昨年惜しまれながらも解散してしまったHaKUのフロントマン・辻村有記が2018年1月31日に、1stEP『POP』をリリースする。HaKU解散後はサウンドクリエーター、クリエイティブコンポーザーとしての海外名義「Fox.i.e」(フォキシー)でロック、ダンスエレクトロサウンドを基軸に、海外アーティストともコラボレーション。今年の夏に「辻村有記」名義でソロを始動し表舞台に帰ってきた。『POP』には先行配信された「Ame Dance」や、アミューズ所属の若手俳優が出演するイベント『HANDSOME FILM FESTIVAL 2017』の主題歌「Actions Over Words」の辻村バージョンなど全6曲を収録。EPのリリースに先駆け、辻村はワンマンライブ「Into U」を12月5日に大阪・北堀江club vijon、12日に東京・SHIBUYA Gladで開催。近未来型エンタテインメント集団“白A”とコラボし、一足早く作品の世界観を提示する。HaKU解散後の活動についてや、今作『POP』の制作背景、辻村有記としてステージに再び上がることへの想いなど話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=片山拓】

バンドでやりたいことは全部やった

辻村有記

――辻村さんの音楽遍歴を調べていたら、B'zの松本孝弘さんが好きだったというのを目にしまして、個人的には意外でした。

 はい。最初はB'zから始まりました。当時はギターヒーローに憧れていたんです。小学校6年生くらいのときに「Calling」という曲を聴いて、松本さんの弾くギターの虜になりまして、日本で一番のギタリストだと衝撃を受けたんです。そのあと、レーサーXのポール・ギルバートのギターを聴いて、Mr.Bigを聴いてと、どんどんルーツを辿っていきました。他にもAC/DCとかガンズ・アンド・ローゼズなど、ハードロックを聴くのが好きだったんです。でも、ギターが弾けなかったんですよ。Fのコードが弾けなくて(笑)。

――Fのコードはギターの最初の難関ですからね。

 そうなんです。それでパワーコードが多いヘヴィメタル、デスメタルに行って、その反動で綺麗な音楽を聴きたいと思ってR&Bなどを聴くようになりました。当時はNE-YOやアッシャーなど、ブラックミュージックも聴きながら、メタリカやパンテラも聴きつつという感じでした。
――シンガーという可能性は全く考えていなかった?

 はい、全くです。インテリアデザイナーになりたいと思っていましたから(笑)。歌うことが一番嫌いというくらいでした。

――カラオケも行かなかった?

 行くんですけど、行っても絶対歌わない人とかいるじゃないですか? そういうタイプでした。特徴的な声だからコンプレックスでもあったのですが、20歳になる前に、周りの人に歌を聴かせるタイミングがあって、「君にしかできないことだよ」と言ってもらえたことがいまだに衝撃なんです。自分にとって一番マイナスだと思っていたことが、特別なものだったと認識できたときに、音楽や歌で発信できることもあるんじゃないかなと思ったのがスタートです。

――そうしてHaKUを結成して、惜しくも解散という道を辿ってしまいましたが、バンドで求めていたことと、自分の求めていることに相違があったのでしょうか?

 合わなくなったというよりも、やり切ったという感じがありました。ひとまず自分がバンドというもので出せるものだったり、そういうものを全てこの4人でやり切ったよね、ということでした。

――悔いはない感じなのですね。

 そうですね。むしろありがたいと思います。ああいう経験があったからこそ、今があると言っても過言ではないので。

Fox.i.eでの経験がなかったら今はない

辻村有記(撮影=片山拓)

――昨年8月にラストライブをおこない、今日に至るまではどういった活動をしていたのでしょうか?

 解散する1年くらい前までは凄くアナログで、ICレコーダーをスタジオにポンと置いて楽曲制作していたのですが、その頃にMacBook Airを手に入れまして、DTMを始めました。それまでに「雑多に聴いてきた好きな音楽を吐き出したらどうなるんだろう」と思って、個人的にDTMを始めたという延長線上に、HaKUにエレクトロ要素を入れ始めたのがその頃なんです。

 解散が決まった後に、ラッキーなことに海外の人とセッションをしたり楽曲を作るという機会があって、自分は洋楽が凄く好きだったので、いつか向こうで音を出したいという気持ちがありました。それで、クリエーター、作家の方で世界に音楽を出せるようにというマインドに変っていったので、自分がもう表に出るということはないなと思っていました。

――海外のアーティストとコラボされている時に使用している「Fox.i.e」という言葉はどこから出てきたのでしょうか?

 Foxは狐という意味があって、“七変化”だったり「何者にもなれる」という感じがあります。自分が色んな音楽を聴いているなかで、ジャンルレスだなと感じて、ジャンルは何と言われてもいいから、自分がやりたいことが出せればと。自分の人物像を狐に置いて「i」が自分、「e」がエレクトロで。

 SkrillexやZEDDなどEDMがどんどん出始めて、その辺も好きだったんですけど、もっとニッチなアイリッシュ系も好きだった自分が、DTMを使って何ができるかと思ったときにできたものに、Fox.i.eとしてどんどんトライアルしている感じです。

――フィンランドの方とコラボした感触は?

 29年生きてきているんですけど、死ぬ間際に振り返って、今思い出す出来事の3つに入ってます。

――それはどういった意味ででしょうか?

 いやもう、「Sounds Good!」の連続で曲が出来上がっていくんです。でも、その裏腹にたぶん凄く怒っているなと感じる部分もあって(笑)。それを感じながらやっていました。みんな感覚で音楽をしているから、そこが凄く天才的で、敵わないなと思うこともあったし、でも勝負したいということもあって。それがお互いのモチベーションが高まったときに曲が出来ていく感じです。そこには音楽しかない、本当に凄い空間でした。あれがなかったら今はないんじゃないかなと思います。

――その経験が今作にも活きている?

 そうですね。割と大雑把というか、日本独特のきめ細やかに録っていくスタイルではなくて。ボーカルだけ16トラックも作ったりとか、フェイクを入れるだけ入れて後で選ぶとか、そういうのをやっていたのでシビれました。

辻村有記名義は覚悟の表れ

辻村有記(撮影=片山拓)

――そんな中「POP」というEPが出来ましたが、何故「POP」というタイトルを?

 一周まわってこの言葉がエモいというのがあります。自分がポップって言えるんだというのがひとつあるのと、POPという言葉の定義が、日本では「側にあるもの」だったり「流行もの」だったり、「その時代を象徴するもの」という意味があると思っているんです。その中で、僕は色んな音楽が好きで、全部が自分の時代の中で象徴している音楽なんです。自分の側にある音楽全部がポップだなと思っています。

――確かに象徴しているものという意味でしっくりきます。では、Fox.i.e名義から辻村有記に変わったのは何故でしょうか?

 自分で歌うとなると、まだ分かれている部分があるんです。向き合っていることが違うと言いますか。キャッチーなメロディを乗せるということを辻村有記名義ではやっているんですけど、Fox.i.eはもっとニッチな世界でという感じで。もうステージに上がることはないかなと思っていたときに、自分はラッキーなことに「歌えよ」と言ってくれることがあって、その後押しがあってステージに今向き合うことができたんです。

 一度ステージを降りた人間がもう一回上がるのは凄く努力が必要だし、考えなければならないことがあって難しいと思います。でもそんな中でも、もう一度飛び込んで行ってもう一回やるとなって、周りの人も付いてきてくれるというなら、自分も逃げない方が良いなと思って、自分の名前を掲げてやるという覚悟の表れなんです。

――8月9日におこなわれたライブ『SHOWCASE - U - at 渋谷WWW』は相当の決意で臨んでいたわけですね。

 そうですね。行動に移さないと、と思っていたのでアルバムなど作品を出す前にライブをやっちゃおうということでステージに立ちました。ギターロックというイメージで見るお客さんもたくさんいたと思うし。

――まさかのドラムと辻村さんの2人でしたね。

 その状況で新曲を延々とやるという…。その時は今作にも収録されている「Ame Dance」「How Are You」「I Won't Forget」はやりました。全く新しい形でやって、あのときの緊張した感じといったらなかったです。そういうこともあって、行動に移すというのが今の自分には合っているのかなと思いました。

――今作で重要視したところは?

 声を届けることを大事に考えています。伝えたい言葉があって、声で言葉を伝えたいと思いました。でも、それを伝えるために着せる洋服だったり、今までの自分と違うものがあるし、貴重な経験や出会いがあったので、それをトラックメイキングに落とし込みました。

 トラック自体は日本よりではないのかもしれないですけど、僕が日本に生まれたことで染みついたキャッチーさがあると思っているので、それを乗せることによって出来る音楽があるのかなと思います。そこに歩み寄ったり、離れたりしながら色んな実験を繰り返して出来た作品になっています。

――難しい質問になると思うのですが、今作6曲の中で最も思い入れのある曲は?

 そうですね…。「How Are You」は、1年半前にステージを降りた後にサビの言葉が出たんです。でも曲はなくて、メロディはなくて歌詞だけがありました。そこからステージに戻ってきて曲になったというのが自分の中で凄くグッとくるものがあります。

――個人的には、何気なく聴いていて特に言葉が入ってきたのが「How Are You」なんです。これは歌詞が先行していたことが大きい?

 それは嬉しいです。わりとシンプルなサウンドメイクをしているんですけど、夜の独り言というか、夜に作ることが多いんです。結局夜は明けるから、朝に向かって行く瞬間に側にある音楽っていいなと思うんです。今の自分の言葉の強さとか伝えたい事などは、この曲から始まった気がします。

――アーティスト写真も夜の景色の中ですからね。

 もう夜が大好きなんです。朝は気持ち良いんですけど、やっぱり夜が好き過ぎて(笑)。

少し光っていることが希望に繋がる音楽

辻村有記(撮影=片山拓)

――7月に先行配信された「Ame Dance」は、情景が見えるようなサウンドですが、どのように出来た楽曲ですか?

 作っていたときに雨が振っていて、トラックを作り始めたタイミングで雨が降ってきたのが何かイイなと思ったんです。それで録り終わったら雨が止んでいて。それが自分の中でスッキリしたというか。この曲を一発目として自分が世の中に出て行く訳だから、上手い具合にスタートしたと思って「Ame Dance」というタイトルにしました。

――「Rain」ではなく「Ame」にしたところが辻村さんっぽいですよね。

 はは(笑)。「Rainy Dance」にしようかなとも考えましたけどね。結果「Ame Dance」に落ち着きました。

――では8月に配信された『モンストアニメ』エンディング・テーマソングになっている「Light」は、また他の楽曲とは色が違いますよね。どこかHaKUを彷彿とさせるアグレッシブさもあって。

 『モンストアニメ』の方で参加させて頂いたときは、バンドテイストを求められたんですけど、そのときはどちらかというと、作りたい音楽をどんどんやっていこうという感じの考えだったので、それをやった上で出来た楽曲なんです。それがありがたいことに好評ということで、1ハーフだったものをフルサイズでということになりました。

 HaKUは「光」という曲で始まったんですけど、今度は「Light」という感じで繋がりがあります。そういう感覚も大切だなということで、今作にも入れましょうとなったんです。毛色が違うなと思ったんですけど、新しいテイストで出せるということに加えて、自分がトラックメイクしていく中で色々出来るなと感じて、トラックを1から組み直しました。今の『POP』という作品の中にこの楽曲を突っ込むということがエモいという思いがありました。自分が出せる限りのものを詰め込もうとしたら、それが上手くハマって作品の中で良いカラーを出してくれたんです。

――辻村さんにとって光とはどのような存在なのでしょうか。

 僕の音楽全般に言えると思うんですけど、“明日の大きな光”みたいな感じのものは人間的に作れないんですよ。ただ、「光が見えてきたな」という、指し示すようなものは自分の中からひねり出して見せられるという部分があります。最近思ったことがあって、光が溢れているよりも、真っ暗の中に小さな光があった方が光は強調されるなと感じていて。その方が光が見えやすかったり、大きければ大きいほど嘘に感じたり。少し光っていることが希望に繋がると思うので、それが音楽に出せればと思っています。

――12月には近未来型エンタテインメント集団“白A”(SIRO-A)さんと共演されるライブ『Into U』がおこなわれます。

 白Aとは交流がずっとありまして、それこそHaKUのときからHaKUと白Aみたいな親近感があって(笑)。僕は白Aを凄くリスペクトしていて、ありがたいことに白Aも僕を気に入ってくださっていて。僕は白Aのような国外で活躍する方が凄く好きで、言葉の壁を超えてクリエイティブなものをずっと作り続けている白Aが本当に好きなんです。

 白Aは海外にいることが多かったのですが、ディスカッションしていく内に一緒にやれることがあるんじゃないかということを常日頃言っていたら、まさかのこのタイミングで一緒にできることになりました。素敵な演出、自分の世界観を上手く出してくれています。

 しかも、まだアルバムを出す前にライブでそれができるのが凄く幸せなことだなと思っています。『POP』という作品がより明確に伝わる演出にして頂いているので、是非ライブに来て確認して欲しいです。

辻村有記
辻村有記(撮影=片山拓)
辻村有記(撮影=片山拓)
辻村有記(撮影=片山拓)
辻村有記(撮影=片山拓)
作品情報

辻村有記
1stEP 「POP」

2018年1月31日発売
【CD】UPCH-2147 6曲入り  

01.Let Me Go
02.Ame Dance
03.Actions Over Words
04.How Are You
05.Light
※「モンストアニメ」エンディング・テーマとして人気を博した楽曲のスぺシャルver.を収録
06.I Won't Forget

ライブ情報

辻村有記 ワンマンライブ「Into U」
2017年12月12日東京・SHIBUYA Glad
Open:19:00 Start:19:30
前売 3,300円(税込) ※DRINK代別