レースを行いたいと熱望しているのだが、ひとつ問題がある。太陽が足りないのだ。

―― チーム・アローは6日間の平均速度が67km/hで、クルーザー・クラス3位でレースを終えた。クラス優勝はチーム・アインホーヘン、2位はドイツのチーム・ボッフムだった。

番外編1 3つのクラス 違いは?

ワールド・ソーラー・チャレンジの3つのクラスは下記の通り。

チャレンジャー・クラス

大規模な予算を組むチームのクラス。レーシングカーはひとり乗り。スピード第一で設計されたクルマは、空力抵抗の軽減と軽量化のため過激で奇抜なデザインだ。

最大長は5.0m、ソーラー・パネルの面積は4.2岼焚次たいへん軽いのでちょっとした横風でも影響を受けやすく、アデレード北部では悩みの種だ。

クルーザー・クラス

2013年に導入された新しいクラスで、ソーラーカーの実用性と商用化を見据えている。このクラスでは、アデレードに最初にゴールしたクルマが必ずしも優勝とは限らない。

実用化の可能性に応じてボーナス・ポイントが与えられるからだ。最大4人乗り。各乗員の最低体重を80kgとするためバラストが追加される。

アドベンチャー・クラス

このクラスでは、過去の本レース用に製作されたクルマの再出場も認める。ただし、チームのメンバーは同じではいけない。

このクラスではクルーザー・クラスやチャレンジャー・クラスに適用される厳格な走行適格性は必要ないため、新しいエントリーの呼び水にもなる。

競争はしない想定だが、クルマを限界まで走らせることを妨げるものではない。

番外編2 数字で見る太陽レース

46℃

バロー・クリークのチェックポイントにおける最高気温

3450マイル(724km)

8時間でソーラーカーが走る距離

135kg

チャレンジャー・クラスで最軽量のクルマの重さ

397%
太陽光を馬力に変換する効率

3100万ドル(1億1千万円)
ミシガン大学の参加費用

329時間
2977kmワールド・ソーラー・チャレンジの最高記録

アローSTF(スポーツ・ツーリング・フレームワーク)のスペック

■推定価格 148000ポンド(2235万円) 
■最高速度 148km/h(推定) 
■0-100km/h加速 7.0秒(推定) 
■航続可能距離 400km以下(巡航速度で) 
■パワートレイン ツイン・モーターと7.5kWhリチウムイオン電池パック