近頃、「誤嚥性肺炎」の病名がよく聞かれるようになったが、専門家に言わせると、多くの誤解もあるという。
 「誤嚥性肺炎について、食べ物が気管の中に入り込むことで口の中の細菌が肺まで到達し、炎症を起こすと考えている人がいますが、それは誤解です。主に、唾液や痰などの微量誤嚥が原因で、寝ている間に肺に入り込むことにより肺炎を発症することが多いのです」
 こう説明するのは、東京都立多摩総合医療センターの呼吸器科担当医だ。

 誤嚥は健康な人でも起こるものの、咳やむせかえり(咳反射、嚥下反射)によって排菌できる。雑菌が気管や肺に入り込んでも、血液中の貪食細胞などが退治するため肺炎は発症しない。
 「しかし、これが高齢者になると、咳やむせの動きが抑制される上、気道の一部が壊れていることから、雑菌が定着しやすくなってしまう。これに、風邪症状を起こす上気道感染や飲酒などの要因が加わることで、自分でも気付かないうちに誤嚥を起こし、肺炎の原因となるのです。胃に直接栄養を流し込む胃ろう(切開で胃に管を通す)の処置を取っても誤嚥性肺炎が起こるのは、食べ物と関係がないケースがあるからです」(同)

 肺炎は一気に高熱が出て、空咳、息切れなどに苦しむイメージがあるが、誤嚥性肺炎の場合はそれとは異なり、気が付くまでに時間がかかるのが特徴だ。
 昭和大学病院呼吸器科の医師は、通常の肺炎との違いを、次のように語る。
 「普通の肺炎は2〜3日で一気に菌が増殖しますが、誤嚥性の場合の時は1週間ほどかかるケースが多く、その後、一気に発症します。高齢者は感覚が鈍くなっていることもあり、いつ発症したのか分からないまま病状が進行しているケースが少なくありません。医師に『なぜこのようになるまで放っておいたのか』と言われる場合も多々あるのもこのためです」
 まとめれば、老化に伴う体力の低下による咳の威力低下、そして免疫力の低下が肺炎リスクを高めるわけだが、言い換えれば、年を重ねれば、誰でも無条件で誤嚥性肺炎のリスクが高くなることを意味しているのだ。

 そんな誤嚥性肺炎のシグナルは、以下のようなものだという。
 ・なんとなく気分が優れず倦怠感があり、食欲もない。
 ・食事中や飲み物を飲んでいるときに、咳込むことが多くなった。
 ・唾液が上手く飲み込めず、常に喉がゴロゴロしている。
 「そうした状態から進行すると、気管に何かが入り込んでもむせなくなってしまうのです。こうなると誤嚥性肺炎を繰り返すことが多くなってしまう。特に液体、その中でも“水”を飲む際には注意が必要です。水は刺激がなく、一気に飲み込むことができるため、これが咳き込むことにつながってしまうからです」(医療関係者)

 事実、誤嚥を訴える患者に対して、病院や高齢者施設で出される食事には、ゼリー状のとろみをつけたものが多い。これも誤嚥性肺炎の予防の一つではあるが、それは最終手段であって、まだ自宅ですごしている高齢者は、まだまだそのような対策を取ることはないだろう。
 「肺炎は現在、死因において第3位。それまで3位だった脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)は、4位に落ちています。その背景には、生活習慣病対策としての「血圧の管理」が、上手にできるようになったためとも言われている。一方で、肺炎が増えているということは、喉や呼吸器の管理がまだ上手くできていない証拠とも言えます」(同)

 もう一つ、誤嚥性肺炎の引き金になる場合として注意したいのが、うつや不眠などの治療薬として、抗不安剤や精神安定剤、睡眠薬などを服用しているケースが多いことだ。
 「これらの薬は呼吸を抑制するばかりでなく、大脳基低核(大脳皮質と視床・脳幹を結び付けている神経核の集まり)に作用して、ドーパミンの分泌が減り、サブスタンスPという物質の量を減らす。この物質は、食べ物を飲み込んだり、咳をするように神経に働きかけをするもので、減れば当然、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなるのです」(同)