シャープが東京証券取引所1部への復帰を果たした。12月7日、東証で開かれたセレモニーで記念撮影に応じる戴正呉社長らシャープの経営陣(撮影:大澤 誠)

スタッフから木槌を受け取ったシャープの戴正呉社長は、やや緊張した面持ちで東京証券取引所の鐘をついた。

主力の液晶事業の不振で債務超過に陥り、2016年8月に東証2部へと降格したシャープ。12月7日、わずか1年4カ月で同1部への復帰を果たした。

現在、鴻海(ホンハイ)精密工業の後ろ盾のもと経営再建を進めるシャープの業績は、劇的に回復している。徹底したコストカットと高単価製品の強化が効き、2017年3月期には3期ぶりに営業黒字に転じた。

ディスプレー事業が息を吹き返す

2017年4~9月期はさらに改善した。特に牽引したのがディスプレー事業だ。中国市場で鴻海の営業部員を動員した液晶テレビの大増販戦略が功を奏したうえ、収益性の低い韓国サムスン向け液晶パネルの供給を打ち切るなど採算最善策も効いた。その結果、赤字だった同事業の営業損益は163億円と黒字転換している。


東証1部復帰の式典後に会見するシャープの戴正呉社長(右)。8Kへの強い意欲を語った(撮影:大澤 誠)

4年ぶりの通期最終黒字化も見えてきた今、シャープはディスプレー事業に再び社運を懸ける。

東証一部復帰セレモニーのあとに行われた記者会見で、戴社長をはじめとした経営陣はそろいの真っ赤なキャップを被って現れた。中央には、「SHARP 8K」の文字が躍る。

現在、シャープが次の成長の柱の1つとして掲げるのが、「8Kエコシステム」だ。8Kとは、超高画質の液晶ディスプレー解像度のこと。現在放送されているフルハイビジョン番組の16倍、4K対応テレビの4倍の画素数(約3318万画素)を持つ。

すでに、中国や日本では8K液晶テレビを発売し、業務用ビデオカメラといった放送用や医療用、車載用にも品ぞろえを広げる構えだ。今後は鴻海の資金力をもって、米国や中国で合計約2.2兆円を投じた8Kテレビ工場が稼働することも決まっている。

ただ、とくに一般消費者向けの分野において、8K市場の成長は当面限定的と見る向きもある。

4Kテレビは現在普及期にあり、店頭価格は50インチで15万円を切る場合もあり、一般消費者が手を出しやすい価格に下がってきた。ヤマダ電機やドン・キホーテをはじめ、生産委託による格安4Kテレビの発売も相次ぐ。


シャープが展開する8Kテレビ。85インチで100万円と普及価格帯にはほど遠い水準だ(撮影:今 祥雄)

対して、シャープが日本で発売した8Kテレビは現在100万円。一般消費者の手が出る価格ではない。さらに、8Kの普及には放送局側の投資が欠かせないが、現状は4K向けの投資で余裕がない。

4K・8K放送はともに2018年12月から衛星放送(BS)で始まるが、4Kの先にある8Kテレビが普及するには時間がかかりそうだ。

有機ELで「日の丸連合」結成呼びかけ


ソニーとパナソニックは2017年、相次ぎ有機ELテレビを発売したが、パネルは市場を独占する韓国LG電子から調達している。(撮影:梅谷秀司)

シャープが8Kの展開を加速する中、世界の競合が注力しているのは、次世代ディスプレー、有機ELだ。現在、スマホ向けの小型パネルを安定供給できるのは韓国サムスン、テレビ向けなど大型パネルはLG電子と、韓国勢の独占市場となり、日本勢は後塵を拝している。

8Kを軸に打ち出す中で、シャープは有機EL参入へのスタンスについて繰り返し問われてきた。戴社長は今回も、かねてから表明していた、有機ELで「日の丸連合」を結成すべきとの考えを強調した。

12月5日、JDIグループのJOLEDが韓国勢と競合しない中型市場での、有機ELパネルの出荷を開始した。製造方法は「印刷方式」と呼ばれ、韓国勢の「蒸着方式」より製造コストは2〜3割安くすむという試算もある。現在は、2018年3月中をメドにさらなる量産に向け国内外の複数社に計1000億円の出資を募っているところだ。ソニー、パナソニック、キヤノンなど、報道ではすでに複数社の名前が上がるが、シャープもそのうちの1社だ。

JOLEDへの出資には、各社の思惑が渦巻く。有機ELの量産には、莫大な投資が必要だ。電機大手のソニーとパナソニックは、すでにディスプレー生産からほぼ撤退し(パナソニックは車載・医療用のみ生産)、有機ELの研究開発からも手を引いている(両社の研究開発部隊を引き継いだのがJOLEDで、現在も5%ずつ出資)。シャープはすでに堺工場などへ有機ELのラインを入れているが、8Kで投資がかさむ中、ここにさらにお金をつぎ込むとは考えにくい。

ただ、独占市場と化した有機ELパネル市場では当然ながら価格競争は生まれない。JOLEDへの出資で名前があがる企業の幹部は「早くほかのメーカーからも調達できるようになればいいが」とこぼす。日の丸連合の結成は国内メーカーにとって悪い話ではないだろう。

JOLEDへの出資の意向を問われた戴社長は、「(日本に有機EL生産の)技術を残したいのかどうか、まずは経済産業省と(JOLEDに75%出資する)産業革新機構に相談して、国のポリシーを聞きたい。そのあと、シャープが判断する」と意欲を見せた。

シャープは今回、来年4〜6月の量産開始を発表していたスマホ向け小型有機ELの試験出荷が今月にも開始されることも明かしている。さらに、大型の研究開発も検討しているという。自前での生産と出資先からの調達をうまく使い分けて固定費を最小限に抑えつつ、小型、中型、大型の全てに目配りするつもりなのかもしれない。

2019年度まで社長にとどまる


東証1部上場セレモニーで鐘を鳴らすシャープの戴正呉社長。2019年度までは社長にとどまる考えを示したが、やるべき仕事は大きい(撮影:大澤 誠)

かねてから、東証1部に復帰したら社長を辞めたいと発言していた戴社長。会見でも「今もその気持ちは変わっていない。ただ、役員会で、(2019年度までの)中期経営計画が終わる前の社長交代は異例だと言われた。私のワガママは通せない」と本音を口にした。

この発言は2019年度までは戴社長が続投することを示すものだ。さらに、2018年1〜6月の期間に共同CEO体制への移行や決裁権限の委譲を検討していることを明らかにした。次期社長育成を見据えた動きと言える。

鴻海の傘下で「東証1部上場企業」の座を取り戻し、名実ともにアクセルを踏み始めたシャープ。鴻海の力を借りた8K液晶の立ちあげを軸に、有機ELディスプレーもぬかりなく。この2つが戴社長の最後の大仕事になるかもしれない。