自分が書いた原稿を、トランプ大統領のツイッターとして投稿する弁護士まで登場したが…(写真:ロイター/アフロ)

バラク・オバマ政権の元国防情報局長官、ドナルド・トランプ政権の前大統領補佐官(国家安全保障担当)であり、両政権下で事実上解任の結末を迎えたマイケル・フリン氏が、12月1日、連邦捜査局(FBI)に対して、虚偽の供述をしたとして有罪を認めた。そして、ロバート・ミュラー特別検察官の捜査に全面協力することを明らかにした。

多数派「反トランプ」メディアの過剰演出


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このニュースは米メディアで大きく報道され、日本でも3日の朝刊で大々的に報じられている。同日の朝日新聞は1面トップで「ロシア疑惑捜査 核心へ」の大見出しを打った。

日本メディアの報道は、米メディアの報道をなぞった内容となっていると言っていい。だが、今回のフリン氏の「有罪答弁」をめぐる米メディアの報道には、大前提となる米国憲法と刑法の解釈に誤解があり、その誤解を生んだ最大の原因は、ミュラー特別検察官の「中立性」の著しい欠如にあると筆者は分析している。その「中立性」の欠如については、前回の本欄「トランプ大統領の支持率が上昇しているワケ」および前々回の「日本のメディアが見逃した『トランプの幸運』」で詳述した。

今回のフリン氏の「有罪答弁」をめぐって問題なのは、特別検察官の「絶対条件」である「中立性」を著しく欠くミュラー氏を、無批判に持ち上げる多数派の「反トランプ」メディアが、誤った法解釈論をイメージ操作し、さらに、フリン氏と「司法取引」したミュラー氏を、あたかも法の天才であるかのように、過剰演出した点にあるのではないか、と筆者はみている。

今回は、筆者のウォール街弁護士としての経験をもとに、その真相を解き明かしたい。実は、ミュラー氏は法の天才どころか、それにはまったくほど遠い存在だ。そのことを白日の下にさらしたのは、もちろんメディアではない。長年にわたって全米にその名を知られた天才・法学者である。

フリン氏の「有罪答弁」がメディア報道された12月1日の夜、フィラデルフィアのCBSラジオで極めて重要な放送があった。それはハーバード・ロースクールの名誉教授で、これまで数々の著名な刑事事件の実務を成功裏に手掛け、憲法学の権威として名高いアラン・ダーショウィッツ氏のインタビューだった。

同名誉教授は、その放送で、フリン氏が政権移行期に、たとえば、ロシア大使と意見交換したり、ロシアと協議したりするのは、ごく自然なことであるにとどまらず完璧に合法であり、フリン氏はうそをつく必要はまったくなかったと断言したのだ。

さらに、同名誉教授は、FBIに対して虚偽の供述をしたという「有罪答弁」を、特別検察官が引き出すなどというのは、どんな検察官も決してやりたいことではないと明言した。ミュラー特別検察官としては、政権のほかの人間を巻き込む形で、話を広げたかったのだろうが、それができなかったために、やむなく、そうせざるをえなくなったのだろう、とミュラー氏の胸の内の葛藤を、同名誉教授は見事に推理した。

すなわち、「ミュラー氏はその弱みを見せた」と、同名誉教授は明快に語ったのだ。なぜなら、虚偽供述を認めさせたことで、客観論理として、フリン氏をまったく信頼できない証人にしてしまったことになるからだ。今後、フリン氏のあらゆる証言の信用力が一気に薄れ、証言そのものが通用しなくなる可能性が高い。

弁護士がトランプ氏の名でツイッターに投稿

この名誉教授のラジオ・インタビューをネット放送で聞き、筆者は「なるほど」と思った。それは、筆者だけでなない。トランプ氏個人の弁護士の1人もそう思ったのであろう。というのは、その弁護士は、名誉教授の放送内容がネットで公表され全米で高い注目を集めた10時間後に、ツイッターを書いて公表しているからだ。

そのツイッターの投稿者名は何とトランプ大統領だった。その弁護士がトランプ氏の名でツイッターに投稿したのは、これが初めてだったという。

実は、そのツイッターの内容で、米メディアが、まるでハチの巣をつついたような騒ぎとなった。弁護士が作成したツイッターは、トランプ氏のツイッターの持ち味である「攻めの論理」も「タフな迫力」もなく、違う趣の美文調だった。そのためか、「反トランプ」メディアに勝手に解釈され、メディアを勢いづかせた。

その物議をかもしたツイッターは以下のとおり。誤解のないように原文で紹介する。

I had to fire General Flynn because he lied to the Vice President and the FBI. He has pled guilty to those lies. It is a shame because his actions during the transition were lawful. There was nothing to hide! 

和訳は以下のとおり。

「私はフリン将軍を解任しなければならなかった、なぜなら、彼は副大統領とFBIにうそをついたからだ。彼は、それらのうそに有罪答弁をした。それは情けないことだ。なぜなら、政権移行期の彼の行為は合法的だったからだ。隠すべきことではなかったのだ!」

そのツイッターを見た途端に、筆者は、これはトランプ大統領によって書かれたのでないとすぐにわかった。because(なぜならば)を繰り返す文章は、実務的なビジネス界で勝ち抜いてきたトランプ氏のものというより、抽象的で理屈っぽい世界にいる人のものだと直感した。

案の定、トランプ氏個人の弁護士の1人が名乗り出て、ラジオ放送にせよ、ほかのソースにせよ、名誉教授の意見を順に述べるだけでなく、フリン氏が副大統領にうそをついた話をつけ足して、ツイッターに仕上げたという内容のニュースが報じられた。

弁護士はすぐに謝罪

その弁護士は、すぐに謝罪した。ツイッターは、自分が書いてトランプ大統領のツイッターとして載せたという。この弁護士のような訴訟弁護士は、多かれ少なかれ、物事を覆いかぶせるように語る癖がある。その癖で名誉教授の言葉に、「副大統領」を付け加えてしまったのだ。

その筆の誤りの原因は、この訴訟弁護士の頭脳の回転速度が、使い慣れないツイッターの140字には到底収まりそうにないほどの猛スピードだったからではないか。長年、多くの訴訟弁護士と仕事をしてきた経験から、筆者にはそう思える。

今年2月、トランプ大統領は、フリン氏が副大統領に対して話した事柄が理由で、フリン氏を解任したと明快に言った。また、そのときのトランプ発言では、「I fired him」(彼を解任した)だった。弁護士のツイッター発言では、「I had to fire General Flynn」(フリン将軍を解任しなければならなかった)となっている。

その弁護士がわざわざ「I had to fire〜」という、もって回った理屈っぽい表現を使ったことで、トランプ大統領のタフな持ち味が台なしになってしまった。「テレビ人」でもあるトランプ氏には、「You are fired」(お前はクビだ)という「決まり文句」がある。それに比べて、「I had to fire〜」(クビにしなければならなかった)では、何とも、まわりくどくて、いただけない。

トランプ大統領には「自分だけが重要人物だ」という名セリフを、いとも簡単に言ってのける大胆さがある。そんな自信たっぷりのトランプ氏のツイッターには、弁護士が作成したツイッターとは180度違う、強烈な個性の輝き、パンチ力があるのだ。

結局、弁護士は自分が勝手に書いてしまったと、メディアに謝るハメになったのだが、きちんと謝罪したのは立派だった、と評価されるべきだろう。日本では、感覚的な伝聞から、米国人は謝らないと誤解している人たちが多いのだが、米国人は謝罪するときは謝罪する。法律家でも例外ではない。最高裁判事が、法廷で弁護士の1人の発言をうっかり遮り、「I am sorry」という、響きのいい声を聞いて、筆者は大いに感銘を受けた覚えがある。

トランプ氏個人の弁護士は、謝罪したあと、さっそく名誉教授と軌を一にする米国憲法上の論理、つまり、大統領は行政権そのものであり、司法妨害にならないという論理を幅広く展開し始めている。

筆者は、名誉教授とは事件を通じて一緒に仕事をするような機会には恵まれていないが、世に有名な「クラウス・フォン・ビューロー事件」で、主任弁護士として名誉教授と共に働いたトム・プッチオ氏とは、長年、ウォール街で働いた仲であり、彼から名誉教授のすばらしい才能と人柄について、何度も聞いている。プッチオ氏の、名誉教授のことを静かに語るときの尊敬の表情が忘れられない。

「中立性の欠如」これに極まる

米国3大ネットの1つであるABC放送は、つい最近、ミュラー特別検察官チームの捜査費用がすでに500万ドル(約5億6000万円)を超えたと報じている。そんな状況下、FBI組織の命令系統から離れ、ミュラー特別検察官のお気に入りの部下として、重要捜査の責任ある地位にいたFBI捜査官が「親ヒラリー」で「反トランプ」という内容の、政治的に偏向したメールを交わしていたことが、司法省の「外部」監査で発覚し、ミュラー氏が慌てて、その捜査官を含む関係者の更迭人事をしたことが報じられた。

こんなことでは、500万ドル超という巨額の税金を負担してきている米国民にとっては、泣くに泣けない。

おまけに、この「親ヒラリー」捜査官こそは、2016年夏、ヒラリー氏の電子メール疑惑事案を担当し、ジェームズ・コミー前FBI長官にヒラリー関連捜査を一任されていた責任者と伝えられている。そして、「捜査終了宣言」の前提となる内容をコミー氏に報告していたようだ。

まったく何たることか。「中立性の欠如」ここに極まるという感がする。