気づかぬうちにお酒に睡眠薬を入れられ……(depositphotos.com)

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 近年、集団で大量のアルコールを女性に飲ませ、意識レベルが低下した状態に陥ったのちに性犯罪に及ぶという事件が後を絶たない。カラオケ店、インターネットカフェ、ラブホテルなどの閉鎖的空間で、大学生のみならず研修医や医学生による刑事事件も明るみになった。

 最近ではアルコールなどに催眠薬などを混入させて、女性を昏睡状態に陥らせて、性犯罪に手を染める、より悪質な犯罪が増加している。本稿では、薬物が混入された飲み物、大量のアルコールと危険ドラッグを用いた犯罪について解説しよう。

アルコールと睡眠薬や危険ドラッグが併用され性犯罪 

 2012年に筆者が経験した、単身で他県より北海道に旅行に来た20歳代の女性患者――。繁華街で行きずりの男性と出会い、スナックで大量のアルコールを飲み、意識朦朧となってラブホテルに連れ込まれた。女性は男性が持参していた危険ドラッグ「ラッシュ(RUSH)注1」を吸引させられ、性犯罪に巻き込まれたが、男性はその後、ホテルより逃走した。

 女性は翌日、ホテルの従業員に昏睡状態で発見された。すぐに警察が駆け付け、病院に救急搬送された。酸素吸入や点滴などの治療を受け、数時間後には覚醒。患者の尿を採集したが、薬物の成分分析は困難であり、犯罪は立証することができなかった。患者は翌日には退院した。

 同じく2012年、30歳代女性が、知り合いの男性に大量の向精神薬「ロヒプノール」が混入されたビールを飲まされた。その後、女性は昏睡状態に陥り、知り合いの男性にレイプされた。男性はアルコールを飲まず、女性宅を出た。

 被害にあった女性は、翌朝も意識が朦朧として、頭痛、嘔気、眩暈、倦怠感などを訴え、自分で救急車を要請。搬送後に点滴などの治療を受けた。患者の尿と血液を採集したが、薬物の同定はできなかった。1日ほど入院したのちに意識は回復し、諸症状も消失したため退院した。 

「デートレイプドラッグ」とは?

 「デートレイプドラッグ」とは、睡眠薬や危険ドラッグなどを服用後、あるいはこれらの薬をアルコール類に混入させ、一過性に意識レベルが低下した状態下で、被害者が抵抗できない状態にさせて、性犯罪などの悪質な犯罪に及ぶときに用いられる薬物の総称だ。アルコールとの同時併用は、薬物の催眠作用などの効果を増強させる。

 代表的な薬物は、幻覚剤のGHB(γ-ヒドロキシ酪酸)や睡眠薬のロヒプノール、サイレース、フルニトラゼパムがある。

 米国では危険ドラッグ扱いとなっている薬剤が多いが、我が国では依然として精神科や心療内科などの医療機関で広く処方されている。また最近ではインターネットでの売買が容易に可能であり、誰でも簡単に入手でき、悪用されやすい環境にある。

 これらの薬剤は、服用後1〜2日で体外に排泄されるため、性犯罪の立証には、尿や血液の早期の採集が必須となる。また薬剤判定の簡易キットでは検出できず、特定の分析施設での精密検査が必要なことが多いので、刑事事件として扱われることが難しいのが現状である。

「デートレイプドラッグ」の特性と悪用された際の対処法

 次に「デートレイプドラッグ」の特性と悪用された際の対処法について説明しよう。

 体に力が入りにくい、眠気、記憶が薄れる、危険に対して無防備になるなどの症状が出現した時は、要注意である。最近はこれらの危険薬では、アルコールなどの飲み物に混入されると、青色に変色し、危険信号を発するように工夫されている薬剤もあるので、あらかじめその事実を認識することも必要であろう。

 悪用された際の対応は、ただちに警察や支援団体に連絡すること(注2)。医療機関を受診して、薬剤の使用を証明するために、採血と採尿を受けること。

 そして、そのような被害にあわないために重要なことは、インターネットなどで「デートレイプドラッグ」の存在や危険性を認識する必要があろう。 

注1:ラッシュ(RUSH):亜硝酸エステルが主成分の薬剤。以前は狭心症治療薬として医療用に使用されていた。血圧低下、拍動強化作用がある。吸引して使用する。数十秒間の酩酊感覚が生じる。我が国では市販されていないが、違法に出回っている。インターネットでの購入も可能。国際郵便で輸入しようとして、摘発されたケースもあった。2010年頃に我が国では「危険ドラッグ(吸入薬)」として代表的地位を占めた。
 
注2:性暴力の被害者のための支援機関や「デートレイプドラッグ」関連の支援団体は全国に45か所存在する。そこでは主に、医療支援、心理カウンセリング、警察などとの捜査手続きなどの便宜を取り扱ってくれる。運営団体は民間のものや地方公共団体が開設したものも。なお性被害に関しての相談窓口として、警察の全国共通ダイアルは「#8103」となっている。


連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原クリニック札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

横山隆(よこやま・たかし)
小笠原クリニック札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。