阪大は大学院生レベル、東大は学部生レベルのカリキュラムを用意し、製造現場や顧客行動などの現場に即したデータを使って演習する。

メリットは大きいが…
 各大学の受講生募集の時期が重なる可能性は高く、AIやIoTへの関心の高まりなどで、社会人の学び直しの意識が高まっている間に教育体制と実績をつくり、社会人講座を軌道に乗せる必要がある。

 他にも課題はある。文科省事業の各大学は平日夜と土日に120時間の教育カリキュラムを整える。社会人が大学で講義を受けるために120時間を捻出するのは簡単ではない。

 平日夜に2時間、土曜に5時間、学ぶとしても2カ月間かかり、その間は宿題と仕事に追われることになる。会社から承諾を得て残業を避けないと通学は難しい。

 また文科省にとっては社会人教育で大学院経営を立て直す狙いもある。大学が企業の人材教育システムの一部を担い、持続的な学び直しの環境を整える。

 そこで厚生労働省の教育訓練給付制度と連動させることも検討されている。具体化すれば受講料の40―60%が専門実践教育訓練給付金として支給されるようになる。

 そのためには大学から履修証明などの成果物が必要になる。ただ、「理事会を通していない大学が多い。18年開講の段階では、同じカリキュラムでも受講する大学によって費用が変わる可能性も」と漏らす教員もおり、足並みがそろわない可能性も残る。

 また、教員への負担も大きい。受講生獲得のために、企業に教員が出向く出張講座なども考えられるが「身の丈以上の風呂敷を広げると破綻しかねない」との声も聞こえてくる。

 それでも産学連携で教育するメリットが大きい。名大の山本教授は社会人講座を大学病院に例える。「大学の医学部が教育と研究、大学病院が臨床を担うように、社会人講座は工学部教員にとって実践の場。教育の実証と体系化、新しい研究ニーズの発掘ができる」と指摘する。

 開発した技術を教育に反映させることで技術の普及を担える。特にオープンソースとして公開する技術は社会人教育と相性がいい。「複数の企業が参画するコンソーシアム型の共同研究に発展し、参加社で分担して開発できる」と期待する。

 非関税障壁になっている規格への対応技術の開発や、中小企業がIoTなどの新技術を安く自社流に使うアプリケーション開発に向く。各大学は社会人講座としての自立の先に、学びと共創の場として進化できるか注目される。

(文=小寺貴之)