数十の「世界初」 全固体電池で革新
トヨタはHVをはじめとする電動車両の中核技術として「モーター」「インバーター」「電池」の3要素を掲げ、それぞれ初代「プリウス」の発売から20年間にわたって性能の向上とコストダウンを進めてきた。

 まずはモーター。小型軽量化を進めたことなどで、4代目プリウスでは初代と比べ回転数で、約3倍の毎分1万7000回転を実現。体積当たり出力を4倍に高めた。

 電池からの電力をモーターに伝えるインバーター(パワー制御ユニット)も大幅に改良した。4代目と初代で出力密度では実に2・5倍の差がある。昇圧コンバーターの採用などが主なブレークスルーのポイントだ。

 電池開発では3代目まではニッケル水素電池のみを採用。電池の高出力化、小型化に加え、周辺部品や制御ユニットの小型・軽量化も進めた。4代目は車のグレードに応じニッケル水素電池とリチウムイオン電池の2種類を用意し、出力と容量のバランスを取った。

 これら20年間で実用化した技術の中には数十もの「世界初」が含まれる。モーター、インバーター、電池の3要素を自前で手がけて高度化しつつ、サプライヤーと一体でのコストダウンが現在のHV市場を席巻するトヨタの足元を支えている。

PHV、EVなど普及のカギは「電池」
一方、世界各国で排ガス規制やHV以外の代替エネルギー車普及に向けた規制が強化されつつあり、トヨタには“向かい風”が吹く。今後はHVに続く環境車としてPHVやEV、FCVを本格的な普及商品として育てる必要性に迫られる。

「モーターやインバーターの改良には限界もある」(トヨタの技術幹部)中、次世代エコカーを普及させる鍵となるのは電池の革新だ。トヨタの安部静生常務理事は「20年間培ってきたHVシステムや部品は基本的にそのまま使い、変化が大きい電池の開発に注力する」と話す。

10月下旬の東京モーターショーでトヨタのディディエ・ルロワ副社長が20年代前半の実用化目標を明言した全固体電池。電動車両の航続距離を伸ばし、充電時間の大幅な短縮にもつながると期待される。同電池の試作品はすでに完成し、技術者200人以上の体制で量産に向けて開発を急いでいるという。

電池性能が上がればEVに限らずPHVやFCVの性能向上も可能だ。トヨタは全固体電池以外にもマグネシウム電池や複数の材料を研究するほか、環境技術などで業務提携する独BMWとはリチウムと空気(酸素)を反応させる「リチウム空気電池」も共同研究している。電池開発に携わるトヨタ幹部はこう表現する。「リチウムイオン電池の後継としてさまざまな材料を研究する中で、実用化に一歩前進したのが全固体電池だ」

(文=名古屋・今村博之、同・杉本要)