汚れ一つない環境で育てるのがいいとは限りません(写真:farmer / PIXTA)

近年の研究で、人間の体に棲みついている微生物の多くはわたしたちの健康に欠かせない存在であることがわかってきた。その大切なパートナーを「清潔すぎる」環境によって失っていることに警鐘を鳴らす科学者もいる。
特に乳幼児の成育過程における過度な除菌や消毒は、子どもたちの生涯の健康に悪影響を及ぼすというから注意が必要だ。ぜんそく、アレルギー、うつ、そしてADHD(注意欠陥・多動性障害)までもが、そうした微生物、とりわけ腸内細菌の貧弱さによってもたらされうることもあることが明らかになっている。では、いったいどこまできれいにすればよいのか?
「子どもを極端に清潔な環境で育てていいのか」(12月2日配信)に続いて、『「きたない子育て」はいいことだらけ!』の著者が答える。

見ただけではわからない汚れもある

「汚れているものを子どもが触っても大丈夫でしょうか?」という質問を受けることがあります。

まず、あらゆる汚れが同じではないし、病気のリスクも同じではありません。汚れたものを見ただけで、どれに病原菌がついていて、どれについていないかを正確に知ることはほとんど不可能ですが、部分的な情報は得られます。

嫌なにおいがしたり、ねばねばしていたり、(傷口が)炎症を起こしたりしているように見える場合には、よくない微生物がいる可能性があります。これは特に食品の場合には重要です。食品には病気の原因になる細菌が育ちやすいので、においや見た目から腐っていそうな食品には触らないようにしましょう。賞味期限にも注意して、適切に調理しましょう。子どもには、どんな場合でも傷口や体液に触らせないほうがよいのですが、特に病気の人の傷口などには注意してください。

都市に住むなら、大前提として、どんなときでも感染症にかかっている人が大勢いると考えなくてはなりません。幼い子どもと一緒にニューヨーク市地下鉄に乗っているところを想像してみると、感染症にかかっている人が同じ車両にいる可能性はかなり高いでしょう。あるいは、地下鉄に乗ってはしゃいでいる子どもが、しきりに触っているその窓ガラスに、さっきまでその車両にいた人がくしゃみをして飛び散らせた大量のウイルスが残っている可能性も大いにあります。だとしたら、地下鉄や他の公共交通機関を利用するのは避けるべきでしょうか? あるいは、たくさんの人が行き交う場所で何かに触るたびに、必死になって消毒用ハンドジェルを使うのがいいのでしょうか?

もちろん、そんなことはすべきではありません。ニューヨークで地下鉄に乗るのに重大なリスクが伴うほど感染症にかかりやすければ、人間は何千年も昔に絶滅していたでしょう。人間の免疫系は強力なので、このようなかたちでの病原体との接触には対処できるのです。

とはいえ、人口密集地域にいる場合には、感染のリスクを抑えるために衛生習慣を守ったほうがいいでしょう。つまり子どもには、そういう場所では床で遊んだり、そこにあるものをなめたりしてはいけないことや、家に帰ったときや食事の前には(通常のせっけんと水で)手を洗うことを教えましょう。

自然のなかで遊ぶときには?

一方、子どもたちが自然のある場所に散歩に行ったり、そこで遊んだりするときには、話はまったく違ってきます。そういう場所では、病気の原因となる微生物に感染するリスクは大幅に低くなります。

動物のふんはダメですが、子どもたちには、土や泥、木や草、昆虫など、何でも触りたいものを自由に触らせても大丈夫です。子どもたちが汚れたら、衝動的にすぐにきれいにしてしまわないようにします。実際のところ、いまの子どもたちは昔の子どもに比べて、外で過ごす時間がとても少ないので、外にいるその短い時間には泥だらけで遊ばせるのが理想的です。

次に公園か、ハイキングに行くときには、水の入ったバケツと、シャベルを用意することをおすすめします。数分もしないうちに、ほとんどの子どもが泥まんじゅうをつくり始めるか、自分の(そしてあなたの)顔に泥を塗りたくろうとするはずです。土が子どもの口に入っても、ぎょっとしないこと。彼らはすぐに、土はそれほどおいしくないと気づきますから、口に入れるのが癖になることはまずありません。

たいていの子どもには泥だらけになりたいという本能的な欲求があるのですが、現代の暮らしのなかではそうした欲求は親が育ててやらなければなりません。

「哺乳びんを殺菌する必要はありますか? 必要だとしたら、何歳までするべきですか?」という問いも少なくありません。

赤ちゃんの哺乳びんは必ず殺菌すべきという考えに慣れている多くの人たちにとって、この質問への答えはショックかもしれません。

現在、アメリカ小児科学会(AAP)は、子どもが何歳であろうと、哺乳びんを殺菌することをすすめてはいません。同学会が推奨しているのは、哺乳びんを最初に使う場合、あるいは自宅で使っている水が飲料水として安全ではないとみなされる場合には、沸騰したお湯の中で殺菌洗浄するか(ストーブトップ法)、食器洗浄機の熱湯モードで洗うということだけです。

自宅の水が飲用に適しているのなら、哺乳びんや乳首を洗うのにも十分安全です。赤ちゃんに離乳食をあげるのに使うスプーンやフォーク、皿、そしておしゃぶりや歯固めも同じで、どれも水と洗剤で洗えば十分でしょう。ただし、ミルクの残りが哺乳びんや、付属品の隅やすき間に付いているとそこで細菌が繁殖するので、その部分はしっかり洗うようにしてください。哺乳びん用ブラシを使うとよいでしょう。

哺乳びんや食器類の消毒はそれほど几帳面にやらなくても大丈夫だと思えるようになる研究結果もあります。スウェーデンのヨーテボリ大学の科学者チームが1000人以上の子どもを対象とした調査データを分析したところ、お皿を食器洗浄機ではなく手洗いしている家の子どもは、就学年齢に達するまでにアトピー性皮膚炎を発症するケースが少ないことがわかりました。

この研究では、家にペットがいることや、母乳保育をしたことなど、ぜんそくやアトピー性皮膚炎のリスクを低くするほかの要因の影響を取り除いているので、結果の信頼性は高いといえます。この研究が示しているのは、あまり効率のよくない皿洗い方法を採用したほうが、幼いうちに微生物に接する機会が多くなるということです。

アレルギーやぜんそくから子どもを守るためには?


微生物に接する機会が多ければ、アレルギーやぜんそくから子どもを守れることがわかっています。食器洗浄機なんていらないというわけではありませんが、時には食器を手で洗ってみるのもいいでしょう(食器洗浄機のありがたみもよくわかります)。

「赤ちゃんや子どものおもちゃはどのくらいの頻度で洗うべきですか? そのときには何で洗えばいいですか?」と聞かれることもあります。

これはよく聞かれる質問です。そして「毎日、または毎回使った後に洗うべきですか?」とか、「ふつうの消毒剤、それとも漂白剤?」などと、具体的に聞いてくる人が多いのです。まず、おもちゃは目に見えて汚くなるまで洗う必要はありません。ただ、病気の子どもがそれで遊んだときには洗ったほうがいいでしょう。

なにで洗うかということですが、水と洗剤で十分すぎるくらいです。消毒剤や漂白剤に入っているような化学薬品は強すぎるので、おもちゃをきれいにするときや、子どもが遊ぶ床などをきれいにするのには必要ありません。この質問は筆者らにとっては、赤ちゃんは汚れ一つない環境で遊び、育つ必要があるとする考え方が、いかに広まっているかを実感させられる質問の1つです。