10月に発売した新型炊飯器を前にするアイリスオーヤマ 家電事業部 調理家電事業部の平元佑司事業部長


 アイリスオーヤマといえば、ホームセンターで売られているプラスチックの日用品を思い浮かべる人が多いだろう。しかし同社はもはや家庭日用品メーカーの枠には収まらない。家電事業がめきめきと成長しているのだ。

 家電市場に本格参入したのは2009年。以来、家電事業は拡大の一途をたどり、2017年度は約730億円の売り上げを見込む。今や全社の売り上げの約50%を家電事業が占めるまでになった。

 照明、掃除機、エアコンなどさまざまな製品を開発・販売しているが、特に売上の伸びが大きいのが炊飯器だ。2015年11月に炊飯器市場に参入し、それからわずか約2年の間に、炊飯器は同社の家電事業のなかで照明関連製品に次ぐ売上規模に成長した。

 この10月には「銘柄炊き 圧力IHジャー 5.5合」「銘柄量り炊き IHジャー炊飯器 3合」という2製品を新たに発売。計9製品のラインナップでさらなるシェア拡大を目指す。

 アイリスオーヤマはどのような考え方、方法で炊飯器を開発しているのか。家電事業部 調理家電事業部の平元佑司事業部長に躍進の秘密を聞いた。

2017年10月に発売した「銘柄炊き 圧力IHジャー 5.5合」(左)と「銘柄量り炊き IHジャー炊飯器 3合」(右)(写真提供:アイリスオーヤマ、以下同)


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お米と炊飯器をセットで提供

──炊飯器市場は象印やタイガー、パナソニックや三菱、日立など強力なメーカーがひしめいています。そんな市場になぜ参入することになったのですか。

平元佑司氏(以下、敬称略) 当社は2013年から精米事業を手掛けています。宮城県に精米工場を建てて、自社精米した北海道や東北のお米を全国に届けています。おいしいご飯を全国にお届けするために、お米と炊飯器を一緒に提供できたらいいのではないかということで炊飯器を作り始めました。

──炊飯器に生かされている精米事業のノウハウはありますか。

平元 例えば、精米事業ではお米の銘柄別のおいしさを引き出す炊き方を研究しています。銘柄ごとに最適な加熱時間や蒸らしの時間、加熱速度などを研究し、その研究成果を基に銘柄別に炊き分けるプログラムを作って、炊飯器に搭載しています。

他メーカー出身者の技術と経験を活用

──アイリスオーヤマは2013年に大阪にR&Dセンターを設置して、他メーカー出身の技術者たちを採用したと聞いています。炊飯器の開発でもそうした人材が活躍していますか。

平元 そうですね。さまざまなメーカーでさまざまなものを作っていた人たちに入社してもらい、家電製品を開発しています。やはり、プロパーの社員だけではなかなか修得できないノウハウがありますので、みんなが持ち寄った技術や経験を組み合わせながら商品開発を進めています。

──他メーカーで実際に炊飯器を開発していた人たちがいるのですか。

平元 はい、います。

──やはり、そういう人がいないと難しいですか。

平元 まったく新規の開発は難しいと思います。私たちが他メーカーの炊飯器の構造を調べても、商品を見ただけでは開発や製造のノウハウは分かりません。他メーカーで実際に炊飯器を作っていた人の技術や経験を基に、アイリスオーヤマらしい知見なども加えながら開発しています。

アイリスオーヤマは2015年11月に炊飯器市場に参入。最初の商品、マイコン式炊飯器「銘柄炊き ジャー炊飯器」を9800円で発売した


開発方針は「値ごろ」「なるほど」

──炊飯器市場は新規参入の余地がないようにみえますが、見事に結果を出しています。消費者からどういう点が評価されていると思いますか。

平元 当社の家電製品すべてに共通するのですが、「値ごろ」「なるほど」という開発方針を掲げています。

 まず、高くもなく安くもなく、ちょうどいいと思っていただける価格の商品を生活者の皆さまに提供するということです。

 そして、当社としては「なるほど」という言い方をするんですけれども、この機能があってよかった、便利だな、使えるなと思っていただけるような、他社にはない機能を追加することをポイントにしています。

 当社の炊飯器は、「値ごろ感」があり、「なるほどな」と思えるアイデアが盛り込まれた製品だということが、市場で少しずつ認知いただけてきたということなのではないかと思います。

「銘柄量り炊き IHジャー炊飯器 3合」は釜とIHヒーター部分を分離させて、IH調理器としても使用できる


──「値ごろ感」のある商品ということですが、新商品の開発ではまず価格から決めるのですか。

平元 はい、どれぐらいの価格帯でどれくらいの機能なら支持していただけるのかというところを議論するのがスタートになります。

──アイリスオーヤマの炊飯器にはいろいろな独自の機能がありますね。よそったご飯のカロリーを表示したり、米に含まれる食物繊維成分を通常の2倍にする機能とか。そういう機能のアイデアはどのようにして出てくるのですか。

平元 さまざまなケースがあります。事業部の中からアイデアが出てくることもあれば、他メーカーから来た社員が前職で実現したくてもできなかったアイデアを提案することもあります。社内の応用研究部からの提案もありますし、小売店さんの意見が反映されることもあります。アイデアの出方はさまざまです。例えば、カロリー表示機能のある炊飯器を開発した担当者は、普段の生活の中で医師からカロリー制限をするように命じられていました。

──切実なニーズから生まれた機能なのですね。

平元 自分の体に危機感を覚えて、ご飯1杯でどれぐらいのカロリーなのか知りたかったということですね。ちなみにその担当者は、最近劇的にやせて健康になっています。

おいしさのポイントは「全体のバランス」

──最近の炊飯器は釜の進化がすごいですよね。釜がどんどん高機能化していって10万円以上の炊飯器も登場しています。

平元 そうですね。炊飯器市場全体の流れは、高機能化、高級化して価格を上げていく方向に向かっています。

 でも、10万円で炊いたご飯と、当社の3万円ぐらいの商品で炊いたご飯を、ブラインドテストで小売店のバイヤーの皆さんに食べ比べてみていただいたことがあります。すると、どちらで炊いたご飯か、意外と皆さん分からないんですよ。

 だから、そこまで高級志向の製品を送り出さなくても、値ごろ価格の炊飯器でおいしいご飯を召し上がっていただけるんじゃないかというのが私たちの考えです。大事なのは釜と炊飯プログラム、水の量などの適切なバランスだというコンセプトで開発しています。

──今後も高機能化、高価格化していくことはありませんか。

平元 はい、10万円とかの炊飯器を作ることはないですね。

──家電事業は全部そうですか。

平元 高級志向なものを作らないというわけではないんですけれども、私たちは「生活者の方々が納得して買っていただけるお値ごろ価格はいくらなのか」というところを大事にしていますので。基本的にはその方向に進むことはないと思います。

筆者:鶴岡 弘之