販売が開始された「メガーヌGT」(3,340,000円)

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2017年はルノーにとって当たり年、ワインで例えるなら「ヴィンテージイヤー」といえそうだ。今春に日本で人気のルーテシアに新型のスポーツグレードを投入したのを皮切りに、初夏には2016年に登場して話題のコンパクト、トゥインゴにスポーツモデル「トゥインゴGT」を追加。2017年に入って行われた東京モーターショーでは、これらのモデルをF1マシンと共に展示してスポーツ色をアピール。さらに2018年日本導入予定で、先日フルモデルチェンジした「メガーヌ」のR.S.(ルノー・スポール)ヴァージョンを国内で初お披露目し注目を集めた。

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「メガーヌR.S.」は、「ホンダCIVIC TypeR」、フォルクスワーゲンの「ゴルフ」と共にニュルブルクリンク北コースにおける「FF最速」の座を争うモデル。「メガーヌR.S.」の走りはもちろんのこと、最速の座を奪還できるか注目だ。「メガーヌR.S.」の上陸も楽しみだが、ひと足先に今秋、ベースモデルと言うべき新型「メガーヌGT」の販売が開始された。さっそく芦ノ湖周辺で、新型車を試乗、その実力の片鱗に触れた。

■ ルノー・スポールの血が濃く流れるサラブレッド

「メガーヌGT」は我が国におけるルノーのフラグシップモデルであるものの、激戦区であるCセグメントに属するだけに「メガーヌGTならでは」の特徴がなければ、顧客の心をつかむことは難しい。そこでルノー・ジャポンは「スポーティーさを全面に押し出す」ことを考えたようだ。これは第4世代となる今回の「メガーヌGT」が、F1などを手がけるルノーのスポーツ部門「ルノー・スポール」が開発の初期からかなり関わって誕生したという事も大きく影響しているだろう。つまり単なるスポーティーテイストのハッチバックとは流れている血が異なる、生まれながらのサラブレッドなのだ。

さて、フルモデルチェンジしたメガーヌの最大の技術的特徴は、同社が一番大切にしているというドライビングプレジャー(=運転の楽しさ)を得るため、同社が「4コントロール」と呼ぶ4輪操舵システムを採用したことだ。リアタイヤは走行速度によって動きが異なる。低速域は前輪とは反対側(逆位相)に動き、敏捷性と小回り性能の向上に寄与。最小回転半径が40cmも異なるという。

高速域では前輪と同方向(同位相)とすることで、スタビリティとレスポンスに効果があるのだそう。

四輪操舵と聞いて、1980年代後半に登場した「スペシャリティーカー」を思い出す人は多いかもしれない。前輪だけでなく後輪を動かすこのシステムは一時期話題にはなったものの、機構の複雑さから来る販売価格の上昇や慣れ親しんだ二輪操舵との挙動の違いから、次第に数を減らしていった。しかし、ルノーは小回り性能と運動性能のため、この機構を採用。しかも1個のアクチュエーター、車速と舵角そして操作速度だけで操作角を決定するというシンプルな機構により、低コストとドライビングプレジャーを両立させたのだ。

この4コントロールは走行性能だけに寄与するものではない。コーナーリング中の車体の傾き(ロール)が抑えることができるため、サスペンションを、より柔らかい方向へとセッティングすることに成功。自動車にとって重要な要素である室内の居心地に寄与しているという。

■ 力強く伸びやかなデザインへと進化

デザインは前作の「メガーヌ」から大きく異なり、より立体的な造形。ルノーは過去平坦なボンネットデザインが多かった同社としては珍しく、ボンネットに6本のエッジを立てている。

空がボンネットに映り込むと、複雑な模様を織りなし、自動車が一層美しく映える。

 ヘッドライトの形状は同社が近年取り入れている「Cシェイプ」を採用。エアインテークとフラッシャーの一体化形状し、さらにスポーティさをアップさせている。

サイドラインもフェンダーが長めに見える形状とし、伸びやかさを強調。アッパークラスの雰囲気になった。またボンネット同様、ドアの下部を彫り込むような造形としている。

リアは、ワイド感を強調したデザインへとチェンジ。LEDを採用したテールランプは、細さ6ミリの物を階段状に配置。夜見ると浮遊感があるように見える。なお日中もテールランプは点灯する。これは近年の欧州車のデフォルトとなっている。

■ 日本人デザイナーによるインテリア

日本人が担当したという内装は、これまでのルノーとは大きく異なり、ボタンの配置や造形に細やかな配慮が感じられる。まずダッシュボードは、従来はマスを小さく見せるデザインだったものに対し、今回は大きく見せる方向へと変更。ユニークなギミックとしては、65ミリ稼働するアームレスト。左手をシフトレバーに置いたまま運転する際にシックリした場所に腕を置くことができる。また、その手前にあるシャッターを開けると、カップホルダーが2つあるのだが、間仕切りが移動できる細やかさが心にくい。

シートの材質はスポーティーなムードが漂うスエード調のアルカンターラ。スポーツテイストでありながら肌触りのよさ、フィット感の向上に貢献している。なんと、本国ではオプション設定の素材だが、日本では標準装備にしたという。

パワートレインは、日産自動車横浜工場で組み立てられた205馬力を発する1.6リットル4気筒ターボエンジンと、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)からなるもの。DCTとすることで変速スピードが大幅に向上している。アクセルレスポンスやシフトタイミングは「コンフォート」「ニュートラル」「スポーツ」のほか、自分好みに設定できる「パーソナル」を用意しているところがおもしろい。新たに運転支援システムとして、エマージェンシーブレーキなどを用意するが、日本車とは動作が異なるので注意が必要だ。ナビゲーションは車両と手持ちのスマートフォンを接続して利用する。

車両本体価格は330万円。これを安いと思うか高いと感じるかは人それぞれの価値観に委ねられるが、出力だけを見た場合、205馬力/330万円という価格設定は、他車に比べてコストパフォーマンスが相当高いと言える。ボディカラーは色はグリ チタニウム(グレー系)、ブルー アイロン(青系)、ブラン ナクレ(白系)の3色。ルノーと言えば黄色のイメージが強いが、今回はラインナップされていない。広報に尋ねたところ、本国のカラーバリエーションがそもそも少ないようで、まずは3色展開にしたとのことだ。上陸するのは「メガーヌGT」を上位に、その下に1.2リットルターボエンジン搭載、4コントロールレスの「GT-LINE」(263万円)、そしてロングボディの「スポーツツアラー」。「スポーツツアラー」の試乗は叶わなかったが、外観を見た限り、家族連れにはピッタリのボディサイズであると感じた。

ドアを開けると、ステップ部分にルノー・スポールの文字があるこのモデル。そして助手席にもルノー・スポールの文字。シートにもルノー・スポールのアイコン刺しゅうが入りスポーツ感満載。運転席に座ると、アルカンターラのシートが体にフィットし、やる気にさせる。しかもリアシートもアルカンターラで統一感がある。

■ 心が騒ぐスポーツハッチ

乗り心地は「ルーテシア」や「トゥインゴ」に比べるとやや硬め。ルノー車でいえば「ルーテシアR.S.」シャシーカップ仕様に近い感じだ。ハイグリップタイヤを履いているのだろうか、ロードノイズもやや多めで、普通の乗用車に乗っている人からすると、驚くかもしれない。そしてエンジンの回転数を上げていくと、助手席のあたりからわずかではあるが、甲高いターボのタービン音が聞こえてくる。それが苦痛なのか、というとそうではない。むしろシートの質感と相まって騒ぐ心を抑えることが難しい。

気になる四輪操舵だが、街中の車庫入れをはじめ、いたるところで「確かに小回りが効く」ことを実感。車幅は広いものの、Bセグメントと同じような感覚で運転できるだろう。芦ノ湖周辺には道幅が狭く急カーブが多いのだが、「メガーヌGT」は幅こそ感じさせるものの、車両の長さによる取り回しの悪さを感じることはなかった。道幅の狭い一般道からワインディングへとステージを変えると、これはFF車か?と思えるほどの切れ味の鋭いハンドリングに心がときめく。思ったラインをトレースできる楽しさが味わえるのはもちろんのこと、街中では固いかも、と思われた足回りとピッタリマッチしてハッピーそのもの。オーバースピードで「曲がれるかな?」という場面でも、ノーズがインを向き難なくコーナーを抜けていく。同クラスでここまでコーナーを速く駆けぬける車は思いつかないだけでなく、この安心感はドライバーに余裕を与えてくれる。

エンジンパワーは申し分なく、車体を前へ前へと引っ張っていく。4種類ある走行モードのうち、コンフォートは普通の街中で走るには不満なく、多くの人はこれを選ぶだろう。しかし、ワインディングを走るには、ちょっと物足りない。そこで選ぶのがスポーツモードだ。眠っていた獅子が目を覚まし、かなり俊敏なエンジンレスポンスと、レブリミットまでキッチリ回すセッティングは過激そのもの。さらにローンチコントロールも用意され、レーシーな気分を盛り上げてくれると共に、「メガーヌGT」がドライバーに対し「もっと速く」とせかしてくる。

さすがにそこまで過激でなくても、でもコンフォートではちょっと物足りない、という方にオススメなのが「ニュートラル」。このモードが最も楽しく運転することができた。他メーカーとは異なる、そして洒脱に運転を楽しむ。それはスポーツブランドのウェアでランニングするのと、ルコック・スポルティフのウェアを来てジョギングする違いにも似ている。「メガーヌGT」はその両方に対応できる杞憂な1台なのだ。

運転の楽しさが味わえるスポーツモデルが、2015年ごろから市場に増え始めているものの、これらのモデルの多くは、荷室が狭いなどユーザーに対して無理強いをする物が多い。「メガーヌGT」はユーティリティを確保しながらも、スポーツドライビングの片鱗が味わえ、そして本気を出せば応えてくれる。しかもフランスらしいおしゃれさを兼ねそろえている。ドライブ好きな人はもちろんのこと、車は動けば十分と思っている人にこそ「メガーヌGT」に乗ってみてほしい。きっと「自動車はこんなに楽しい乗り物だったのか」と感じるに違いない。

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