ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表の北朝鮮戦でのパフォーマンスは…【写真:Getty Images】

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「代表戦より、FC東京の試合みたい」「北朝鮮は高校サッカーみたい」

 日本代表は12月9日、EAFF E-1サッカー選手権2017決勝大会の初戦で朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)に1-0で勝利した。東アジアの頂点に立つために重要な勝ち点3を手にしたが、国内組のみの日本代表は期待に応えるプレーだったのだろうか。この試合中、スタジアムで取材するイングランド人ライターのショーン・キャロル氏に随時話を聞いた。

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ーー日本代表のスタメンが発表されました。中村航輔、室屋成がA代表デビューになります。ショーンさんはこの11人にどんな印象を受けますか?

「高萩(洋次郎)以外は予想通りだね。右サイドバックは西(大伍)がいればスタメン確実だったけど、いまは室屋か初瀬(亮)しかいない。2人とも先発すればデビュー戦だったけど、やっぱりどちらかを選ぶとしたら、室屋だったんじゃないかな」

ーー試合が始まりました。日本の立ち上がりはいかがですか?

「開始5分、まだ何もない……」

ーーそれにしても北朝鮮の応援はすごいですね。かなりの人数が集まっています。

「何人いるかな…1000人近くいるような感じ。すごく揃っていてバレーボールの応援みたいだね(笑)」

ーーしかし、スタジアム全体を見渡すと観客は日本代表戦とは思えないくらい少ないです。バックスタンドの2階席はほとんど開けていないみたいですし。

「今回の日本代表はフルメンバーじゃないし、今日は寒いし、仕方ないけど2万人くらいかな。代表戦というより、FC東京の試合みたい…」

ーー北朝鮮代表の印象はいかがですか?

「守備はすごく激しい。でもボールを持った時はそんなに技術がない。ほら、パスミスをした。でもファイティングスピリットはある。J2下位のチームくらいのレベルに見える。組織はしっかりしているように見えるけど、いまのところあまり怖さはないですね」

ーー開始から20分ほど経ちました。ここまでの日本代表はいかがですか?

「あまりボールを持っている時間がない。ボールを奪うとすぐに小林(悠)か倉田(秋)にパスをつけている。昌子(源)もいつもよりシンプルにプレーしている感じだね。井手口(陽介)はハリルから中盤からゴールをねらえと言われていた。ロングシュートをもっと打って欲しいと。さっきのはいい感じだけど、もっと力を入れたほうがいいね(笑)」

ーーいまのところ日本はなかなか連係が噛み合っていません。

「こういう大会は難しい。どうしても選手個人はアピールしたいと思ってしまう。もちろんチームの結果は大事だけど、このメンバーはあまり一緒にプレーしたことがないし難しい面もあると思う」

ーー北朝鮮のサポーターはついに歌い出しました。日本の応援よりも元気良く盛り上がっていますね。

「なんかいいね! 北朝鮮の応援のほうが日本の応援よりいいかも(笑)。北朝鮮はユニフォームもプレースタイルも高校サッカーみたいだね。みんなやる気があって集中している。判断力とかは…でも面白い。25年ぶりの外国人監督が北朝鮮をどこまで導くかな」

「22歳は選手としてもう若くない」「北朝鮮リーグ、ぜひDAZNで放送したら?」

ーー25分の場面、本当に危なかった…。すでに北朝鮮に何度もビッグチャンスを作られてしまっています。

「正直なところ今日のディフェンス陣は全員A代表のレギュラーではない。昌子もブラジル戦とベルギー戦ではベンチで、槙野(智章)がスタメンだったよね」

ーー小林も右サイドではちょっと窮屈そうにプレーしていますね。

「やっぱり彼は真ん中の選手。金崎(夢生)と小林の2トップにしてみるのも、結構いいんじゃない?」

ーー立て続けにチャンスを作られてしまいました。中村の素晴らしいセーブに救われたとしか…。

「本当に危ない。でも中村は自信がつくね。今日はデビュー戦で、22歳はGKとしてまだ若いね。さっき中国代表のマルチェロ・リッピ監督は記者会見で『22歳はもう若くない。若いと思っているのは中国だけ』と言っていたけど、日本人もそう思っているよね。GKとしては確かに若いけど、22歳は選手として決して若くはない。リッピ監督が言っていることもよくわかる」

ーー先発のチャンスをもらった高萩になかなか輝くチャンスがありません。頭の上をボールが飛び交っているような感じもあります。

「上手い選手はFC東京に移籍すると下手になっちゃうのかな。大久保(嘉人)もそう、ピーター・ウタカもそうだった。この4年は大久保、大久保、大久保、ウタカと得点王を獲ってきたけど、2人とも今年はあまりゴールを決めていない。彼らが今シーズン決めた8得点は倉田や山村和也と一緒だよ。まるで呪いみたいね。もちろんジョークだけど(笑)」

ーー徐々に北朝鮮の方がいい流れになってきています。

「北朝鮮が主導権を取ったね。でも後半は疲れてくるんじゃないかな。彼らのフィジカルコンディションや国内リーグのレベルは全くわからないけど。北朝鮮リーグ、ぜひDAZNで放送したらいいなじゃいかな!」

ーー金崎も今日の戦い方ではなかなか生きませんね。

「いまはロングボールしかない。鹿島は2トップだよね。代表のような1トップは彼にとって難しいかもしれない。小林との2トップにして高萩を右に回したり、中盤をダイヤモンドにしてもいいかも。この流れが続いたらハリルはハーフタイムに交代カードを切るかな。今はどっちがホームかわからない流れになってしまっている。赤が日本かな、と思うくらい…」

ーーもう前半もアディショナルタイムです。

「早いね! もうそんなに経った?」

ーー前半は0-0で終了しました。45分間見て、いかがでしたか?

「後半から誰か絶対交代するでしょう、これは」

「リ・ヨンジは自信満々」「ほとんどの選手にアピールない

ーー後半が始まりました。

「交代はなしだね。これからハリルさんはどうするかな…」

ーー戦い方もあまり変わっているようには見えませんね。

「日本の選手たちはみんな初めて会ったみたいにプレーするね」

ーー後半が始まってから7分でもう2つもチャンスを作られてしまいました。

「前半と同じような感じね。日本ははじめボールを持てるけど、チャンスを作れない。そして北朝鮮にいくつもチャンスを作られて主導権を握られてしまう」

ーー日本はようやく最初の交代カードを切りましたね。

「予想通り伊東純也だね。高萩が下がったから、小林が10番(トップ下)に入る。この形のほうがいいと思う」

ーー伊東純也はいいですね。さっそくスピードを生かしています。

「日本人っぽくないね。ダイレクトな選手」

ーー北朝鮮はコンパクトに守ってきてほとんどスペースがありません。

「まあ、予想通りじゃないかな。北朝鮮は守って、最低限の0-0でいいと思っているはずだから」

ーー北朝鮮のミドルシュート、危なかった…。

「リ・ヨンジだね。彼はさっきも打っていたけど、いいシュートを持っていると思う。パフォーマンス全体もすごくいいね。自信満々で目立っている。J1への移籍が絶対に欲しいのかな、そんな風に見える」

ーー残り30分ほどとなりました。ここまで見てきて日本代表は良くなってきていますか?

「良くない。昌子と井手口はもうW杯に行けると決まったようなものかもしれないけれど、他の選手は全然アピールできていない。小林なんかは特にそう」

ーーお、中村がまたいいセーブを見せました。今日は何度も彼に救われています。A代表デビュー戦とは思えないくらい落ち着いていますね。

「中村はいいね。いまのもいいセーブだった。あまり出番がない時でもしっかり準備できているGKは頼もしい。ディフェンスともコミュニケーションをとっていて、いまのヘディングシュートのセーブは素晴らしかった!」

ーーハリルホジッチ監督が2人目の交代を準備しています。

「川又(堅碁)がくるね。川又も典型的な日本人選手ではない。もちろん技術はあるけど、それよりも得点力があって、チャンスさえあれば決められる選手。日本は全然チャンスを作っていないからそれが心配だけど…」

「今日は北朝鮮が勝っても妥当な結果じゃない?」

ーー話は逸れますが、北朝鮮のアンデルセン監督は就任してもう1年半になります。ずっと北朝鮮に住んでいるんですかね。

「それも面白いよね。なかなかできることじゃない。でも北朝鮮のサッカーを見るならずっと住まないといけないし、それは人生において素晴らしい経験にもなる」

ーー平壌に住んでみたいと思いますか?

「平壌、いいんじゃないかな。住んでみたい。報じられていることはいろいろあるけど、中にはフェイクニュースがあるかもしれない。本当の姿を一度見てみたいと思わない? 住めば報道にないような北朝鮮も、いろいろ見られるかもしれない。今はちょっと危ないけど、一度は行ってみたいと思う場所の一つ。北朝鮮の国内サッカーを見るのも面白そうだよね」

ーー残り時間も少なくなってきましたが、今日の日本は本当にチャンスを作れないですね。

「いまの昌子のプレーも意味がない。1トップでロングボールを雑に蹴っても何も起きないよ」

ーー昌子は今後、槙野からポジションを奪い返せるでしょうか?

「今日の昌子は良くもなく悪くもなく。大きなミスはなかったけど、このパフォーマンスだったら「吉田(麻也)の隣は絶対に昌子」と言えるまでにはならないと思う」

ーー日本は最後の交代です。倉田に代わって阿部(浩之)が入ります。

「倉田は本当に微妙だね。いい選手かなと思うけど、特徴が何かわからない。平均的に毎試合『6』くらい。でもハリルは好きみたい。Jリーグはそういう選手が多いね」

ーー平均的にいい倉田よりも、スペシャリティのある伊東のような選手の方が使いやすいでしょうか?

「伊東はスタメンにはなれない。今日みたいに試合展開を変えたい時に、乾(貴士)みたいに使うのがいいと思う。でも、そうなるとW杯はどうだろうね…」

ーーあと5分です。このまま得るもののない“寒い”試合で終わってしまうのか…。

「今日は北朝鮮が勝っても妥当な結果じゃない? ひどいね…」

ーー川又、惜しいチャンスでした!

「金崎より期待できるね。いいシュートだった」

ーー井手口のゴールが決まりました! まさかこのタイミングで日本にゴールが入るとは…。

「すごかったね。これで井手口は代表に定着かな。こういう何もない時にゴールを決められる選手がトップレベルになれる。さっきも話していたような平均『6』の選手もいいけど、彼のような力を持った選手の方がもっと重要。本当に素晴らしいゴールだった」

「井手口のような選手はとても重要」「平均『6』では不十分」

ーー試合が1-0で終わりました。まず「幸運だった」試合全体を振り返って、どう分析しますか?

「最後は幸運だった。試合全体が良くなかったね。もちろん選手が不慣れなところもありましたが、スタメンだった選手たちは中村以外に特にアピールできなかった。ポジティブな部分は、伊東と川又のベンチからのパフォーマンスだと思う。そして井手口は彼のクオリティを再確認させてくれた。パフォーマンスはもちろんパーフェクトじゃなかったけど、チーム全体があまりうまくいかない日でも結果を出せる選手はとても重要です」

ーー正直、今回E-1に出ているメンバーから井手口や中村以外にも、ロシアW杯へ行ける選手が何人か出るかなあ…と思いましたが、厳しい感じがします。何人かはトップレベルで限界が見えたかなと。

「その通りですね。試合中も少し話しましたが、今回のメンバーは『毎試合平均「6」』のような選手が多い。Jリーグでそれは十分かもしれないけれど、国際サッカーはもちろんより高いレベルなので『7』『8』『9』が必要になる」

ーー逆に今回選ばれていない選手の中に、国内組の活躍でW杯に向けて立場が危うくなるような選手はいるでしょうか?

「どうだろうね…今日の試合を見るといなさそうですね。GKだけ少しドキドキかな? 中村はスーパーなデビューだったので、西川(周作)はちょっと不安かもしれない」

ーーロシアW杯でも、やはり最後は海外組の力を信じるしかない…。

「その通りです。でも、E-1はまだ1試合が終わっただけなので、これから誰かがアピールするかもしれないね」

ーー中国戦まで中2日しかありませんが、どんな準備が必要でしょうか?

「ハリルさんは『メンバーを入れ替える』と言っていたので、次の試合に向けて誰がプレーするか、少し気になる。まずはリフレッシュしないといけない。でも、フィジカル以外にもチームのリズムや連動性も、修正しなきゃいけないところが結構ありますね。特に中盤を通して攻撃のビルドアップは課題だと思う。ハリルさんは『横パスが多過ぎた』と言いましたが、僕はそれよりロングボールの多さが一番良くなかったと思った。もう少し速いパス交換で攻めた方が良かったんじゃないかな。北朝鮮のディフェンダーは仕事を少し楽に感じていたかもしれない」

「ハリルさんの今日のコメントはさすがだった」

ーー北朝鮮の選手たちのフィジカルはしっかり鍛えられていましたね。

「アンデルセン監督がさっき記者会見で言っていたけれど、平日に代表チームで練習して、週末にクラブチームへ戻って試合をするというのは北朝鮮だけだと思う」

ーー監督の契約に「選手たちに毎日2回練習させていい」と入ってるのも北朝鮮だけでしょうね。

「間違いなく。でも、もしできるならハリルさんも絶対にそうやりたいんじゃないかな(笑)。ハリルさんといえば、彼の今日の記者会見でのコメントはさすがだった」

ーーどの部分ですか?

「日本と北朝鮮の『フレンドシップ』について。フランス人の記者から政治的なことを聞く質問が出て、ハリルさんはそれに対して素晴らしい答えで返した。『サッカーに政治はいらない、私はサッカーで友情や親愛を伝えたい』と言っていたところ」

ーー日本代表の広報は一度止めようとしましたが、ハリルさんはそれを制して自分の言葉で話していましたね。サッカーに対する愛情の深さと、彼のパーソナリティの強さを改めて感じました。

「広報はたぶん答えて欲しくなかっただろうけど、ハリルさんの答えは本当に賢かった。彼は情熱的な人ですが、サッカーで、そして人生において、あのようなパッションはとても大事だと思う」

ーー隣り合った国や民族同士の対立についてあれほどしっかりとした意見を持っているのは、1人のボスニア人としてユーゴスラビア紛争を経験しているからこそかもしれません。もちろんサッカーに政治を持ち込むべきではないですが、ハリルさんの経験がなければ、あのようなしっかりとした考えを持てていたかどうか…。

「間違いないね。日本に来る東ヨーロッパの選手や監督は、よくあのような話をする。政治とスポーツの関係や、スポーツの社会的な意味を誰よりもわかっているし、サッカーがピッチに入ってしまえばそれだけで人と人をつなげることもわかっていると思う。もちろんサッカーの記者会見であのような質問は必要ないけれど、『ノーコメント』よりポジティブな答えの方が良いね」

ーー間違いないですね。逃げるのではなく自分の考えを伝えるのはとても重要なことで、あの言葉で勇気づけられるひともいたはず。みんなが幸せになるコメントでした。

「そうですね。ハリルが言った通り今は『少しおかしくなった世界』ですが、もし皆にもう少しあのようなポジティブでオープンな考え方があったら、より良い世界になると思う」

ーー難しい試合でしたが、とにかく今日は勝ってよかったです。韓国が初戦でつまづきましたし、日本の優勝と中国戦の勝利を願って。お疲れ様でした!

「もし優勝できれば皆がもっとハッピーになれるね。お疲れ様でした!」

▽語り手:ショーン・キャロル
1985年、イングランド生まれ。2009年に来日。「デイリーヨミウリ」「Jリーグ公式ウェブサイト」などにも寄稿。高校サッカー、Jリーグ、日本代表など幅広く取材している。過去にはスカパーのJリーグ番組出演も。

text by 編集部