トラブルや緊急事態に「最速」でゴールにたどり着くには?(写真:Elnur / PIXTA)

仕事上の突発的なトラブルは、その人の力量があらわになる恐ろしい場面です。日本IBMのエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャーとして、数々のトラブル案件と向き合ってきた木部智之氏(近著に『複雑な問題が一瞬でシンプルになる 2軸思考』がある)に、修羅場を乗り切るための思考法について聞きました。

「木部さん、問題が起こりました! なんとか期限までに間に合わせたいのですが、どうしたらいいでしょう?」

メンバーが慌てた様子でプロジェクト・マネジャーである私のところに相談にやってくる……。私の携わっているシステム開発では、よくある光景です。

先日もあるリーダーが遅れを「溜めに溜めて」、爆発寸前のところで私に報告に来ました。「いま問題のあるタスクが30個もあって……どこから手をつけていいか、わからなくなってしまいました」というのです。

システム開発では、スケジュールの遅延はよくあることです。私自身、「遅れ」がまったくないまま進められたプロジェクトは、残念ながら1度も経験したことがありません。トラブルや緊急事態というのは、それが複雑であればあるほど、困難であればあるほど、その人の仕事の本質が問われる場面です。こうした究極の局面で慌ててパニックになってしまう人と、落ち着いて対応してトラブルを解決に導ける人とでは、いったい何が違うのでしょう?

生まれ持った頭のよさでしょうか? 

あるいは経験の豊富さでしょうか? 

もちろんそういったことが違いになることもありますが、いちばん大切なポイントは、「ロジカルに考えているかどうか」です。さらに具体的に言えば、「問題の全体を俯瞰してとらえているか」「複雑なことを、シンプルにしてから考えているか」ということです。

頭がいい人とは、複雑な問題をシンプルにできる人

どんなに難しい仕事も、基本的な仕事の応用形、変化形でしかありません。絡み合った物事をシンプルにして問題の本質を見抜くことができれば、おのずとその解決策を見つけることができます。

本当に頭のいい人というのは、複雑な問題を複雑なまま解くことができる人ではなく、複雑な問題を誰でも解けるくらいの簡単なレベルまで分割できる人なのです。

たとえば、突発的なシステム障害が起こった場合。チームの様子を観察していると、慌ててしまう人と的確に行動できる人の差が、明らかに見てとれます。

混乱した状況について「複雑なまま考えている」人は、目の前のトラブルに慌ててしまい、「あれをしなきゃ、これをしなきゃ」と思いつきで動き、対応に余計な時間がかかってしまいます。ときには、さらなる障害を引き起こしてしまうこともあります。こういう人は「木部さん、トラブルです!」と報告が素早いわりに、「で、問題は何なの?」と聞くと整理して答えることができません。

「即行動」がいいとは限らない

問題を複雑なままとらえている人は、次のような行動をしてしまいがちです。

・思いつきや衝動で動く
・目の前のトラブルだけを見て動き出す
・とりあえず、やってみる

こうした行動は、トラブルが起きていないとき、あるいはあまり難易度の高くない単純な仕事であれば成果に結び付くこともあります。

たとえば、「目標:電話で1件アポイントを取る」という場合。手当たり次第に電話をかけて運よくOKをもらうという方法であっても、1件であればすぐに成果が出ることもあります。

しかし、「目標:電話で100件アポイントを取る」という場合はどうでしょう。これだと仕事の難易度が高いため、何も考えずにただ手当たり次第に行動するだけではなかなか結果につながりません。

私は、「最速」でゴールにたどり着くためにいつも次の3つの原則を意識しています。

[原則 蝋佑┐誅箸魴茲瓩

[原則◆倭澗料をとらえる

[原則]ムダに考えない

1つずつ説明します。

最速で問題を解決する3原則 考える枠を決める

「真っ白の紙に、好きなように絵を描いてください」と言われると、何を描こうか、どこから描き始めようかと戸惑ってしまうでしょう。仕事でも、「さあ考えよう」と白紙から考え始めると、「何を考えるべきか」「何から考えるべきか」はなかなか浮かんできません。

白紙のゼロベースではなく、考えるべき「枠」を作ることで、誰でもその「枠の中」に集中して考えることができるようになります。「いま何を考えればいいか」がシンプルかつクリアになるので、戸惑うことがなくなるのです。

私の配下のチームで次のようなことがありました。あるリーダーが「いま問題のあるタスクが30個もあって、どうしていいかわかりません」と私のところに相談しに来ました。話を聞くと、かれこれ半年以上、解決を先延ばしにしていたことが積もり積もって30個も溜まってしまったとのこと。プロジェクトの大きな節目が1カ月半後に迫っている中、何からどう手をつけていいかわからなくなってしまっていたのです。

私はその報告をざっと確認し、30個の問題について、

・課題の内容
・現在の状況
・担当者
・難易度
・影響度
・優先度

などの情報を図のようなマトリクスで整理するように指示しました。

このマトリクスで枠に沿って整理した結果、実は3分の1はすでにやるべきことが決まっていて、解決されていたことがわかりました。あとは、残りの課題を影響度と優先度の高いものから順次片づけていくという方針にしました。

状況を整理する枠を作ることで、これまでどうしていいかわからなかったリーダーが簡単に状況を整理し、把握することができるようになったのです。


最速で問題を解決する3原則 全体像をとらえる

よく、「あの人は重箱の隅ばかりつつくよね」などと言われることがあります。全体のバランスを考えず、さまつなことばかりにとらわれていることを揶揄する言葉です。

では、そのような人たちはなぜ重箱の隅をつついてしまうのでしょう? 答えは明らかで、そこが「重箱の隅」であることに気づいていないからです。重箱の全体像がわかっていなければ、自分がつついているところが隅なのか真ん中なのか、把握することができません。

私が若手の頃、会議などで上司からしばしば「いま話しているものの総量はいくつなの?」「全体がわからないと判断できないな」と指摘されました。

当時は「なぜそんなことをいちいち確認するのか?」と理解できなかったのですが、自分がリーダーとして大きなチームを率いるいまとなっては、その意味がわかるようになりました。

私自身、メンバーから「今週は、ほかのものを後回しにしてこのタスクに注力したいです」と相談されても、そのタスクがどれくらい重要なのか、いま本当にそのタスクに注力しないといけないのか、ほかのことも含めた全体像がわからないとOKもNGも出せません。

また、ときおりメンバーに「あの資料、いつまでに作る予定?」と聞くと、「すみません! 急いで明日出します!」と焦って答えてくる人がいて、「別に急いでいるわけじゃないんだけどな」と思うことがあります。

こちらが求めているのはスケジュールの全体像。たとえば、「2週間後に完成予定で進めています。いま3日目で、だいたいの構成が出来上がりましたので、週明けくらいには一度ラフな状態で確認いただく予定です」と答えてもらえると順調かどうかがだいたいわかり、今後のチェックポイントや自分の空けておくべきスケジュールを考えることができるのです。

最速で問題を解決する3原則 ムダに考えない


よく経営戦略で「選択と集中」が重要だということがいわれますが、これは思考においても同様です。「原則 考える枠を決める」と「原則 全体像をとらえる」で述べたように、情報が枠で整理されて全体像が把握できると、これまで雑多だった情報がすべてきれいに可視化されます。ごちゃごちゃに詰め込まれていた要素をすべて取り出し、表に整理して並べたという状態です。

考えるときは、そこから重要なものだけを「選択」し「集中」して掘り下げていきます。

このときいちばんよくないのが、なんとなく全部を考えること。完全に時間のムダです。1時間の思考時間を、ムダな検討にまで時間をかけるのか、効果の高い重要なことだけに費やすのか。それによって、仕事の成果が大きく変わってくるのです。

「思考の選択と集中」を考えるとき、私はよく「ぬり絵」のイメージを使います。いま考えるべきではない枠をグレーでぬりつぶすことで、枠の中で重要度の濃淡がつき、必要のない部分を考えなくて済むようになります。

たとえば図のように、東京、大阪、名古屋、福岡の売り上げデータについて考える場合。「売り上げの伸び悩みをどう解決するか」がテーマであれば、売り上げが伸びている大阪、名古屋については考える必要がありません。4都市を考えるよりも、2都市だけを考えるほうが、単純に時間は半分になります。反対に同じ時間を考えることに費やすならば、思考できる時間は2倍に増えるのです。