西洋薬より漢方薬のほうが効き目が穏やか、副作用も少なくて安心……。そんなイメージをお持ちの方も多いと思います。また、西洋薬を飲んでいるがなかなか改善しないとか、医者にかかっても「原因がわからない」と言われる……などの症状に悩まされている場合、漢方薬なら、と期待される方も少なくないでしょう。

漢方薬は対症療法ではありません

西洋薬と漢方薬の大きな違いは、その目的にあります。西洋薬は、すでに出ている症状を「緩和する」「楽にする」ことを目的に飲むものです。つまり対症療法として飲む対症薬です。

一方、漢方は対症療薬ではありません。中には飲んですぐ効果が出るものもありますが、多くは継続的に飲みながら体質改善をはかり、不調を解消していくことが目的です。

漢方の特徴は「証を診る」ことです。「証」とは人それぞれの体質や気質のようなものです。たとえば、太っている人、痩せている人。筋肉質の人、ポッチャリの人。血色のいい人、青白い人。声の大きい人、小さい人などなど。体格や表情にさまざま要素があります。大まかに「実証」と「虚証」の人に分けることができます。「実証」の人は体力があり、血色がよく、筋肉質。「虚証」の人は体力がなく、顔色も蒼白く、細くて筋肉が少ない。

漢方は症状と「証」によって処方が決まります。ですから、同じような症状でも、証が違えば処方は変わります。たとえば熱がある、喉が痛いなどのかぜ症状を訴えても、実証の人と虚証の人では出る薬が違うのです。

また、漢方は症状の見方も西洋医学と違います。

・気の不調:疲労感、食欲不振、頭重、息苦しさ、のぼせ、動悸、発汗、不安感など

・血の不調:月経異常、便秘、お腹の痛み、貧血、皮膚の乾燥、脱毛など

・水の不調:むくみ、めまい、頭痛、下痢、排尿異常など

「気」「血」「水」の症状と、その人の「証」を見合わせながら薬を処方していきます。

漢方薬は西洋薬の代わりではありません

漢方薬は一般の病院でも処方される薬です。現在、保険適用される漢方薬は148種類あります。また、医師の9割が漢方薬を処方している、ということです。医師であれば、漢方を処方するのに「漢方専門医」である必要はありません。内科や婦人科のお医者さんでもふつうに処方します。一般の病院で漢方を処方されることは、それほど珍しいことではありません。

注意していただきたいのは、そのお医者さんが「証」を診られるかどうか。あなたの「証」を理解した上で処方しているのかどうかです。

病院では「症状に対して効果がある」と見込まれる薬しか保険適用されません。漢方薬も同様です。しかしここで私が疑問に思うのは、西洋薬の胃薬を飲んでみたけれど効果がみられないので、漢方で胃腸に効く薬を試してみようか、といった処方です。漢方薬は西洋薬の代わりではありません。

本来、漢方はその人の証をみて、ある程度長い期間、飲みつづけて体質改善をはかるものです。ですから、胃腸の調子が悪いときに処方された漢方が、かぜを引いたときにも出されるといったこともあります。逆に、一般的に胃腸に効く薬とされていても、「証」や状態によって合わないこともあります。

たとえばアトピーのケース。その患者さんがどういう「証」で、どういう背景、プロセスがあってアトピーになったと考えられるのか。そこが診断できないと漢方は処方できません。西洋薬のように「アトピーにはこれ」と決まっているわけではないからです。

実際には「アトピーに効く漢方」「冷え性に効く漢方」「月経異常に効く漢方」など、ある程度の定番はあります。ネット上にはそのような単純な情報がみられます。しかし、あくまで人それぞれの「証」と、症状に至るプロセスに適した処方でなければ、効果効能は期待できないでしょう。

漢方薬は各人の「証」をみながら処方されます。



■賢人のまとめ
病状や症状だけでなく、人それぞれの「証」(体質や気質)に合わせて処方されるのが漢方です。一般の病院でも処方されることが増えてきましたが、医師が「証」を理解した上で処方しているかどうかが大事なポイント。西洋薬が効かないから漢方薬という処方では、あまり効果は期待できないでしょう。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。