700万人の"買い物難民"を救う4つの方法

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食料品をはじめとした日常の買い物に困難を感じている人が増えている。こうした60歳以上の「買い物弱者」は約700万人。自治体の「買い物送迎」は回数が少なく、心身ともに疲れる。だがタブレットなどで「ネットスーパー」を使いこなすのは難しい……。高齢者に使い勝手のいいサービスとはどういうものなのか。対策を進める4社の取り組みを取材した――。

■「買い物難民は過疎地域に限らず、全国にいる」

郊外に大型スーパーができて、昔から地元にあったスーパーが撤退した。地元に残る若者が減り、高齢者の単身世帯が増えた。利用者が少なくなり、公共交通機関が減った。高齢で免許を返上した――。こうした理由で、食料品をはじめとした日常の買い物に困難を感じている人(買い物弱者)が増えている。2015年の経済産業省調査では、60歳以上の買い物弱者数は700万人とされており、メディアでは「買い物難民」とも呼ばれている。

この問題を解決しようと徳島県で12年に設立されたのが、「移動スーパー とくし丸(以下、とくし丸)」だ。住友達也代表は、「買い物難民は過疎地域に限らず、全国にいる」と実感している。困っているレベルや人数で考えると限界集落をはじめとした地方の買い物難民は多いが、都会でもいると言う。

「われわれの販売車は、東京の四谷(新宿区)でも走っています。なぜかと言えば、例えば、スーパーの看板がすぐそこに見えている場所に住んでいても、片側4車線の幹線道路を渡りきれなくて、中央分離帯で立ち往生してしまうおばあちゃんがいるからです。彼女にとって買い物は決死の覚悟を必要とします。なんとか店までたどりついても、帰りに荷物が持ちきれず、何度も往復しなければならない。買った商品を届けてくれるスーパーもありますが、数百円の配送料をとったり、数千円以上の買い物なら配送料無料などの条件があり、利用する側のハードルが上がってしまうんです」(住友代表。以下同)

■商品の定価に10円を足した価格で販売

とくし丸は補助金なしで地元スーパーとの共存を図りながら買い物難民対策を行う画期的なシステムを編み出し、現在38都道府県で稼働、販売車数は200台を超え、全国にその数を広げている。移動スーパーを動かすのは、とくし丸の「販売パートナー」である個人事業主で、毎朝、地元の提携スーパーの棚からその日に出向くルートの顧客の要望や好みに沿った商品を選び、トラックに載せる。顧客に販売する際は商品の定価に10円を足した価格で販売し、その利益を提携スーパーと折半する。提携スーパーの販売代行者でもあるため、売れ残った商品は夕方スーパーの棚に戻すことができ、在庫の心配をせずに毎朝新しい商品を販売できる。本部へのロイヤルティを少額の定額制にしているため、売り上げが上がるほど、利益が販売パートナーと提携スーパーに還元される仕組みだ。

「冷蔵庫を載せているので、お刺し身やその日の朝作られた総菜、果物や野菜をお持ちできる。週に2回訪問するので、新鮮なものを冷凍せずに食べてもらうことができます」

■客の98%が80歳前後の女性

多くの移動スーパーは地域の人々が集まりやすい広場に駐車し、客がそこに集まるスタイル。しかし、とくし丸では販売ルートを決める段階で、一軒一軒にチラシを配って説明して回り、本当に移動スーパーを必要としている高齢者を訪問するルートを組むため、要望のあった客の軒先に駐車ができる。だから数百メートル先まで歩くのが困難な高齢者も利用できるというわけだ。客の98%が80歳前後の女性だという。

「一般的なスーパーの棚には5000〜1万品目の商品が並びます。そのなかから、とくし丸に載せられるのは400品目程度。同じ販売パートナーが訪問するので、お客様となじみになり、注文や要望を聞くだけでなく、好みまで把握できます。販売パートナーによっては、売ったものをメモしていて、例えばトイレットペーパーがそろそろ切れそうということまで把握して、お客様に声をかけることもあります」

その日に作られた弁当類や総菜を中心に、客はその日に欲しいと感じたものを手にとり選んで買うことができる。

一方で、販売パートナーに義務付けられているのは、買いすぎを注意すること。「例えば、お客様が3日前に豆腐を2丁買っていて今回も手にとっていたら、前のものが残っていないか確認したり、糖尿病の方が甘いものをたくさん買い込んでいたら、『これ以上甘いものを買っちゃダメ』と売り止めをします。商品の押し売りもしません」。

■この5年でお客様の死亡事例が7例あったが……

こうして3日に1度顔を合わせる販売パートナーは、実の子どもより会う回数が増え、頼りにされるようになる。だからこそ、地域の見守り隊の役目も担っている。

「徳島ではこの5年でお客様の死亡事例が7例ほどありました。ご高齢のお客様が多いので病気で亡くなる方もおられますが、このうち2例は販売パートナーが直接見つけました。死亡までいかない事例は何十例もあります。倒れていて救急車を呼んだとか、いつもと違ってろれつが回っていないと異変を感じて救急車を呼んだら、脳梗塞の前兆だったということもあります」

販売パートナーは家に上がって電球を替えてとか、郵便物をポストに入れてと頼まれることも多いという。「徳島では日本郵政と提携し、とくし丸の車両で切手やハガキの販売や郵便ボックスの設置、ゆうパックの取り扱いなど試験的な取り組みを行いました」

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▼移動スーパー とくし丸

運営●とくし丸

業態●主に食料品を載せた専用トラックでの移動販売

商品内容●その日に提携スーパーで手作りされた弁当や総菜をはじめ、スーパーの商品400品目1200点程度

エリア●38都道府県で200台強が稼働中

回数●週2回

特徴●とくし丸の販売パートナーである個人事業主が地元スーパーと提携し、スーパーの商品をトラックに積んで希望者の家の前で販売する。客のほとんどが80歳前後の女性。販売員は押し売りせず、買いすぎていたら売り止めもする。対面販売のため、見守り隊としての役目も担っている。配達料の代わりに、商品1点につき10円を加算する「プラス10円ルール」をとっている。徳島では「とくし丸プラス」もスタート。2〜3カ月に1回のペースで衣料品の移動販売も行う。

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■「お節介」が得意な、弁当の宅配サービス

高齢者専門の宅配弁当事業を行う「宅配クック123(ワン・ツゥ・スリー)」。1999年に事業をスタートし、現在47都道府県に約330のフランチャイズ(FC)店と一部直営店を構える。

「普通食」「健康ボリューム食」「カロリー・塩分調整食」「たんぱく・塩分調整食」「透析食」「消化にやさしい食」「やわらか食」「ムースセット食」の8種類が昼用・夕食用と日替わり。ごはんの有無も含めて選ぶことができ、1食から配送料無料で配食される。

「ケアマネジャーからお客様をご紹介いただくことがほとんどということもあり、お客様の平均年齢は80歳以上で、要支援〜要介護1くらいの方が中心です。月間の配食数が約210万食で利用者数が約7万人なので、1人あたり月に30食ご利用いただいている計算になります」とは、FC運営会社であるシニアライフクリエイトの菅原邦寛さん(以下、発言は菅原さん)。

最大のこだわりは「弁当を手渡しして安否確認をする」こと。宅配弁当は玄関前などにボックスを設置して置いていくことが多いが「どうしてもというお客様以外は、手渡しをお願いします。見守られている感じが強く出てしまうとお客様の自尊心を傷つけかねないので難しいのですが、頻繁に伺うことでお客様自身も配達員を楽しみに待ってくださるようになります」。

■スタッフは認知症に対する知識を習得

同社ではほとんどの配達員、本部スタッフが認知症サポーター養成講座を受講し、認知症に対する一定の知識を持っている。そのため、話し方や服装など、ちょっとした異変に気付きやすく、認知症の傾向が少しでも見られた場合は、すぐに報告ができるという。

また、年に数回、認知症予防に効果があると言われるイラスト「ミッケルアート」を見せながら、普段より長めに会話をしたり、自慢話を促すために土用の丑の日はいつもと同じ価格で国産鰻を提供したり、唾液の分泌を促すための口腔体操のDVDを配るなど、健康寿命を延ばすための各種「お節介」を行っている。そしてこの「お節介」は、配食する弁当にも見てとれる。

弁当はごはんを左手に持って食事しやすいよう、おかずと別盛り。ふたは片手でも開けやすい仕様だ。角の丸い容器でおかずをスプーンですくいやすくするなどのこだわりも。また、凍結含浸法という特許技術を用い、形を残したまま食材を軟らかくした「やわらか食」や、消化器系などの手術後の数週間の食事のために「消化にやさしい食」を用意するなど、他社が手を出さない分野にまで対応している。

提携工場で食材の調理、加熱したものが冷凍され、自社倉庫から全国の店舗に送る。各店舗ではそれを湯煎や電子レンジで解凍し、器に盛りつけて配食する。ここまではセントラルキッチンの調理工程と大差ないが、「アレルギー対応の代替品への変更は各店舗で行います。また、噛む力が弱い方のために『刻み食』の対応もします。商品を一つ一つはさみなどで刻むのですが、ご要望により、粗刻み、通常刻み、極刻みなどに分けて切ります。ごはんをお粥に替える際も、通常のお粥、三分粥、七分粥と水加減を変えています」。

提携工場で調理の際も、軟らかめの調理法にしたり、噛む力が衰えないようにあえてかぶりつかせるサイズにしたりといった工夫をしているが、さらに各店舗で顧客一人一人に合わせたカスタマイズを行っているのだ。

「店舗では調理と配達を同じスタッフが行うことが多いんです。スタッフは担当するお客様のことを思いながら最後のひと手間を加えます。『昨日よりちょっと小さく刻んだよ』『昨日のお粥の軟らかさどうだった』など、会話のきっかけにもつながります」

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▼宅配クック123

運営●シニアライフクリエイト
業態●個人宅の高齢者への弁当宅配(バイク、車)
商品内容●弁当の種類は普通食から病気療養中の方向けまで8種類。いずれもごはんの有無を選択可
エリア●47都道府県で約330店舗
回数●毎日〜不定期可(注文は前日9〜18時まで)
特徴●電話、インターネットで注文された日替わりの昼食、夕食用の弁当(おかずのみ540円〜、ごはん付き594円〜)を手渡し・安否確認する。昼食や夕食を注文している場合で翌日の朝食を希望する顧客には、パンかおじやとドリンクのセット(216円〜)を、前日の弁当と一緒に配達している。社員・販売員のほとんどが認知症サポーターのオレンジリングを取得。2012年にファミリーマートの子会社になったため、現在12店舗ではファミリーマート商品の買い物代行も行う。

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■全国に1万5000店!コンビニがさらに近くに

全国のセブン−イレブン約1万9500店舗中、7〜8割にあたる約1万5000店舗で実施しているのが、宅配サービス「セブンミール」だ。事前にインターネットで会員登録をしておけば、店舗での受け取りに加え、自宅近くのセブン−イレブンの店舗から配達が受けられる。受取日前日朝10時半までの注文で、昼食用なら翌日のお昼まで、夕食用なら翌日の夕方までに手渡しで配送。500円以上の注文で配送料が無料になる。

「セブン−イレブンの商品が2900アイテムほどあるのですが、セブンミールで扱っているのは2000アイテム程度です。このなかには、セブンミール独自の商品も含まれます」と話すのは、セブン&アイ・ホールディングス広報の清水克彦さん(以下、発言は清水さん)。

1番の主力商品がセブンミールオリジナル商品の日替わり弁当「おまかせ御膳」と日替わり惣菜セット「すこやか膳」(ともに510円)。

「セブン−イレブン商品の専用工場や配送方法を利用することで、この価格が実現しています。弊社のほかの弁当・惣菜類と違うのは、この商品は医師と管理栄養士の監修を受けていること。カロリーの平均値や野菜や塩分の使用量にも配慮しています」

セブンミール利用者の6割が60歳以上で、年齢が上がるほど、利用頻度が高くなっているという。

「ご高齢で食の細い方は、すこやか膳を昼に注文されて、昼と夜に分けて召し上がる方もいらっしゃいます。ご飯だけは家で炊いて、惣菜だけ注文される方もおられますね」

同社がセブンミールを最初にスタートしたのは00年。高齢者を中心に、食料品などの商品を買う場所がない人が増えていることが社会問題視されるようになったが、近くにあるはずのコンビニがない地域がある。解決策として配送サービスや、一部地域ではトラックにセブン−イレブンの商品を載せた移動販売を始めるようになった。

多くの自治体と「高齢者などの支援に関する協定」も締結し、高齢者を含む、地域の見守り隊としての活動も担っている。「お届けの際、玄関は開いているのに返答がないので開けてみたら、お客様が熱中症で倒れていらっしゃった、ということもありました。なにかあったときには、消防や警察へ通報するだけでなく、自治体の福祉課、地域包括センターなどとも連携し、皆で注意していくようにしています」。

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▼セブンミール

運営●セブン・ミールサービス
業態●食料品・生活雑貨等の宅配
商品内容●弁当・惣菜類、食料品、日用品、介護用品、酒など、2000アイテム程度
エリア●全国で1万5000店舗程度
回数●毎日〜不定期可(注文は前日の朝10時30分まで)
特徴●事前にホームページから登録した近隣のセブン−イレブン(実施店舗に限る)から配送される。注文は電話、ファクス、ホームページ、店頭でできる(カタログあり)。日替わりの弁当や日替わり惣菜(ともに510円〜)が人気。配送するのは店舗のスタッフか、提携している西濃運輸子会社で女性を中心に構成する「ハーティスト」のスタッフで、手渡しが基本。利用客比率は6割以上が60歳以上。多くの自治体と高齢者支援に関する協定を結び、見守り隊としての役割も担う。

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■安心安全な食を求め“ちょっと高め”が人気

生活協同組合(生協)では、食品添加物、残留農薬などを商品検査センターで自主検査し、食品安全・品質保証に取り組んできた。東日本大震災以降も自主的に放射性物質検査を続ける安全・安心な食への追求に支持者は多い。

この生協グループのなかで、東京、埼玉、千葉、群馬、栃木、茨城、長野、新潟の1都7県で構成されているのが、コープデリグループだ。行う宅配サービスは、1週間に1度配送の「ウイークリーコープ」と、月曜から金曜の週3〜5日配送の「デイリーコープ」。

ウイークリーでは食料品や生活用品など毎週約5500品目程度を扱う。販売員が1週間ごとに内容の変わる100ページ近いチラシを配布し、翌週注文書を回収、翌々週に商品を配達する。

ウイークリー担当の宍戸健雄さんによると、「配達手数料のシルバー割引利用率で考えると、全体の15%が高齢者と考えられます」。シルバー世代は、少し高めでも味のいい「コープクオリティ」ブランドや、冷凍の刺し身や魚の利用も多いため、ほかの世代と比べ、週1000円程度単価が上がるという。

一方、デイリーは利用者のほとんどが高齢者。夕食を目的とした日替わり弁当・総菜のほか、カットと下ごしらえ済みの材料、調味だれがセットになった調理キット『そろってGood!』などの「メインメニュー」を基本に、ウイークリーでも扱うサラダや冷凍食品、牛乳や卵などの「サイドメニュー」も配達する。メインメニューは曜日や内容を登録すると、自動継続で配達される仕組みで、変更は前の週の火曜日までに電話や配達員に伝えれば可能だ。60代はボリューム感のある総菜「舞菜御膳」が、70〜80代は総菜6種類の「舞菜おかず」が人気で、80〜90代はごはん付きの「舞菜弁当」を選ぶ顧客が多いようだ。

「デイリーは新潟県を除く1都6県で行っています。工場で作ったものを冷蔵して各宅配センターからお客様へ配送し、お召し上がりの際に電子レンジなどで温め直していただいています。ご飯や総菜は軟らかめに仕上げ、魚は骨を除いたものを使うなどの工夫をしています」(デイリー担当の船岡学さん)

受け渡しは手渡しのほか、利用者の希望によっては、保冷箱に入れて指定場所に不在置きすることもある。

「前日の商品が手つかずで残っていたり、異変を発見した場合は、行政などに連絡します。9月中旬以降、ウイークリーでもデイリーでも、お届け確認メールサービスが始まります。ご親族など連絡先登録者様に、お客様の配達時の在宅・不在、前回配達商品受け取り情報をお知らせするものです」(同)

このメールサービスは現在事前登録受け付け中だ。利用者の安全や安否を保障するものではないそうだが、離れて暮らす親族の異変を感じる手がかりの1つになるかもしれない。

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▼コープデリ(デイリーコープ(D)/ウイークリーコープ(W))
業態●弁当、食材、日用品などの宅配
商品内容●(D)夕食用の弁当・総菜など/(W)生鮮食品から日用品まで週替わりカタログに5500アイテム以上を掲載
エリア●東京、埼玉、千葉、群馬、栃木、茨城、長野、新潟(新潟はD取り扱いなし)
回数●(D)祝日を含む月〜金曜のうち3日以上(注文は前週火曜日まで))/(W)週1回(規定曜日。注文は1週間前まで)
特徴●(D)(W)ともに組合員となり会員登録をすると毎週チラシが配られる。販売員に注文書を渡す。受け取り方法は、手渡し、指定の場所の保冷箱に入れるなど。(D)は最初に注文内容と配送曜日を登録すると自動継続される。変更は前週火曜日まで。(W)はカタログをもらった翌週に配達員に注文書を渡すと、その翌週に配送される。シルバー割引を使うと配達手数料は0円+宅配の有無にかかわらずかかる基本手数料税別80円〜(条件は各コープで異なる)。

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厚生労働省が今年7月に発表した2016年の日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳と、男女とも過去最高を更新した。一方、内閣府の平成28年高齢社会白書では、「孤立死を身近な問題だと感じる」60歳以上の割合は、単身世帯で4割を超えている。こうした食材調達サービスを利用しながら、離れて暮らす親族の安否確認に役立ててはいかがだろう。

※各社の弁当写真などはイメージです。また掲載価格は税込みです。各数字は2017年6月時点。

(干川 美奈子)