「スーツだと堅苦しくなっちゃうからね」。11月29日、ラフな服装でインタビューに応じる楽天の三木谷浩史会長兼社長(撮影:今 祥雄)

筆者が三木谷浩史会長兼社長に取材をするのは2年ぶり。この2年の間にライドシェア(自動車の相乗り)への出資や広告事業への取り組みなど、楽天グループは新しい領域へとウイングを広げた。
さらには人気サッカークラブであるFCバルセロナとのパートナー契約やまったく新しいがん治療法への出資なども注目の的といえる。インタビューではこうした点を深掘りした。その内容を3日連続(第1回=新事業への取り組み、第2回=パートナー契約について、第3回=がん治療事業)でお届けする。

今後10年は過去20年よりも大きな変化が起こる

山田:楽天は今、どこにいますか。大きな絵の中で説明してください。

三木谷:インターネット革命は30年というふうに言われており、すでに20年が経過した。しかし、これからの10年で起きる変革のほうが、ここまでの20年よりも明らかに大きいと思っています。

今までは、どちらかといえば既存サービスの代替が主体だった。たとえば従来の通信販売がインターネットショッピングになるとか、あるいはDVDがストリーミング配信になるとか。そういう代替だったと思うんですけども、これからはそうではない。さまざまなことの「再定義」が行われることになる。これからは置き換えではなく、経済構造自体が大きく変わっていく大変革の時代に入ります。

通信販売の置き換えによって生まれたインターネットショッピングは、これからは小売りにかかわるすべてのバリューチェーン(価値体系)を変えていく。プロモーション(販売促進)も決済もすべて変わっていきます。

山田:小売りそのものが再定義されていくということですね。

三木谷:再定義されていく。だから、広告のやり方もまったく変わってくる。そういう意味において、これから10年で起こる変革のほうが、これまでの20年よりはるかに大きいと思っているんです。

山田:再定義されると従来のインターネットショッピングはどのようになるのでしょうか。


三木谷浩史(みきたに ひろし)/1965年神戸市生まれ。1988年一橋大学卒業後、日本興業銀行に入行。1993年ハーバード大学にてMBA取得。興銀退職後、96年クリムゾングループを設立。1997年2月エム・ディー・エム(現・楽天)設立、代表取締役就任。同年5月「楽天市場」を開設。2000年にジャスダック上場。2012年6月に発足した一般社団法人新経済連盟の代表理事を務める(撮影:今 祥雄)

三木谷:はっきりしているのは、「インターネットショッピング」という言葉が示していた従来の定義は完全に崩れていきます。

つまり、日本においては、どこまで頑張ってもインターネットショッピングが全リテールマーケットに占める比率は15%ぐらいだろうなと思ってるんですね。しかし、これは狭義のインターネットショッピング。これまでは、取引部分だけをインターネットショッピングと定義していましたが、これからは小売り全体がインターネット化されていく。その結果、オンラインからオフラインへとつなげていく部分も伸びるし、取引に至るまでのプロモーションも伸びていく。

プロモーションとしては、単純に来店を誘うようなこともあれば、あるいは、特定の商品を売り込むというようなこともある。そのときにいちばん重要になってくるのは、データであると思っています。楽天はデータという点では非常に強いポジションにいるので、ここは今後、大きく伸びていく部分です。

山田:狭義のインターネットショッピングの枠を飛び越えて、小売り全体を押さえていく、と。

三木谷:そのためにカードもやっていますし、電子マネーもやっています。決済については、オンラインもオフラインもまとめようとしている。しかし、最後の取引だけじゃなくて、商品のキュレーションから始まってプロモーション、決済を含む全部のバリューチェーンを取りにいく話だと思っています。

今までは、あまりターゲティングをせずに、テレビ広告をしたり、あるいは新聞広告をしたりということをしてきたわけです。われわれのデータをもってしてターゲティングをすることによって、少なくとも数倍の効果を上げることができるだろうと。

広告効率は、これから圧倒的に引き上げられる

山田:広告も大きく変わっていく、と。

三木谷:もちろん、もちろん。だから電通と楽天が組むことになったわけですよ(2017年7月に楽天データマーケティング株式会社を楽天51%、電通49%で設立)。広告効率は、これから圧倒的に上げることができると思っています。そして日本では、楽天が最もそのことを有効的にできる会社の1つだと思っています。

山田:データを活用した広告ビジネスというのは、今のタイミングでの参入がベストですか。

三木谷:もっと早くやっていてもよかったと思いますけどね。機は熟しています。

山田:5年くらい前に参入してもよかったですね。なぜ参入が遅くなったのでしょうか。

三木谷:そうは言っても、こればかりは戦略的リソースをどこに投入するか、という問題がありますから。これまでも土台部分は作ってきました。これからそこを本格的にやっていくということです。

山田:楽天グループにはクレジットカードもポイントもある。これは広告事業を進めるうえでは大きな武器ですよね?

三木谷:ポイントもありますけど、何よりも大切なのはデータですよね。たとえばテレビ広告をしたときに、その商品が本当に売れているかをデータを分析して確認できるようにするわけです。

この効果は、まずは楽天自体で証明していけると思っています。今はおそらく、実際に売れるものの5分の1ぐらいしか売ってないという感覚を持っているので、データを活用することによって、楽天のショッピング事業自体を飛躍的に伸ばしていけると思っています。

山田:データを内部で活用すれば楽天のショッピング事業が活性化し、外部で活用すれば日本の経済活動全体を活性化できるかもしれない。

三木谷:まさにそれ。経済学でいうところのデモンストレーション効果(他者に影響を受け購買行動が変化すること)を高めていくことができる。情報がちゃんと共有されていけば、購買も伸びてくるんです。そして、商品が売れればおカネの循環もよくなってくるということなので、個人消費の成長につながるんじゃないかな。

日本にはあまりにも多くの規制の壁がある

山田:データを活用した広告事業は、今後の10年における重要事業ですか。

三木谷:いや、ワンオブゼムです。AI(人工知能)を使ったさまざまなサービスの自動化であったり、オプティマイゼーション(最適化)というのはどんどん進んでいきます。もうあらゆるものが再定義されていく。たとえば教育というものも再定義されていくだろうというふうに思いますし、10年経てば、「なんで昔は学校が必要だったんだっけ?」という話になると思うんですよね。

山田:再定義を進めるうえでは、数多くの規制の壁がある。政府による規制改革が必須です。

三木谷:日本の今までの強さが、残念ながらこれからはマイナスに働く時代になる。つまり、日本はきわめて安定したシステムを作ってきたわけですが、これは変革期には非常に弱い。たとえば、ライドシェア(相乗り)は日本では、いまだに認められていないし、民泊についても本来であれば、さらに積極的に進めるべきだと思うんですけども、いまだに制限をかけようとしている。これは心配な動きです。

これからはブロックチェーンベースのプライベートカレンシー(私的通貨)も出てくるでしょう。そういうものについても、とにかく前向きに、積極的に進めていくという姿勢がないと広まっていかない。

まったく進んでいないとは言えませんけど、総じて言うと、やはり後手後手に回っている。既存の規制が壁になっているところがあるので、この規制をいかに撤廃していくか。本当に絶対必要というもの以外の規制については、見直していくべきだと思っていますし、それは楽天一企業じゃ難しいので、業界として力を集めて、新経済連盟としてやっているわけです。

山田:多くの政治家や官僚は、規制改革が必要であることはわかっている。しかし、「森友・加計問題」のようなことが起きると、岩盤規制の改革にはネガティブなイメージが付きまとって改革が停滞してしまう。これは日本の大きな不幸だと思います。

三木谷:政治の状況がどうであったとしても、現実は待っていてはくれない。これだけは事実です。もう、議論をしているような状況ではなくなりつつあるのは間違いない。たとえばお隣の中国ではキャッシュレス化が徹底的に進んでおり、もうキャッシュを使って買い物をするのは日本人旅行客ぐらい、というふうになってしまった。わずか数年でそこまで進んでいるんですよ。

もっと驚くのが交通信号です。交差点の信号も、ライドシェアリングカンパニーが、赤と青のタイミングを決めるようになっている。データを持っているところが決めたほうが効率的ですから、なにもお役所がやる必要はない、と。そのくらい先に行っちゃってるわけです。ところが日本はまだライドシェアは白タクであるというふうになっているわけで。

つまり、ライドシェアの先では、都市構造自体も大きく変わっていくわけです。にもかかわらず、日本の大きい遅れは心配ですね。日本の最も中核であった自動車産業についても、厳しい状況に追い込まれるシナリオが十分考えられる。だからこそ、われわれとしては前向きに、新しいことをやっていきましょうよということで官庁、そして永田町にも働きかけているわけです。

基本的には、「なんでこの規制が必要だったんだっけ?」というところから議論を始めればいい。おそらくライドシェアを禁じている理由は「乗客の安全性を守るため」ですよね。別に業界団体を守るために規制を始めたわけじゃない。「じゃあ、今の仕組みがその安全性を守るための最善の方法ですか」という話。実際にライドシェアをやっている国は多いので、そこと日本のタクシーと比べてどっちが安全なのかを検証すればいい。その結果、安全性に問題があれば、克服できる可能性があるのかどうかを検証すればいい。この分野は、これ以上遅れると極めて厳しい状況になります。いっそのこと、追いつこうとするのではなくて、むしろ他の国よりも前に出ることを考えたほうがいいと思うんですよね。

今のシステムが最善の方法なのか?

山田:ライドシェアの分野では、出資しているLyft(リフト)、Cabify(キャビファイ)、Careem(カリーム)の3社とも好調。しかし、それを日本で展開するのは難しいわけですね。

三木谷:今の規制だったらできない。しかし、それをあまり言うとたたかれますからね。

山田:確かに、「自分の会社が出資している事業について規制緩和を求めるのはけしからん」という声があります。抵抗勢力が使うロジックで大手メディアも乗りがちなのですが、これはおかしい。裏献金などのルール違反をしているのであれば大問題ですが、そうでなければ、むしろ実際に事業を行っている者こそが強く主張するべきだと思います。

そもそも、これまでの規制体系は壊れかけている。今までは「大企業はしっかりしている」という前提があった。たとえば完成車の最終検査はルールどおりにやっているだろう、東レや神戸製鋼所のような名門はうそをつかないだろう、と。要するに、大企業が信用できるということを前提に定義されていた安全性なのかもしれない。そして、それは崩れている。

三木谷:そうですね。もう社会、生活、それから価値観というものが、ここから10年間で抜本的に変わると思います。その中で米国の多くの政治家は「子どもたちのために新しいシステムを設計しなければいけない」と考えているんですよ。日本の政治家も、「自分たちのためではない、子どもたちのためなんだ」という思いをもっともっと持つべきだと思いますね。

山田:そういう政治家や官僚は増えてきていますよね。

三木谷:新経連による活動も奏効しているのだと思いますが、着実に増えています。悲観はしていません。