東京・汐留に突如現れた巨大な顔。ペッパーの生みの親がソフトバンクに出した挑戦状である(記者撮影)

ソフトバンクグループのヒト型ロボット「ペッパー」の生みの親が、古巣に"挑戦状"を出した。ロボットベンチャーのグルーブXは12月4日、東京・汐留に大きな広告を掲出した(同日から1カ月間の期間限定)。JRや東京メトロの新橋駅からソフトバンクグループ本社に向かうためには必ず通る地下道の中。嫌でも目に入る位置である。

イーロン・マスク氏にも猛烈アピール

「2018秋 COMING!」「LOVE X ROBOT=LOVOT」「いま世界に必要なのは、ロボットじゃないのかもしれない。けれど、、、」――。書いてあるのはこの3つだけだが、小さく書かれた社名を見て、ソフトバンク関係者でピンとこない人はいないだろう。グルーブXはペッパーの生みの親、林要氏が立ち上げたベンチャー企業だからだ。

林氏の猛烈なアピールの矛先は古巣にとどまらない。同じ4日には米国のロサンゼルスで、イーロン・マスク氏が率いる宇宙開発ベンチャー、スペースXの本社前に4週間限定で看板を立てた。

“Dear Elon, Our ambition is mashi-mashi as yours.” 

ややワイルドに訳せば、「大好きなイーロン様。僕らの野望はあなたと同じで『増し増し』だぜぃ」といったところか。

「増し増し」とは、ラーメンチェーン「ラーメン二郎」の注文の仕方の一つで、主にトッピングに使う。例えば「大ダブル、野菜多め、ニンニク増し増し、脂ギットン」といえば、「大盛りでチャーシュー2倍、野菜大盛り、ニンニクは2倍、スープの背脂多め」という意味だ。


米国ロサンゼルスのスペースX本社前に掲げられた”mashi-mashi」の広告(写真:グルーブX)

マスク氏は来日するたびにお忍びで新宿・歌舞伎町のラーメン二郎に足を運ぶことで知られている。今年7月の来日の際にも同店を訪れ、自らのSNSに書き込むほどだ。グループXの広報担当者は「イーロン氏に気づいて欲しい一心で、あえて『mashi-mashi』と書いた」と言う。

創業者はトヨタの元エンジニア

グルーブXの林氏は、ペッパーの元開発リーダー。トヨタ自動車でF1の開発に若くして携わり、ソフトバンクに移った。同社の創業者・孫正義会長兼社長の後継者育成機関「アカデミア」の外部1期生となり、孫社長に見出されて、ペッパーの開発を任せられた。


林要代表は1973年、愛知県生まれ。中学生の頃、風の谷のナウシカの乗る「メーヴェ」(尾翼のない飛行装置)にあこがれて木製の模型飛行機を改造、自宅の2階から飛ばしていたそうだ(撮影:梅谷秀司)

だが、フランスのロボット開発子会社「アルデバラン・ロボティクス」(現在はソフトバンク・ロボティクスが吸収)への赴任を命じられると「現場から離れてしまうとペッパーの面倒を見られない」と悩み、独立を決意した。

日ごろ孫社長から「お前の情熱が足りないから、プロジェクトが動かないのだ!」と叱咤激励されていた林氏は、「外に出て大きくなってきます」と独立を告げると、「お前惜しいな。頑張れよ」と優しい言葉をかけられたという。林氏は2015年9月にソフトバンクを退職、同11月にグルーブXを立ち上げた。

古巣に”宣戦布告”したその日、グルーブXは未来創生ファンドと産業革新機構(以下INCJ)などに対して、総額68億5000万円の第三者割当増資を実施すると発表した。12月18日に未来創生ファンドとINCJに優先株をそれぞれ14億円割り当て、INCJはその後21億円を上限に追加出資も予定している。

これによりグルーブXの調達額は、累計で最大78億7000万円となる見込みだ。「100億円あれば量産化できる」と林氏が当初から言っていた資金水準にほぼ近づきつつある。新規資金も主に開発費に充てるという。

未来創生ファンドは独立系投資会社のスパークス・グループが運営するファンドで、ほかにトヨタ、三井住友銀行が出資する。官民ファンドのINCJは、シャープへの出資など再生ファンドのイメージが強いが、出資件数ベースでは78%(2017年9月末)がアーリーステージ/ベンチャーへの出資だ。

肝心のロボットは「まだお見せしない」


スパークス・グループ、産業革新機構との会見でも、ロボットの具体的な内容は明かされなかった(記者撮影)

4日の会見で、林氏はロボットの開発について「当初の計画に対してオントラック(=計画通り)に進んでいる」と話した。しかしロボットの実物はなく、顔のようなものがイラストで見せられただけ。しかもこの顔らしきものすら「大きくは変わらないと思うが最終形ではない」(林氏)。大きさについても「ソニーのアイボより大きく、ペッパーよりは小さい」(同)と随分と幅がある。

「動くのか、それとも据え置き型なのか」「プログラムを公開して他社がアプリを開発できるようにするのか」などの質問に、林氏は「お楽しみに」と繰り返すばかりだった。価格については、言葉を選びながら「ハイエンドなAI技術を用いるので、ものすごく安いということにはならない」とだけ語った。

「ラブとロボットを掛け合わせた新世代家庭用ロボット『LOVOT』の開発をしている」「癒しを与える、やる気を与えるロボット」と言われても、ロボットの具体的なイメージを持つことは難しい。

「飽きられたくない」との理由から、開発中のロボットは出資者以外には非公開だ。「出資したい」と言われたことがないため、古巣の孫社長にもまだ見せていない。ただ、試作品を見せられた出資者は一様に「グルーブXと同じような開発をやっているロボットベンチャーは世界に1社もない」と口をそろえるという。

林氏は開発で一切妥協はしていないと繰り返す。「世界でも見たことのないようなモーターが(ロボットの中で)回っている。下町ロケットですかね」(同氏)。

実際のロボットのお目見えは2018年秋、サービス開始は翌2019年となる見通しだ。妥協せずにおよそ100億円かけて作る「癒しロボット」は稀代のベンチャー起業家であるイーロン氏、さらに孫氏を仰天させるほどのものとなるか。