アコースティック編成はバンドシーンに新たな風を吹かせるか? NICO、バニラズらの動きから考察

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 通常のバンド編成とは異なるアプローチを見せることのできるアコースティック編成。フェスの多様化に伴いアコースティック系のフェスも盛り上がり始めているほか、BRAHMANにおけるOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND、SPECIAL OTHERSにおけるSPECIAL OTHERS ACOUSTICのように別名義でアコースティック編成を設けているバンドもいる。そうしてじわじわと盛り上がりつつある動きが、若いバンドにも波及してきていると感じたのが2017年だった。

 最初に紹介したいのが、仙台在住の4ピースバンド・アンテナ。今年10月18日にミニアルバム『モーンガータ』をリリース、テイチクエンタテインメント内のレーベル<BOGUS RECORDS>よりメジャーデビューした彼らは、同作のプロモーションの一環として『GREETING VIDEO』をYouTubeで公開した。

 発売日に先立って公開されたそのトレーラーには、アコースティック編成でのスタジオライブの模様が収録されていた。演奏されていたのは、後にMVが公開されたリード曲とインストトラックを除く収録曲すべて。その背景には、いわゆるダイジェスト映像のように収録曲のさわりだけを聴くことができたとしても、リスナーはそこで良し悪しを判断することができないのでは? という考えがあったという(参考:Twitter)。そのため、各曲はほぼフルサイズで演奏され、アレンジは原曲に比較的忠実なものに。音源を買おうかどうか迷っている新規リスナー層に対する“お試し版”としてアコースティック編成を活用してみせた。そもそもインディーズのバンドは、音量や搬入・搬出面を考慮した編成でインストアイベントを行ったり、ツイキャスで弾き語りを配信したりと、アコースティックに接する機会が案外多い。今回のプロモーションでは、そのような経験を通じて鍛えられたバンドの地力が活かされており、長いことインディーズシーンで活動してきた彼らならではの工夫だった。

 今年も全国各地のフェスやイベントに引っ張りだこだったgo!go!vanillasとフレデリックは、両者ともに、CDの初回限定盤特典のDVDにアコースティック編成でのスタジオライブの模様を収録している。まずバニラズは、5月17日にリリースしたシングル『平成ペイン』に特典DVD『go!go!vanillas 1st Acoustic Session』を付属。同映像内で牧 達弥(Vo/ Gt)が「曲を書いた時にあった“こういうアプローチもあったなあ”というのを試してみたかった」という旨を話しているように、例えば「バイリンガール」がアコースティックギターのキラキラとした音色が映えるアレンジになっていたり、「なつのうた」が8分の6拍子のスローバラードになっていたりと、どの曲も原曲とは毛色の異なるアレンジが施されていた。『平成ペイン』含むシングル3枚をリリースしたあと、夏フェスシーズン真っ只中の7月26日にアルバム『FOOLs』をリリース、9月に入るとワンマンツアーを開始ーーというふうに活動してきたバニラズ。『FOOLs』リリース時のインタビューによると、その一連の流れは“ライブをきっかけに流入してきたリスナーへいかにしてアプローチするか”を考えた上での戦略だったらしく、『go!go!vanillas 1st Acoustic Session』もその流れを汲んだ取り組みだったといえるだろう。牧の言う“リアクションがなくても響くもの”(=視覚的に分かりやすい“盛り上がり”を必要としないもの)を体現したアコースティックアレンジは、“フェス以上ワンマン未満”のリスナーに対する二次アプローチとしての役割を担っていた。

 フレデリックは、10月18日にリリースしたミニアルバム『TOGENKYO』に特典DVD『アコースティックスタジオライブ「FAB!! 〜Frederic Acoustic Band〜」』を付属。今年の夏フェスでは出演時間内に数曲をノンストップで演奏、リズムに主軸を置いたアレンジの妙で魅せてくれた彼らだが、同映像内で三原康司(Ba)が「(アコースティックは)ノラせ方が全然違う」「刻むというよりかは波を作っていく感じ」と発言している通り、アコースティックでのアンサンブルのあり方はまた別の物に。全体的にメロディやコードの響きを引き立てるような方向に向かっており、例えば「オワラセナイト」がレゲエ調になっていたり、「かなしいうれしい」はテンポを落として三原健司(Vo/Gt)の歌をフィーチャーしたアレンジになっていたりと、バニラズ同様、原曲を大きく変化させていた。ブラックミュージック× ニューウェーブ的なゆったりとした音像の『TOGENKYO』CD本編もまた新境地だったが、挑み続ける彼らの姿勢は、たとえばMCでそのフェスへの思い入れを語ったりすることはせず、音楽一本勝負で臨んだこの夏のモードと地続きである。時代の先を行き、自らをアップデートしていくフレデリックの闘い方は、今後も研ぎ澄まされていくことだろう。

 そして最後に紹介したいのが、NICO Touches the Wallsが12月6日にリリースした『OYSTER -EP-』。新曲5曲+同じ曲のアコースティック版を収録している同作は、初回限定盤だからそのような内容になっているというわけではなく、通常仕様としてそういう構成になっている点が画期的だ。ギターが歪むハードロック「mujina」、弾むリズムによる昂揚感とソウルフルな歌声の組み合わせが絶妙な「Funny Side Up!」、疾走感溢れるロックバラード「Ginger lily」など、バンドアレンジの時点で収録曲は多種多様なのだが、アコースティックアレンジになるとそれぞれが全く別の曲調に変貌。CD2枚を聴き比べることによって、これまでは主にライブでしか味わうことのできなかったこのバンドの“アレンジの鬼”っぷりを堪能できるわけだ。

 先述のバニラズやフレデリックのように、傍から見るとフェスで人気を獲得してきたような印象のあるバンドが、“フェスロック”的な枠組みに囚われず、さらに踏み込んだ表現に挑んでいることは非常に興味深い。そして、メジャーデビュー10周年を迎えたニコもまたそれをやり続けてきたバンドだった。2011年12月リリースの『HUMANIA』を機に、現在のバニラズやフレデリックのように初回限定盤特典としてアコースティックライブの映像を封入してきた彼らは、2015年2月に全曲アコースティックアレンジのベスト盤『Howdy!! We are ACO Touches the Walls』をリリース。アコースティック編成でビルボードワンマンを行って以降は、各地のフェスやイベントに出演する機会もあった。そうしてアコースティックでの活動が盛んになるなかで、通常編成での演奏も一層彩り豊かなものに。特に今年の夏フェスでは、バイオリンやキーボードを弾くことのできるサポートメンバーを迎えライブ定番曲に大胆なアレンジを施す、一般的にそれほど知名度が高くなさそうなカップリング曲をセットリストに盛り込むなど、自由度が飛躍的に増していて、“フェス=ファン以外の観客も多数いる場所”という事実を良い意味で度外視しながらのびのびと演奏していた。洋邦幅広い音楽を参照しながらクリエイティビティを爆発させている直近のニコは、音楽の多様性、それに伴う多彩な楽しみ方を提示することを試みる若いバンドにとって、一つの到達形といえるスタイルなのかもしれない。

 このように、バンドにおけるアコースティック編成は、ワンマンライブなどでコアなファンだけが目撃することのできる特別編成ではなく、“ファン以外”に対しても広く開かれた、そして“フェスの外”を志向する各バンドの試行錯誤を垣間見ることのできるような刺激的な場になりつつある。それが可能なのは、演奏者側に豊富な音楽的知識と確かな演奏技術があってこそであり、どのバンドがやっても上手くいくとは限らないかもしれない。逆に言うと、探究心を基にこういうチャレンジのできるバンドだからこそ、一過性のトレンドに流されない表現を生み出すことができるのだろう。意欲的なアプローチの数々を、ぜひ聴き逃さないでほしい。(文=蜂須賀ちなみ)