プロを目指し、キャリアを積み上げようとする選手もいれば、引退後は社業や他業界で第2の人生をスタートさせる選手もいる社会人野球。目標意識に個人差のある集団でも指導者は組織としての目標に向かい、意識を1つにし、成果を出すことが求められる。トヨタ自動車硬式野球部元監督の廣瀬寛氏は選手との対話や理念に重きを置くスタイルで、若手とベテラン、主力と控えが一体となったチームづくりを行い、2005年社会人野球日本選手権ではチームをベスト8まで導いた。監督に在任した3年間で輩出したプロ野球選手は5人。現在は社業でも部下を持ち、組織の管理者としての手腕を発揮する。組織の目標達成のための意識づけや異なる志向を持つ人材を束ね、強い組織をつくるためのヒントを聞いた。

監督と同じ意識を持たせる
 ─廣瀬さんは社会人野球の監督と社業の管理職の経験があります。2つに共通することは。
 廣瀬「若手とベテランの関係はもちろん、キャリアアップを目指す社員はプロ野球を目指す選手、業務の中心となる社員とサポート役の社員の関係はレギュラーと控えの関係など、人間関係や目標の差異は会社組織と多くの面で重なります」

 ─チームづくりで心がけていたことは。
 廣瀬「“若手とベテラン”、“主力と控え”のそれぞれ違う立場の選手でも、チームの目標に向かって、高い意識で競技に臨む組織をつくることを心がけました。そのために、1人ひとりに自分の役割を認識してもらうことを意識しました。そうすることでモチベーションを高く維持することができると考えたからです」

 「若手とベテランを比較して、野球の実力が同じ場合は、瞬発力や回復力など、基礎体力がある若手がレギュラーを獲得しやすい。出場機会に恵まれず、ベンチにいることが多くても練習や試合中にモチベーションを高く保ち、それぞれが自分のできることを精一杯行う選手の育成とチームづくりを目指してきました」

 「特にベテランには監督と同じレベルの意識を持っていてほしいと思っていました。企業で若手社員が何か新しいことを始めようとした際、年配者や社歴の長い社員が消極的な考え方を示し、前に進まなくなってしまうことがあるようです」

 「しかし、ベテランはこれまでの経験から物を言っているので、正しいことを言っていることも多いです。だからこそ、若手が誤った方向に進みそうなときは、ストッパーとなって軌道修正をして成長に導くことがベテランの役割だと私は思っています」
 ─ベテランの経験や勘を活かすことは製造業でも関心の高いテーマです。
 廣瀬「野球でも試合の緊迫した場面ではベテランの経験や勘が活きます。たとえば、試合終盤でのチャンスの場面です。こうした場面では観客も盛り上がるなかで、若手なら浮き足立ってしまうこともあるでしょう。若手のエネルギッシュさや思い切りの良さは監督にとって魅力的です」

 「しかし、一方で危うさもあります。そうしたときには日頃は控えで目立たなくても、ベテラン選手の度胸や勝負勘に監督は期待したくなるのです。控えに定着してしまっているベテランでも、ヘルメットをかぶって、バットを振り、いつ出番を告げられても大丈夫なよう堂々と構えている姿を見たときは、迷わずグラウンドに送り出していました。監督と選手の思いが一致した瞬間です。言葉を交わさずともお互いの思いがわかるくらいの関係でなければなりません。そのためには選手と日頃から対話を欠かさず、信頼関係を築いておかなければならないのです」

コミュニケーションの本質を理解する
 ─全員に目を配るというのはなかなか難しいことだと思います。
 廣瀬「それをしっかり行うことが指導者の役割です。控え選手を含めた全員に必ずチャンスがあることを言って聞かせることが重要です。期待していることをわかってもらうのです。1人ひとりに自分の役割を認識してもらうには日頃からの十分な対話が必要です」