私たちは、東京にいる限り夢を見ている。

貧しい少女にガラスの靴を差し出す王子様が現れたように、いつかは幸せになれると。

だが必ず、自分が何者でもないと気づかされる時が来る。

神戸から上京し、港区女子へと変貌を遂げる真理亜と、その生き様を見つめる彩乃。

彼女たちが描く理想像は、現実なのか、それとも幻なのか...

真理亜に嫉妬しながらも、東京でもがきながら生きる彩乃。しかし真理亜がアメリカへ旅立ち、徐々に変わり始めた。3年後、真理亜が東京に戻ってくることになったのだが・・?




-真理亜が帰ってきたらしい。

私は、真理亜の帰国を彼女のInstagramで知った。

それも無理はない。LINEも変更し、携帯の番号も変えたため、多分真理亜は今の私の連絡先を知らない。

真理亜が東京を離れて2年くらい経った頃、私は全てをリセットしたくて、一度自分の連絡先を全て変えた。

人生はゲームのように簡単にはリセットできないけれど、LINEのIDを変え、Instagramでフォローする友達を整理して携帯の番号を変えれば、何となくリフレッシュできるような気がしたのだ。

東京で生きている年数が長くなるにつれ、増えていくしがらみ。知り合いの数が多くなればなるほど、尽きぬ人間関係の悩み。

“大人になるにつれ友達は選べる”と言うけれど、それは本当なのだろうか?学生時代の方が、意外に気が楽だったのかもしれない。

私が携帯電話など全て変えるキッカケとなったのは、忘れもしない早苗の誕生日会だった…。


“常に一緒”でないと仲間はずれ?にされる女友達の輪


誕生日会に潜む罠


-1年前-

「彩乃ちゃんようやく登場〜!待ってたよー。」

多分大して待ってないであろう早苗に呼ばれて向かったのは、『西麻布 バー ブロス』の奥にある個室だった。

昨年は彼氏と旅行に行ったと自慢していた早苗だったが、今年は別の男友達が開いてくれたお誕生日会で、本人は随分とご満悦な様子だった。

個室には、ごちゃごちゃと飾られた大きなバルーンにシャンパンとワインの数々。男女合わせて10名くらいが何やら艶かしい様子で楽しんでいる。

そして“私が今日の主役です”と書かれたタスキをかけ、ティアラをつけている本日の主役・早苗がいた。




「おめでとう、早苗。今日は呼んでくれてありがとう。」

「こちらこそ、彩乃ちゃん忙しいのに、来てくれてありがとう〜!」

東京で生きて行く上で欠かせないアイテム・女友達。

真理亜がいなくなり、私は女友達を欲していた。一度この輪から抜け出そうと試みたものの、私は結局、一人っきりで生きられるほど強くはなかった。

以前ほど依存しなくなってはいたが、やはりこの手の会に呼ばれると嬉しい。自分も仲間だと認められている気がするから。

東京では、属せる場所がないと、不安になる。

誰かと繋がっていると感じていないと、突然怖くてたまらなくなる時がある。この広い都会の中で、私は独りぼっちなのかもしれない...と不意に不安に襲われる時もある。

だからこそ、普段は会わなくても、こういった会にだけは顔を出すようにしていた。

まるで自分の存在意義を確認する、確認作業のように。

そう思いながら雑談していると、早苗が思い出したように話しかけてきた。

「今度みんなでホテルのスイートを貸し切ってお泊まり会するんだけど、彩乃ちゃんも来れる?って、あ...。でも、彩乃ちゃん誘ったら“可哀想”かぁ。」

早苗の一言に、思わず手が止まる。可哀想って、どういう意味?

周囲の女子の哀れんだ目がこちらに向けられている。咄嗟に、必死に働いている自分の生活ぶりが、皆のゴシップネタになっていることに気がついた。

女友達たちとは、一体なんなのだろうか。

同じレベルを維持していないとその輪からすぐ外される。皆仲良しこよしのフリをしながら、根本的な所では常に孤独と隣り合わせ。

一人だけずば抜けて幸せになってもダメ。落ちぶれてもダメ。

“常に一緒”でないと、じわじわと除外されていくのだ。

「無理しなくていいからね!彩乃ちゃんはお仕事もあると思うし。」


最後に笑うのは誰?彩乃が受けた屈辱とは


タクシー代を貰える女と、貰わない女


「はぁ〜い、女子だけで写真撮るから、女性陣はこっちに集合〜!」

早苗の一言で、女の子がワチャワチャとケーキの前に集まる。

「あ、こっちの携帯でもお願いしまーす。」

必死に中腰になって写真を撮ってくれる男性陣の、少し滑稽な様を見ながら、私の心は冷えていく。

ようやく誕生日会はお開きとなり、2軒目へ行くメンバーはゾロゾロと連れ立って、西麻布の交差点に向かって歩き始めた。

「ごめん、明日仕事だから今日は帰るね。」

「そっか〜残念。またね。」

大きなバルーンを引っ張りながら歩く早苗から、私が2軒目に行けないことに対する落胆など1ミリも感じられない。

簡単に挨拶をしてその場を去ろうとした時、早苗の一言に、私は絶句した。

「男性陣の皆様、誰か彩乃ちゃんにタクシー代お願いしま〜す!」




たしかに、1万円のタクシー代は欲しい。あって損はない。だけれども、もうすぐ27歳だ。タクシー代欲しさに来た訳でもなければ、それで生活している訳でもない。

そして何より、大声で私の名前だけが叫ばれ、まるで私がタクシー代をせびっているようにも聞こえる。

男性のうちの一人が、「おぉ、そうだよね」と言いながら、お財布から1万円札を取り出した瞬間、私は咄嗟にその人の腕を掴んでいた。

「いえ、結構です。タクシー代なんて、いりません。自分で帰れますから。」

タクシー代を貰って喜んでいいのは、25歳まで。それ以降は、自分で稼いで自分で帰って当たり前。

そのままタクシーを捕まえ、小さくなる早苗達を見つめていた。

この子達が、私の居場所だった。東京で生きて行く上で、この集団から嫌われたら私の居場所はどこにもなくなってしまう。そう思っていた。

世の中の悩みの8割は、結局人間関係のような気がする。

一人になるのが怖いから、無理に取り繕い、必死に私たちは笑顔を作る。

でも、そんな仮面を被ったままでは、結局孤独なままなのだ。心が虚しいだけだから。

でも自分を殺してまで一緒にいる必要なんて、何もない。

タクシーの窓を開けると、キンと冷たい空気が車内に入り込む。窓から顔を出し、私は冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

東京は、広い。何度でも、やり直せる。

だから自分を、大切にしよう。



-真理亜、帰国するんだね。待ってるよ。

Instagramを開き、真理亜にダイレクトメッセージを送る。

今の私なら、もう何も卑屈になることはない。そう思っていた。

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遂に再会を果たす二人。しかし変わった真理亜に対して...?