石巻でのフィールドワークの模様。T会員が漁師などにヒアリングしながら、牡蠣商品のレシピを検討した(写真:Tポイント・ジャパン提供)

今やどこに行っても聞かれる「○○カードお持ちですか?」のフレーズ。何種類ものポイントカードが財布を膨らませ、必要なときに見つからないなど、わずらわしいことも多い。よほどポイントカードの活用法を研究している人なら別だが、本当にお得になっているのか、または何の役に立っているのか、多くの人が疑問に思いながらも、なんとなく使っているのではないだろうか。

購買データを利用した商品の開発をスタートさせた

そんなポイントカードの存在意義が“舌で”感じられるようになるかもしれない、あるプロジェクトが進行している。共通ポイントの大手、6000万人という会員数を抱えるTカードが、購買データを利用したユニークな商品の開発をスタートさせたのだ。

その第1弾は三陸の牡蠣(かき)を使った加工食品。プロジェクトでは、これまで蓄積された約40億件の購買データをもとに、魚介好きで食へのこだわりが強い9人の会員を選び抜き、この9人が中心となって商品開発に取り組んだ。2016年11月から約1年かけて開発し、2017年10月5日から、味付き冷凍カキフライ、牡蠣のオイル漬けなどを、食品スーパーマルエツなど一部の提携企業を通じて販売開始している。

「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」と名付けられた、このプロジェクトのコンセプトについて、Tカードを運営するTポイント・ジャパン企画本部ロイヤリティ企画部の瀧田希氏は次のように説明する。
「これまで当社ではポイントカードを通じて得られた購買データをマーケティングに利用してきました。しかしながら、2016年末の時点で、会員数が6000万人、つまり日本の2人に1人がTカードを持つようになりました。ここにきて、もっと社会に貢献し、生活者に還元していくべきでは、という観点から、CSV(社会での共通価値を、企業がその事業において創造して行くこと)の一貫として開始したのが本プロジェクトです」(瀧田氏)

実際にどのように貢献するかを考えたとき、いちばんに浮かんだのが第一次産業の支援だったという。

「Tポイントは地域とともに成長してきたサービスなので、まずは全国の地域で共通課題となっている第一次産業の衰退という課題に取り組むのがふさわしいと考えました」(瀧田氏)

第1弾としては、東日本大震災で多大な影響を受けた三陸の漁業を取り上げることとなった。地元の漁業従事者にヒアリングするなかで、彼らが大きな課題意識をもっていたのが“牡蠣”だったという。

「ファンが多いと思われがちですが、実は牡蠣好き人口はそれほど多くはなく、私たちの実施したアンケート調査では、牡蠣好きな人は全体の3分の1との結果でした。また冬が旬というイメージが強く、売れる時期が限られる。同じく牡蠣で有名な広島は加熱して食べる文化が進んでいますが、三陸は海がキレイなことで逆に、生で食べられるほうが多く、加工業がそれほど発達していません。結果的に、牡蠣産業の年間を通じての拡大があまり進んでいません。震災の影響もあって、漁師の減少も課題となっています」(瀧田氏)

そこで、三陸における牡蠣の六次産業化(加工)、つまり、一次生産者が生産物の加工、流通、販売までを行う仕組みづくりがプロジェクト第1弾の目標となった。

これにより、漁業の活性化、また三陸の魅力を広く知ってもらい、観光客を誘致することなどができるという狙いだ。

商品開発にかかわったのは、前述の選ばれた9人を中心に、一次生産者であり商品製造を担当する「フィッシャーマン・ジャパン」など、三陸の漁業従事者。そのほか、スーパーなどのTポイント提携企業も、流通という立場から商品開発に参加した。なお、フィッシャーマン・ジャパンとは、震災後の2014年に三陸の若い漁師が中心になって立ち上げた一般社団法人。漁業を「新3K(カッコイイ、稼げる、革新的)」にし、三陸に若い漁業従事者を増やすことを目的に活動をしている。

選ばれた9人とはどのような人物なのか


Tポイント・ジャパン企画本部ロイヤリティ企画部の瀧田希氏(筆者撮影)

それにしても、会員6000万人から選ばれたこの9人とはどんな人たちなのだろうか。実際には、全会員のうち、購買データから導き出された魚介や食へのこだわりの強い人55万人にメールを送り、応募があったのは565人。そのうちの9人ということになる。

「26歳から69歳まで、職業などもさまざまな、男性4人女性5人です。ですが食や魚介に関しては相当“濃い”メンバーです。たとえば、洋食屋さんを回ってはカキフライばかり食べ続けている人もいますし、自分で食のイベントを立ち上げて運営している人もいます。本当にアクティブな方々で、初対面から意気投合してメンバー同士で交流が進みました」(瀧田氏)

開発メンバーには、石巻への1泊2日フィールドワークや試食会・打ち合わせ数回のほか、各自でレシピのアイデアを出すことなどが課せられた。しかしそれ以外にも、メンバーからTポイント側にプロモーションを提案するなど、積極的に参加してもらえたことが、プロジェクトの推進力となった。

「メンバーの負担もかなり大きいですし、そもそもチャレンジングなプロジェクトでした。また、苦労したのが、9名のT会員、地元の漁師や加工業者、流通とさまざまなステークホルダーが納得のいく商品を作りあげること。すべてのフェーズに困難がありました。だから商品ができあがったときには、メンバーから『本当に発売されるなんて』『自分の子どもみたい』という声が聞かれました」(瀧田氏)

こうしてできあがった商品が、「カレーとガーリック味の大きなカキフライ」「パセリとチーズ味の大きなカキフライ」(各10個入り1480円)と、「カキとバジルのオイル漬け」(約140グラム1280円)。


できあがった商品。左から「カレーとガーリック味の大きなカキフライ」「パセリとチーズ味の大きなカキフライ」(各10個入り1480円)と、「カキとバジルのオイル漬け」(約140グラム1280円)

カキフライの特徴は、衣を薄くしたり、牡蠣に火を入れず冷凍したことなど。食材の味が最大限に引き出され、揚げたときに生牡蠣を食べているかのような食感が得られるという。オイル漬けは、サッと火を通した牡蠣をオリーブオイルに漬け、大きめにカットした。そのままバゲットなどに載せればおつまみになるし、サラダやパスタなどにあえてもよい。工夫次第でさまざまな料理に使えそうだ。いずれも大ぶりの春牡蠣を使用しているほか、日常的に食卓で牡蠣が味わえるよう工夫されているところがポイント。牡蠣を“イベント”的でなく、ふだんから味わってほしいという開発者の願いが込められている。

「魚介好きが作った、牡蠣好きのための牡蠣加工食品」


牡蠣が苦手な人でも食べられる味に仕上げている(写真:Tポイント・ジャパン提供)

瀧田氏からのおすすめコメントは、「とびきりの魚介好きが作った、牡蠣好きのための牡蠣加工食品」。だからといって、通好みの味になっているわけではないという。なかでもカレーとガーリック味のカキフライは子どもの味覚にも合うほか、牡蠣が苦手な人でも食べられる味に仕上がった。

「インフルエンサーを対象とした商品発表イベントでは、生産者や地域に向き合いながら食を考えていこうという取り組みで注目されている、森枝幹シェフを招きました。商品を、バゲットにフォアグラテリーヌを塗って、オイル漬けを載せるなど、商品を購入した人にもっと楽しんでもえるレシピを紹介しました。カキフライにビターの生チョコをそえたり、いろいろなアレンジで楽しんでいただければと思っています」(瀧田氏)


「カキとバジルのオイル漬け」の盛り付け例(写真:Tポイント・ジャパン提供)

プロジェクトを通しては、今回の3商品を含め13のレシピが開発された。12月半ばまでに今回の商品の初期ロット全6000個を販売したうえで、次のレシピの商品化を実現したいという。そのほか、流通面の問題で商品化に結び付かなかったレシピも、フィッシャーマン・ジャパンの直営店「宮城漁師酒場 魚谷屋」(東京・中野区)でメニューに載せてもらったり、Yahoo!JAPAN上でレシピを提供するなど、余すところなく活用する予定だ。

「販路によって販売状況はまったく異なるのですが、カキフライはいいペースで売れています。究極のプロダクトアウトということで、こだわりを詰め込んだこの商品が世の中にどんなインパクトを与えることができるか、まずは反応を見たいと思っています。最終的には、生産者オリエンテッドの食材の価値をそのまま持った商品が社会に認められて、購入され、その土地に足を運ぶ人が増え地域の魅力発見につながる、そういう仕組みづくりの一助にTカードが貢献できればいいなと思っています」(瀧田氏)

生産者と消費者をもっと結びつけようという意識は、外食産業のみならず社会全体で高まっている。今回は、マーケティングを担うTカードが架け橋となり、消費者の手で、生産者の思いを受け継ぐ、商品力を持った商品が生み出された。消費者自身が生産の現場に立ち会ったことの意義も大きい。こうした商品誕生にまつわる“物語”がブランド価値となり、消費者へのアピール力を高めていくことがまずは必要だ。そのために、今回のプロジェクトの第2弾、第3弾をたゆまず継続させていくことが重要だろう。