厳しい寒さと冷たい雨の中、なでしこジャパンのEAFF E-1選手権が幕を開けた。高倉麻子監督が就任して2年目。目に見える結果が欲しいこの大会で、重要な韓国との初戦は互いにゴール奪取のシーソーゲームとなった。


韓国戦で動きがピタリとはまり先制点を決めた田中美南

 開始直後、いきなり日本がスコアを奪う。長谷川唯(日テレ・ベレーザ)が相手を十分に引きつけると、左前方へ走り込んだ万屋美穂(ベガルタ仙台)へパスを通す。そのままファーサイドへのクロスに田中美南(日テレ・ベレーザ)が頭で合わせて先制弾を決めた。しかし、すぐさまPKを献上して同点に追いつかれてしまう。

 後半には中島依美(INAC神戸)のゴールで勝ち越したが、また直後に失点。そのままドローに持ち込まれそうなムードを一蹴したのは、岩渕真奈(INAC神戸)だった。中島の強烈なミドルシュートがバーを叩くと、跳ね返りを狙って走り込んでいた岩渕の足元へこぼれる。左足タッチで相手DFの逆を突き、流れを止めることなく右足を振り抜いた。ヨルダン遠征からの連続弾となる岩渕のゴールが決勝点となり、日本が大事な初戦をモノにした。

 試合は、これまで時間を要していた先制点を早々に奪ったものの、すぐに失点という、思わぬ展開で進んだ。素早い寄せと粘りの守備を見せる韓国にバタつき、阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)があちらこちらに顔を出しながらボールを落ち着かせようとしていた前半。その中で冷静に相手を見切っていた選手がいた。田中だ。おそらく、高倉監督がここまでに最もチャンスを与えた選手だろう。しかし、これまで期待に沿える活躍ができなかった試合の方が多かった。

 決定機を外し、チームの勝利を悔し涙で相殺してしまうこともあった。そんな田中がこの日は違った。もちろん彼女の先制ゴールはチームに活気を与えるものだったが、何より違っていたのはそのファーストタッチ。雨の中のスリッピーなピッチ上で、見事にコントロールしていた。ファーストタッチで衝撃を吸収し、ロスなく逆足で相手をかわす――田中のイメージそのままがプレーに現れていた。

 ヨーロッパ勢との対戦ではどうしてもうまく収まらず、ボールを失ってしまう。タイミングなど特に変えてはいなかったという田中。そうであればアジアの間合いは田中向きということだ。感覚を掴んだ田中は、ボランチと相手DFの間で貪欲にボールを要求した。「今日の相手はなぜか当たりが”強い”とは感じなかった。楽しかったです」(田中)

 この日、周りがバタつく中、自身が欲しがって得たボールを田中が失うことはなかった。欧米国との対戦も重要だが、アジアを制すことなく世界への扉は開かない。自分の技術が有効な相手を知っておくことも必要だ。さらに言えば、これを軸に欧米諸国との対応に変化を加えていけばいい。この試合での感覚をどう発展させていくかが今後の田中自身の課題となる。

 試合内容は理想形には遠く及ばなかったが、何より2度追いつかれる苦しさの中、勝ち切ったことは大きい。後半に投入された中島の2得点に絡む活躍は、まさに指揮官が目指す「誰が出ても戦えるチーム」の片鱗だ。さらに決勝ゴールはヨルダン戦で覚醒の予感を見せていた岩渕が「依美ならシュートを打つと思った」とこぼれ球を狙いすましたものだった。絶大な信頼を得て送り出された者と、ゴールを決めるべき者。ここにも連係は見えた。

 対して守備では大きなトライが行なわれた。「私自身も怖いところはあった」と高倉監督も振り返るように初戦に抜擢したのはフレッシュな面々だった。ヨルダン戦に続き、両サイドバック(SB)に大矢歩(愛媛FC)と万屋を、センターバック(CB)に三宅史織(INAC神戸)、もうひとりのCBに鮫島彩(INAC神戸)という人材が配置された。「もっと(CBを)勉強する時間が欲しい!」と試合前に語っていた鮫島。プレーが止まるのを見計らって、ラインのポジションやプレスのタイミングを話し合う姿が何度も見られた。

 2失点に関しては、フレッシュさの代償とも言える形だったが、原因が明確な失点だったことが救いだ。日頃FWを務める大矢は、背後の守備意識の概念を覆されたことだろう。三宅は積極的に奪うポイントの限界点を体感したはずだ。万屋も攻撃参加のタイミングと守備のバランスを会得中であるし、鮫島も自身のスピードと三宅の高さを生かす守り方を模索している。それらを経験値の高い阪口、宇津木瑠美(シアトル・レインFC)のボランチコンビがケアしていたわけだが、この2人にしてもコンビを組むのは久しぶりのことだ。これらを差し引けば多少のバタつきは致し方ないのかもしれない。

 一貫していたのは、”中途半端なことはしない”ということだった。不用意なミスはいただけないが、勇気ある失敗はあってしかるべき。失敗は狙いがあってこそ生まれるもの。プレーを中途半端にしては狙いが見えない。それはすなわち対策も立てられずチームの方向性がボヤけることに直結する。韓国戦は凡ミスで肩を落とすことも多かったが、これまでよりも多くの”失敗”があちらこちらにあった。これはこの後の2戦に大いに役立つはずだ。

 アジアとのギリギリの戦いの中で、多少でもようやくチームらしさ出せるようになってきた。次の中国戦は新たな布陣で臨むことになるだろう。そこにも可能性の欠片(かけら)が散らばっているはずだ。

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