途中駅がなく、起点駅と終点駅のあいだだけを営業する私鉄が関東と関西に存在します。なぜこのような鉄道会社が誕生したのでしょうか。

「沿線」は空港のなか

 途中駅がなく、起点と終点のふた駅間だけを営業するという鉄道会社が、関東と関西にあります。


京成線内を走る芝山鉄道の3500系電車。京成からのリース車両(画像:裏辺研究所)。

 そのひとつが千葉県の芝山鉄道(芝山町)です。2002(平成14)年に開業した東成田〜芝山千代田間わずか2.2kmの芝山鉄道線を営業し、「日本一短い鉄道」を名乗っています。誕生の経緯を同社に聞きました。

――なぜ途中駅がないのでしょうか?

 全長2.2kmのうち、おもに成田空港の誘導路下を通る1.4kmがトンネルであるためです。

――どのような経緯で誕生したのでしょうか?

 成田空港建設の条件として、芝山町が鉄道敷設を運輸省(現・国土交通省)に要望したことで誕生しました。これを受け、成田国際空港株式会社などの関連企業や芝山町などの自治体出資からなる第三セクターとして当社が誕生しました。

――どのような方が利用されているのでしょうか?

 全列車が京成線と直通運転していますので、近隣にお住まいの方の都心方面への通勤、通学、また芝山千代田駅に近い成田空港の整備地区に勤務される方にご利用いただいております。空港周辺の観光目的で利用される方もいらっしゃいます。

――延伸の計画はあるのでしょうか?

 芝山千代田駅から南東の横芝光町方面へ延伸させる話が要望ベースでは存在するものの、現在のところ結論は出ていません。

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 芝山鉄道では需要喚起策として、「日本一短い鉄道」に乗車したことを記念する証明書の無料発行や、レンタサイクルの無料貸し出しを行っているとのこと。なお、開業から14年を経た2016年12月には、累計利用者数が1000万人を突破しました。

 ちなみに、芝山鉄道線内では警察官が乗車します。これは空港警備のためだそうです。

駅ふたつだけ、ほぼ全線が長〜いトンネルの私鉄 関西に

 関西に存在する、起点と終点のふた駅間しかない鉄道会社は、1988(昭和63)年に開業した新神戸〜谷上間の北神線を営業する北神急行電鉄(神戸市北区)です。起点の新神戸駅では山陽新幹線と神戸市営地下鉄西神・山手線に、終点の谷上駅では神戸電鉄有馬線に接続しています。


神戸市営地下鉄西神・山手線内の駅に停車中の北神急行電鉄7000系電車(2010年2月、恵 知仁撮影)。

 北神線は営業距離こそ7.5kmと芝山鉄道より長いものの、そのうち実に約7.3kmを北神トンネルが占めます。なぜここだけを1社で運営しているのか、話を聞きました。

――途中駅はつくらないのでしょうか?

 トンネルの途中に駅をつくるのは現実的ではありませんので、新設の予定はありません。ちなみに、新神戸駅は神戸市交通局の駅(神戸交通振興が受託管理)ですが、谷上駅は親会社である神戸電鉄との共同使用駅です。谷上駅ではイベントなどを行うこともあります。

――どのような人が利用されるのでしょうか?

 全列車が神戸市営地下鉄西神・山手線に直通しており、主に神戸電鉄有馬線、三田線沿線から神戸市街地への通勤・通学に利用されています。また、土休日を中心に神戸市街地や新神戸駅から当社線経由で有馬温泉へ向かう方も多く、近年は外国人のお客様も増えています。

――どのような経緯で誕生したのでしょうか?

 高度経済成長期に、神戸電鉄や現在のJR福知山線沿線である神戸市北部、三田市にかけての人口増加が予想されたことから、神戸電鉄における輸送力増強策の一環として北神トンネルが建設されました。その運営主体として、神戸電鉄やその関連会社である阪急電鉄、地元経済界の出資で誕生したのが当社です。

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 たとえば谷上駅から、神戸電鉄のターミナルである新開地駅を経て三宮へ向かう場合は、30分から40分程度かかりますが、北神線と神戸市営地下鉄西神・山手線経由ならばおよそ10分で直通します。六甲山地で隔てられた神戸電鉄沿線と神戸市街地を短絡するため建設された約7.3kmの北神トンネルは当時、私鉄最長の山岳トンネルでした。

時短効果は20分から30分あるも…

 北神急行電鉄ウェブサイトの「沿革」には、「路線を整備するにあたっては、膨大な建設資金の調達方法と運営主体が課題となったが、資金については日本鉄道建設公団の民鉄線建設方式、いわゆるP線制度を活用して進められることとなった」とあります。この「P線制度」は、事業者単独では難しい鉄道の建設を日本鉄道建設公団(現・鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が主体となって行い、完成後に運営者が譲り受けて償還する制度のこと。北神線はいわば、建設、運営ともに関連事業者が国の補助などを活用しつつ、お金を出し合って誕生した路線です。

 北神線の建設費は、ふた駅間ながら700億円にも上りました。その償還もあって440円という普通運賃が設定されていますが、兵庫県や神戸市からの補助によって80円減額され、360円になっています。「長大な北神トンネルは、当社の弱点でもあり、強味でもある」(北神急行電鉄)といいます。

 北神急行電鉄は需要喚起策として、神戸電鉄沿線も含めた地域活性化や、マスコットキャラクター「北神弓子(きたがみきゅうこ)」を使ったPRに努めているとのこと。神戸電鉄沿線の活性化は、ひいては北神急行電鉄の利益にもなるといいます。また、年1回の「北神急行フェスティバル」で実施されるトンネル探検には、毎回行列ができるそうです。


茶色の太い線が北神急行電鉄(北神急行電鉄の画像を一部加工)。

 芝山鉄道、北神急行電鉄とも、京成線や神戸市営地下鉄と直通運転しているため、実質的にはそれら路線の延伸部となっているといえるかもしれません。しかしながら、自社区間の「個性」をアピールしようと、両社ともPRに取り組んでいるようです。

【地図】大半が空港敷地内、芝山鉄道線


芝山鉄道(青線。点線はトンネル部)の沿線はほぼ、成田空港のなか(国土地理院の地図を加工)。