希代のリスクテイカー、西田元東芝社長が死去
「とにかく金をできる限り集めろ」(同社幹部)という大号令がかかり、年度末に向けた運転資金に大きな支障は出なかった。
「東芝さんは本当に資金余力がないんですね」―。昨年から買収交渉が続く原子燃料工業。同社の親会社である住友電気工業と古河電気工業の関係者は、金額提示の低さが合意の阻害要因になっているという。
もはや時価発行増資やCB(転換社債型新株予約権付社債)などのエクイティ・ファイナンスなしでの財務の立て直しは困難というのが共通のコンセンサス。焦点は金額。最低3000億円、08年度の業績着地次第では5000億円という数字も考えられる。
東芝は1月末に発表した収益改善策で、固定費を08年度比で3000億円削減。2010年3月期には営業損益で最低でも黒字転換を目指している。
本来ならNAND型フラッシュメモリーは、収益の戻りが早い事業。減産効果でスポット価格は反転しているが、大口顧客の動きは鈍い。しかも投資が抑制される中で、需要回復期に韓国サムスン電子に競争力で後れをとる可能性もある。
原子力事業を中心に社会インフラは安定収益が見込めるのは確か。原子力ではカザフスタンの国営企業と提携するなど原料からアフターサービスまでの一貫体制を築きつつある。
米ウエスチング・ハウス(WH)買収の投資回収期間も当初の17年から13年に短縮。しかし原子力が収益に本格的に貢献するのは、早くて2012年以降だろう。
自力成長を待つ余裕はない。そこで考えられるのが、優良事業や子会社の売却で現金を得るという選択肢。東芝テックや東芝エレベータなどは保有株の放出でそれぞれ300億―500億円程度の現金が入るとみられる。ただ現時点で「(これらの)売却の予定はない」(東芝首脳)という。
もう一つ注目されるのが原子力事業のハンドリング。WHに対しては現在、子会社を通じ67%の株式を保有している。WHの資本を触媒に東芝連合の形成に動けば、短期・長期でメリットを享受する戦略も可能だ。
今回、蒸気発生器などを調達するIHIの社外監査役に、西田社長の腹心である能仲久嗣副社長を送り込むことを決めた。まさに両社の連携強化は、佐々木次期社長の手腕が生きる場面だ。
半導体再編、主導権とれず
「日本の半導体産業の生き残りも考える。日本は企業数が多い」―。1月29日、収益改善策の発表と同時に飛び出した西田社長の半導体再編への意欲。システムLSIとディスクリート(個別半導体)事業は他社との再編を念頭に分社も辞さない考えを表明した。
原子力を中心とした社会インフラと半導体は成長の両輪のはずだった。ところが今や赤字を垂れ流す半導体事業のテコ入れは最大の懸案事項。すでに事業売却に動いている富士通、赤字子会社を抱えるNECなどの首脳からも、再編に対し以前よりも柔軟な発言が聞こえるようになった。
半導体の売上高で世界3位の東芝。ここ数年、日本の半導体産業をリードしてきたが「現時点で東芝に再編の主導権があるとは到底思えない」と国内半導体大手幹部は指摘する。
まず候補に挙がっているのはNECエレクトロニクスとのシステムLSIの事業統合。先端プロセスを共同開発しており理想的な組み合わせに思える。
ただ、今のところ東芝はシステムLSI事業を連結対象から外す考えはなさそうだ。当然、他社との激しい競争は続き、また東芝の財務体質の抜本的な改善にもつながらない。