財務省が録音は「本物」と認めたが「逃げ恥」で余裕?(写真:日刊現代/アフロ)

師走の寒風に通行人が首をすくめる永田町では週末の9日、特別国会が閉幕する。衆院選を受けて安倍晋三首相が発足させた第4次政権の初舞台で、39日間という異例に長い会期設定となったが、与野党論戦はまったく盛り上がらないまま終戦となり、国内政局は年末年始の休戦に入る。

今春の疑惑発覚時から野党の攻撃材料となった「森友・加計学園問題」は、新たな材料も浮上して疑惑が深まったのに、首相や関係省庁の固いガードと開き直り答弁による"逃げ恥作戦"が奏功して、追及は尻切れトンボに終わった。しかも、与野党党首が1対1で切り結ぶ党首討論も、制度導入以来初の「年間開催ゼロ」に。衆院選圧勝で傲慢さを増す自民党の国会運営に、民進党分裂による"バラバラ野党"が押しまくられた結果だが、国権の最高機関としての国会の劣化も際立つ年の暮れとなった。

特別国会冒頭で自民党がいきなり仕掛けたのが、与野党の質問時間配分の見直し。1強首相の「最大のウイークポイント」(自民幹部)とされる「森友・加計学園疑惑」での野党追及に歯止めをかける狙いからで、「各党議席数に応じた質問時間」を前面に押し出し、前国会までの与野党「2対8」を「7対3」に逆転させようとする「とんでもない暴論」(立憲民主党)を野党側に突きつけた。

「質問時間見直し」で押し切られた野党の無力

もちろん野党側は「民主主義の根幹にかかわる」(共産党)などと猛反発し、自民党内からも「やりすぎ」(参院国対)との批判が出たが、党執行部は「与野党1対1が大原則」として各委員会で野党側に圧力をかけ続けた。その結果、論戦の主舞台となる衆院予算委で野党側が渋々応じた「5対9」が新たな慣例となり、年明けに召集される通常国会でも与党の質問時間は倍増し、野党は大幅削減を余儀なくされそうだ。

質問時間については今回衆院選で3回目の当選を果たした"安倍チルドレン"と呼ばれる自民若手議員達が「国会での質問の機会を与えて欲しい」と党執行部に陳情し、首相もこれを後押しする姿勢を示したことで、自民執行部が強硬姿勢に転じた。同党内でも委員会の自主性に任せている参院側が苦言を呈し、「いまこそ1強政権の懐の深さをアピールすべきだ」(自民長老)との批判も出た。だが、衆参で野党第1党が異なるという過去に例のない事態で、野党側が無力化し、自民のゴリ押しを許した格好だ。

首相や政府与党幹部が選挙後も合言葉にしていたはずの「謙虚」とはかけ離れた高圧的な国会運営はその後も続いた。8月3日の前内閣発足以来初めてとなった11月17日の首相所信表明演説は、約3500字(15分)という安倍政権下での最短記録を更新した。「長ければいいというわけではない」(自民幹部)が、選挙戦で首相が「真摯で丁寧な説明」を約束したはずの森友・加計問題に一言も触れなかったことは「国会軽視」(共産党)のそしりを免れない。

今年2月に発覚した森友問題の国会での疑惑解明がまったく進展しない中、特別国会後半の11月22日には、会計検査院が、疑惑の核心とされる約8億円値引きでの同学園への国有地売却について、「値引き額の根拠がなく不適切」などとする厳しい検査結果を報告・公表した。

「絶好の攻撃材料」と勇み立った野党側は、11月27日からの衆参予算委員会やその後の関係委員会での追及を強め、通常国会の段階から取り上げられていた財務省近畿財務局と籠池泰典前森友学園理事長との価格交渉をうかがわせる音声データについて、財務省に「本物」と認めさせた。しかし、会計検査院が「不適切」と指摘した大幅値引きについては、国会答弁で「価格算定は適正」と繰り返してきた首相や麻生太郎財務相が、「所管官庁の適正との報告を信用してそう申し上げた」などと開き直り、野党の謝罪要求も無視したが、野党側は二の矢を放てなかった。

会計検査院が、森友問題での首相や昭恵夫人への忖度の有無などについては「検査の対象外」としていっさい触れなかったこともあり、首相らは人気テレビ番組によって流行語ともなった「逃げるは恥だが役に立つ」という"逃げ恥"作戦を決め込んだ格好だ。これに対し、野党側も独自調査による追及材料発掘への努力不足が際立っており、「年明けの通常国会での徹底追及」(立憲民主幹部)も掛け声倒れに終わるとの見方が広がる。

野党側も党首討論を想定せず?!

そうした中、通常国会に続いて特別国会でも党首討論の開催が見送られた。首相と野党党首の差しの勝負となる党首討論は、2012年11月に、当時の野田佳彦首相(民主党)が安倍自民党総裁との対決で突然、衆院解散を宣言するなど、「政局大転換の舞台」となった実績もある。しかし、第2次安倍政権発足後は年1〜2回の開催となり、とうとう今年は制度発足以来初の「開催ゼロ」となった。

現在のような衆参両院の国家基本政策委員会合同審査会での党首討論がスタートしたのは2000年通常国会。国会での政策論議を官僚主導から政治家主導にするのが狙いで、英国下院議会の「クエスチョンタイム」がモデルだ。小沢一郎氏(自由党共同代表)が自民党幹事長時代に提案したもので、導入当初は「国会改革の切り札」として国民からも期待された。しかし討論時間が合計45分間と短いこともあって、首相と野党党首の「言いっ放しのすれ違い」(野党幹部)に終わるケースが多く、野党側も首相追及の時間が十分確保できる予算委での質疑を優先するようになった。

野党党首としての討論参加資格は、(1)衆参両院のいずれかで10人以上の議員を有して院内交渉団体の資格を持つ政党(会派)の党首、(2)国会議員で国家基本政策委員会に所属、と規定されている。(1)の条件を満たす党首は枝野幸男・立憲民主党代表、玉木雄一郎・希望の党代表、大塚耕平・民進党代表、志位和夫・共産党委員長、片山虎之助・日本維新の会共同代表の5氏だが、衆院会派無所属の会(13人)の岡田克也代表も理論上は有資格者となる。

岡田氏は民進党籍があるため、参院野党第1党の同党に所属する衆院側議員と見ることもできるが、その場合は民進党籍を持つ議員で構成される衆院無所属の会(13人)を加えると衆参の総議員数では民進党が「野党第1党」となってしまう。こうした過去に例のない異常事態について、自民党の森山裕国対委員長は「野党でしっかり決めて欲しい」と野党間の調整を求めたが野党側の対応が混乱、これが特別国会での党首討論見送りにつながった原因だ。

そもそも、特別国会での衆参国家基本政策委員会の登録議員をみると、大塚、岡田両氏の名前はなく、ルール上では初めから両氏は今国会での党首討論への参加資格はなかった。このことからも、野党側は党首討論開催を想定していなかったと見られても仕方がないのが実情だ。

さらに、質問時間配分は原則的に所属議員数との見合いで決まる。仮に来年の通常国会で岡田氏を除く5人の党首が討論に参加する場合、これまでの経緯から枝野、玉木、大塚3氏が各10分強、志位、片山両氏が各5分という"細切れ討論"となり、各党首が緻密に連携しない限り、野党側の追及不足となるのは避けられない。

世論調査では、首相3選に「反対」が上回る

国会論戦の主舞台となる予算委員会は各委員の質問に首相ら政府側が答える「一方通行方式」だが、党首討論では首相の「逆質問」も認められており、本来は丁々発止の緊迫したやり取りになるはずだ。ところが、首相からの逆質問はまれで、むしろ長広舌による時間稼ぎが常態化していた。このため、野党が小党乱立となった現状では党首討論自体が形骸化し、来年も開催できなければ存続の是非すら問われかねない事態だ。まさに「言論の府の機能不全の象徴」(首相経験者)ともみえる。

国政選挙5連勝で"1強"を維持する首相にとって、野党陣営が民進党分裂の後遺症で「戦闘能力」を喪失していることは、10カ月後の自民総裁選での「3選」への追い風ともなっている。自民党内でも「首相の強運はまだまだ続く」(執行部)との見方が広がる。しかし、衆院選後に実施された各種世論調査では、首相の「3選」について「反対」が「賛成」を上回る状況が続く。「国民の"安倍疲れ"の表れ」(自民長老)とすれば、年明け以降も強引な政局運営を続けると、「ちょっとしたミスが政権危機につながる」(同)可能性は否定できない。