11月に京急川崎駅で開かれた「JAZZ STATION in 京急川崎」。会場となった電車とジャズヴァイオリニストの牧山純子氏(筆者撮影)

京急川崎駅の大師線1番ホーム。正月の初詣シーズンともなれば、川崎大師に向かう参詣客でごった返すそのホームも、普段は列車の発着もなく、静まり返るばかりである。が、11月上旬のその日だけは、華やかなジャズの調べとそれに聴き入る人たちでいつにないにぎわいを見せていた――。

“ジャズの町”として地域おこしに取り組む川崎市で毎年秋に開催されているジャズフェスタ「かわさきジャズ」に合わせて、京急川崎駅では4年前から「JAZZ STATION in 京急川崎」なるイベントを行っている。

なぜ「電車内でジャズ」?

普段は使われていない大師線の1番線に車両を停め、その中でジャズの演奏。夕方16時・17時・18時に30分ずつ各3回のコンサートが行われ、合計で112人が“電車の中で”ジャズを楽しんだ。出演者は毎年変えており、今年はジャズヴァイオリニストの牧山純子氏が登場。車内の照明も普段とは一味違うブルーライトに統一し、コンサートのムードを盛り上げる……

と、これが簡単なイベントの概要だ。

京急電鉄のような大手私鉄事業者が実施するイベントといえば、かなり大規模なものになるというイメージもあるが、この「JAZZ STATION」は参加者も少なく、どちらかというと手作り感が強い印象。なぜこうしたイベントを始めたのだろうか。

「弊社の担当者と川崎市の方が『一緒に何かやれないか』と話をしていたところから始まったと聞いています。ジャズありきではなく、弊社と川崎市がともに町を盛り上げられるイベントは何か、と考えたときに出てきたのがジャズだったということですね」(京急電鉄広報担当者)

イベントの実施も大々的にPRしたわけではなく、京急電鉄HPへのプレスリリース掲載と神奈川新聞など地元紙への掲載程度。車内でのコンサートということで参加できる人数が少ないという理由もあるが、“地域密着”も1つのキーワードになっているようだ。


ライブハウスのような雰囲気となった電車内(筆者撮影)

「これまでも特に三浦半島の沿線を中心に地域の皆様と一体となった形でのイベントを企画してきました。経営計画にも『地域とともに歩む』ことを掲げているように、一方通行ではなく沿線の地域と一緒に何かに取り組もうという機運が高まっている。その1つが、このJAZZ STATIONですね」

多くの人が集まる大規模イベントではなく、“手作り感”によって“地域とともに”というニュアンスが強まるという点もありそうだ。筆者も取材した山手線の貸切列車「夢さん橋号」もそうであったように(山手線でプロレス!夢の貸切列車の舞台裏)、最近の鉄道関連のイベントは、“地域”が前面に出るパターンが主流ということなのだろうか。

電車内は音がよく響く!


観客の目の前で迫力の演奏(筆者撮影)

で、肝心のコンサート。わずか30分と短い時間だが、牧山さんが車内を歩いて客席(座席?)の目の前で演奏を披露するなど、フツーのコンサートでは決してありえないような距離の近さもあって大いに盛り上がった。牧山さんに話を聞いてみると……。

「もちろん電車の中で演奏するのは初めて。電車って、思っていた以上に音が響くんですね。コンサートホールにしてもいいかなってくらいでした。お客さんとの距離がとても近くて、ヴァイオリンの指使いや私の息遣いまで感じてもらえる。楽しそうなお客さんの表情もよく見えて、とってもパワーをもらいました。これもコンサートホールなどでは得られない経験ですね。演奏しながら通路を歩いているとお客さんが足を引っ込めてくれたり、そういう交流も電車の中ならで面白いですね(笑)」

と、“人生初”の電車内コンサートに新たな発見もあったようだ。


一見すると何の変哲もない停車中の電車だが、よく見ると車内ではジャズ演奏が(筆者撮影)

さらに、このイベントでジャズを楽しめるのは牧山さんのコンサートだけではない。車両の1両目・2両目(横浜方面)は立ち飲みBARとして無料開放(入場券も不要)されており、こちらでもオートクチュールサックスカルテットによるジャズ演奏がゲリラ的に繰り広げられた。

「これは今回が初めての試みです。立ち飲みBARの実施はお知らせしていましたが、車内での演奏は事前告知していませんでした。だから、当日何げなく来ていただいたお客様にとってはラッキーですね」(京急電鉄広報担当者)

沿線との一体感が重要に


通常は使わないホームに電車を停めて開かれた"JAZZ STATION"。立ち飲みバーも展開した(筆者撮影)

今回JAZZ STATIONが行われた京急川崎駅1番ホームは、通常時の運行では使われていないこともあり、最近では頻繁にこの“立ち飲みBAR”を開催しているという。

「月1ペースでやってますね。遊休スペースを有効活用し、その中で少しでもお客様に京急に愛着を持っていただければ」(京急電鉄広報担当者)。こうして“京急川崎駅のBAR”は徐々に地元の人たちにも定着しつつあるとか。

大手の事業者にとってもどのように“沿線との一体感”を生み出していくのかは長期的に見れば重要な課題の1つ。とはいえ、即効性のある手段はなかなかない。そんな中で、"ジャズの町・川崎”で行う車内ジャズコンサートイベント。駅や車両という自前の設備を活用し、"ここでしかない”何かを地域とともに提供していくことは、これからの鉄道にとって欠かせないものになるのかもしれない。