伊勢丹新宿本店はいまだ日本一の売り上げを誇るが…(撮影:編集部)

百貨店国内首位の三越伊勢丹ホールディングスが、今冬のバーゲンセールを2018年1月4日から開始することが明らかになった。

同社は2012年夏から同業他社よりも2週間ほど遅れて夏と冬の年2回のセールを実施してきたが、約6年ぶりに他社と同時期に開催することになる。「年明けから顧客の春物商品への関心が高まる。冬のセールを前倒しし、春物を展開する期間を増やしたい」と、同社の広報担当者は説明する。

百貨店各社は売り上げが落ち込む中で少しでも需要を喚起しようと、夏と冬のセール時期を前倒ししてきた。この流れに異を唱えたのが、大西洋・前社長だった。

セールの後ろ倒しは、百貨店の“再興”を目指した大西氏にとって、独自商品の拡充と並び象徴的な施策の一つだった。今回取材に応じた大西氏は、「需要最盛期に適正価格で販売するのは当然のこと。顧客の価格への信頼も取り戻したかった」と思いを打ち明ける。

就任当初から検討

だが、大西氏の後を受けた杉江俊彦社長は、今年4月の就任当初からセール時期を戻すことを検討していた。同社幹部は「セールの準備には半年程度かかる。当初は今夏も前倒しする方針だったが、間に合わなかっただけ」と明かす。今冬に限らず、今後のセール時期は他社と歩調を合わせることになりそうだ。

背景にあるのは、やはり売り上げの不振だ。足元でこそ、訪日客の消費拡大で都心店は回復基調にある。しかし、杉江社長就任時は売り上げ不振に苦しんでいたうえ、またいつ好環境が逆回転するかわからない。

セールの後ろ倒しには、他社が大々的にセールを行う間も正価で勝負できる販売力が必要になる。特に問題なのは不振の続く地方店。地方店からは「セール時期を戻してほしいという声が上がっていた」(幹部)。


11月に中期計画を発表した杉江俊彦社長。だが、計画は具体策に乏しいものだった(撮影:今井康一)

在庫処分を優先する側面もある。大西路線から決別しリストラを急ぐ杉江社長は、独自商品の拡大を見直す一方で「今期はこれまでにない規模で在庫処分をする」と宣言。セールはその絶好の場となる。

取引先のアパレル各社も、三越伊勢丹の方向転換を歓迎する。あるアパレル関係者は「他社と時期をずらしてのセールは、その対応に手間がかかっていた」と話す。ネットでの衣料販売が急拡大する中で、三越伊勢丹だけを特別扱いする意味が薄れていた面もある。

見えない営業力強化の道筋

セール時期の後ろ倒しは、JR東日本傘下のファッションビル、ルミネも取り組んできた。大西氏とともに陣頭指揮に当たった花崎淑夫・元ルミネ会長は、「商品の魅力を高めて正価で売るのが商売の王道。ファッションのビジネスモデルを変える最後のチャンスだった」と指摘する。ただそのルミネも、冬のセールに関しては昨年から通常時期に戻している。


当記事は「週刊東洋経済」12月16日号 <12月11日発売>からの転載記事です

セールの後ろ倒しは、勝ち組だからこそできる戦略だった。だが今の三越伊勢丹にはその余力がなくなっている。そして営業力強化の道筋は見えないままだ。

社内では別の異変も起きている。年始の仕事始めに流す恒例の社長メッセージを取りやめるというのだ。商売のしきたりを重んじる百貨店にとっては異例中の異例。関係者からは「トップが何をやりたいのかが見えない」という声が多い。杉江社長は次の営業戦略を早急に提示する必要がある。