明日(2017年12月6日)は、フィンランドの「独立記念日」。100年前の1917年のこの日、「ロシア革命」後の混乱の最中にソ連から「独立宣言」が行われた。1日早いが、このコラムでフィンランド独立100周年の前祝いとさせていただきたい。

 12月6日の「独立記念日」にはフィンランドを代表する作曲家シベリウスの交響詩「フィンランディア」が演奏される。ロシアの圧制下からの独立を目指していたフィンランド人を鼓舞するために作曲されたこの曲は、聞いていると腹の底から元気が出る名曲だ。

 ちなみに、12月6日はキリスト教の聖者である「聖ニコラウス祭」でもある。4世紀の小アジア(現在のトルコの一部)の教父ニコラウスが、民間伝承のなかでサンタクロースに変化したとされる。奇しくも12月6日が独立記念日であるのは、サンタクロースの故郷とされるフィンランドにはふさわしいかもしれない。個人的な話で恐縮だが、12月6日はコラム執筆者である私の誕生日でもある。

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日本人の生活にも浸透しているフィンランド

 北欧の国フィンランドといえば、日本では非常に人気の高いムーミン、すでに幅広く日本人の生活に浸透しているサウナのほか、オープンソースOSのリナックスなどが思い浮かぶ。変わったところでは、奇妙きてれつなスタイルで有名なレニングラード・カウボーイズという名のバンドも挙げておきたい。

「ゆとり教育」でありながら国際的な指標で成績上位を実現するフィンランドの教育システムにも注目が集まっている。また、ウィンタースポーツの季節には、クロスカントリーやジャンプ競技などで上位陣に名を連ねるフィンランド選手の名前を耳にすることも多い。

 日本人にとって面白いのが、フィンランド人の名前だ。たとえば世界的に有名なF1レーサーのミカ・ハッキネン、この12月から最新作『希望のかなた』が日本公開された映画界の巨匠アキ・カウリスマキ監督などは、いずれも男性である。日本語の女子名のミカやアキが、なぜかフィンランドでは男子名になる。

 というのも、北欧諸国としてひとくくりにされることの多いフィンランドだが、ヴァイキングの末裔であるデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランドとは出自が異なるからだ。フィンランド語は、印欧語とはまったく異なるウラル系言語である。言語的には、バルト海の対岸にあるエストニア語が近い。

 所得水準でみれば、1人あたりGDPが4万3000ドル(2016年)のフィンランドは世界17位、しかも人口はたったの約550万人である。人口が1億人を超えている日本の1人あたりGDPは3万9000ドルだが、その日本よりも豊かなのだ。人口規模でみれば気候が似ている北海道とほぼ同じだが、面積ではフィンランドは北海道の約4倍である。フィンランドが人口密度はきわめて低い。

 こういう数字を見ると、小国のフィンランドがなぜ成功しているのか知りたくなるが、その点については後ほど触れることにしたい。

ロシアとの間に約1300キロの国境線

 日本とフィンランドは、ユーラシアの「大国ロシアを挟んだ隣人同士」だと言われることもある。

 フィンランドはなんと南北の1340キロメートルにわたる国境線を直接ロシアと有している。対人地雷が非人道的だということは知りながらも、国防の観点から廃絶に断固反対する意見があるのはそのためだ。北方領土は別にして、島国の日本とは大きく異なる状況にある。

 ここでフィンランドの歴史をざっと振り返って見ておこう。

 スカンディナヴィア半島にあるフィンランドは、西隣のスウェーデンの統治が600年近く続いたあと、独立するまでの約1世紀をロシア帝国のもとで過ごした。ロシア帝国の帝都であったサンクトペテルブルクとフィンランドの首都ヘルシンキとは380キロメートルほどで、距離的に近い(下の地図)。ロシアにとってはフィンランドは、西の大国ドイツとの重要な緩衝地帯と位置づけられていた。

フィンランドの位置。首都ヘルシンキとロシアのサンクトペテルブルグは380キロほどしか離れていない(Googleマップ)


 ロシア支配の末期に締め付けが厳しくなると、民族意識の高まっていたフィンランド人の間で独立志向が活発化する。そして、第1次世界大戦の後半に起こった「ロシア革命」の混乱期のなか、1917年12月6日に独立を宣言した。チャンスを見逃さすことなく、しっかりとつかみ取ったのである。

「現実主義」と「不屈の精神」で苦境を乗り切る

 第2次世界大戦では英米から批難されながらもナチス・ドイツと手を組み、2回にわたるソ連との死闘を戦い抜いた。辛くも独立は維持したものの領土の多くを失い、ソ連との休戦後は政治的リアリズムの観点から中立政策を選択、冷戦構造のもと西側の自由主義国でありながら、ソ連の影響圏のなかで主体的に生き残る道を貫いた。

 1991年のソ連崩壊後には、同じく中立政策をとっていたオーストリアやスウェーデンと同時に1995年にEUに加盟、1999年には共通通貨ユーロも採用している。北欧諸国のなかではノルウェーがEUには加盟せず、スウェーデン、デンマーク、アイスランドがEUに加盟してもユーロを採用していないのとは対照的である。

 ソ連崩壊によってフィンランドは主要な市場を失った。その結果、壊滅的な未曾有の経済危機に陥ったが、国家主導で政治経済政策を大転換、民間企業ではノキアが大胆な企業変革を断行し、「選択と集中」によって情報通信産業に事業を絞り込んで携帯電話で大成功を収め、政治経済の大転換期を乗り切った。

 日本が不良債権問題に苦慮していた1990年代、モデルとして話題になったのがフィンランドをはじめとする北欧の金融改革であったことも思い出しておきたい。

 ノキアはスマホ市場で後れを取り、最近はあまり名前を聞かなくなったが、ノキアに在籍していた人たちがスピンオフして起業し、IT関連のクラスター(産業集積)の形成に成功している。世界的に人気のモバイルゲームの「アングリーバード」もそうした流れの中で誕生した。

 北欧諸国はみな「小国」という不利な条件でありながらサバイバルしてきた。だからこそ、経済的なチカラをつけ、自分の国は自分で守るという姿勢を徹底している。フィンランドの場合、それを支えてきたのは「現実主義」であり、「不屈の精神」である。不屈の精神をさしてフィンランド語で「シス」(sisu)というが、「シス」は日本人のど根性にも通じるものがある。

「現実主義」の現れとしては、フィンランドが積極的に原発政策を推進していることを指摘しておきたい。フィンランドはエネルギーの30%を原子力でまかなっている。最大の40%は火力で、水力が17%、再生可能エネルギーが14%になっている。

 フィンランド政府が原発を推進しているのは、エネルギー自給ができないだけでなく、北極に近いので化石燃料に依存しているとオゾン層破壊の恐怖にさらされるためだ。小泉純一郎元首相が訪問したことで有名になった「オンカロ」とよばれる核燃料廃棄物の処理施設があり、自国内ですべてを完結させる姿勢をもっている。地震多発国の日本では考えられないことだ。

 フィンランド国民は、政府のエネルギー政策を信頼しているという。独立以来、民主主義を堅持してきたフィンランドは、日本のような「安心」依存社会ではなく、対話をベースにした「信頼」社会ということなのだろう。

「小国」だからこそ市場を外に求める

 もうずいぶん前のことになるが、筆者がかつて米国にMBA留学した際のことだ。語学研修のためカリフォルニア大学バークレー校で開催されているサマー・エクステンションに参加したのだが、同じクラスで出会ったフィンランド人女性との会話がじつに印象的であった。

 アメリカ人並みに流暢で完璧な英語をあやつる彼女に、「なぜそんなに英語ができるのか?」とたずねてみたら、「フィンランドは国が小さいので、外に出ていくしかないから」という答えが返ってきた。500万人強しか使用されていないフィンランド語は、フィンランドを一歩出たらまったく通じないのである。フィンランド語は言語構造が英語とまったく異なる。

 人口規模が550万人というフィンランドの国内市場がきわめて小さいのはデメリットである。だからこそ、国外に市場を求めなくてはサバイバルできないのである。

 日本人が英語ができないというのは甘えに過ぎないと言いたいところだが、いまだ1億人以上の人口規模の日本は、ある意味では中途半端に市場規模が大きいというべきかもしれない。

 ソ連崩壊後から10年たっていない頃、ロシアのサンクトペテルブルク(ソ連時代はレニングラード)から直通列車でヘルシンキまで行ったことがある。フィンランドに入国後に車内でパスポートコントロールがあるが、そのときの担当車掌の男性がまたすごかった。

 隣席に座っていたのはフィンランド貿易に従事しているロシア人ビジネスマンだったが、車掌がロシア人にはロシア語で話しかけていたのはとくに驚きはなかった。だが、私にはなんと日本語で話しかけてきたのだ! さすがに隣席のロシア人と顔を見合わせて2人で驚いてしまった。車掌に聞いてみたら、なんと独学で習得したのだという。

 人口わずか550万人のフィンランドであるが、世界的に活躍している有名人だけでなく、このように無名でもすぐれた能力を発揮する一般市民も少なくない。

「小国」が生き残るには人材育成に投資するしかない

 国家が生き残るのは人材次第である。日本でも話題になっている「フィンランド式教育システム」の成果かどうかは分からないが、人口小国ゆえのハンデを逆手にとった成果といえるだろう。

 フィンランドでは、2017年1月から2000人を対象に日本円で毎月約7万円を支給する「ベーシックインカム」の社会実験が開始されている。開始から半年後に中間報告が公表されているが、おおむね好結果が出ているようだ。「ベーシックインカム」で所得保障することが人生の再チャレンジにつながっているのであれば、国家レベルでの人材育成において底上げの役割を果たしていると評価すべきかもしれない。

 小国フィンランドは、今後も大いに注目していく必要がある。

筆者:佐藤 けんいち