第19回党大会で権力基盤をより強固なものにした習近平政権2期目の外交は、より自己主張の強い「強面外交」になるという見方があった。

 1期目の外交は、「核心的利益」と中国が位置づける領土・主権の確保について、特に南シナ海の人工島造成や東シナ海・尖閣諸島海域における中国公船の頻繁な領海・接続水域への侵入といった行動を伴っていた。こうした行動が継続されるならば、2期目の外交はさらに強硬なものになることが予想されたからである。

 党大会の報告でも強調されたように、中国が「中華民族の偉大な復興」に加え、「社会主義強国」の実現を目指すなら、経済力、軍事力にものを言わせる外交を習近平が追求するのも当然の流れと考えることができる。そうなるかどうかは、今後の展開を観察する中で評価すべきであろう。

 しかし、党大会が終わった後の現実は複雑な様相を見せている。

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習近平が厳しい対日態度を一変させた理由

 ベトナムで開催されたAPECの場で実現した日中首脳会談で、習近平はこれまでの厳しい対日態度を一変させ、対日関係改善に前向きの姿勢を見せた。

 もし2期目の習近平外交が穏健な外交に変化するとすれば、その理由は2つあるだろう。

 1つは、「外交は内政の延長」という見方が正しければ、習近平政権の1期目は「反腐敗」に名を借りた権力闘争が繰り広げられ、そのことで内政でも外交でも、対抗する相手に妥協を許す余裕がなかった。だから外交も力づくになり、周辺外交ではベトナムやフィリピンとの対立を深めた。南シナ海問題での国際仲裁裁判所の裁定を「紙くず」だとして、国際法廷の判断を無視したのも、中国の「余裕のなさ」の現れであった。党大会で権力基盤を固めた習近平は、目先の利益にとらわれることなく、余裕を持って外交に臨むことができるようになり、大所高所からの判断で妥協や協調を主旋律とした外交を展開することが可能となる。

 もう1つの理由は、11月8日から10日にかけてのトランプ米大統領訪中に見られた中国の対応、すなわち「超国賓待遇」での接遇という演出で、習近平が超大国・米国大統領と肩を並べるリーダーとしての存在感を内外に示したことだ。

 習近平政権1期目は、オバマ政権に「新型大国関係」を執拗に迫りながら、逆に米国の警戒感を高める結果となった。領土・主権という「核心的利益」の相互尊重を求める中国に、台湾問題や南シナ海問題への関連から米国が慎重になったためでもある。ところが、米国でトランプ政権が誕生すると、中国は「新型大国関係」を言わなくなった。習近平は「名を捨てて実を取る」戦略に切り替え、トランプ大統領との首脳会談後の記者会見で、「新型大国関係」という表現は使わずに、かつてオバマ大統領にも語った「太平洋は十分に広く、米中両国を受け入れられる」と述べることで、事実上の「新型大国関係」が米中間で構築されたことを明示したのである。

 いわば米国に肩を並べる大国となった中国の習近平主席は、内政の安定とともに外交でも余裕を持ったアプローチが可能になったように見える。だから、自己主張を剥き出しにするような乱暴な外交は影を潜めるという見立ても可能である。

冷え込んだ中国と北朝鮮の関係

 ところが、難題が1つ残った。北朝鮮の核・ミサイル問題である。トランプ政権の目標とするのは北朝鮮の不可逆的な非核化であり、それを北朝鮮に受け入れさせるための制裁圧力を強化することで中国の協力を求めることがトランプ訪中の目的であった。中国は、自らも関わった国連の制裁決議を粛々と履行するという文脈での協力は約束したが、それに加えての独自制裁までは踏み込むことを約束はしなかった。

 トランプ大統領が北朝鮮問題で中国の役割を重視していることを暗示したのが、スティーブン・バノンのインタビュー記事であった。

 スティーブン・バノンはトランプ大統領の首席戦略官を務め、その後解任されたとはいえ、現在も頻繁に連絡を取り合う関係にある。そのバノンがNHKのインタビューで、北朝鮮を中国の「従属国」と位置づけ、中国は北朝鮮にさらなる圧力を加える余地があるとみなしている。どういう意味で「従属国」という言葉を使っているのか明らかではないが、「中国の言いなりになる国」という意味ではないだろう。あえて言えば、中国は「言うことを聞かない」北朝鮮に対し「殺生与奪」の権限を持つ国という意味合いだろう。石油や食料の供給で言えば、まさに中国はそうした立場にある。バノンの認識をトランプ大統領に置き換えれば、中国がまだ北朝鮮に対して圧力を高める余地を残していることになる。

 習近平時代になって、中朝関係が変わったという見方がある。朝鮮戦争以来の「唇歯の関係」という、米国との間の「緩衝地帯」として北朝鮮の存在を中国が肯定する立場は過去のものになり、今や中国の言論空間において北朝鮮批判はタブーではなくなった様相を呈している。

 もちろん、習近平時代に入って北朝鮮の金正恩は訪中していない。中国では党大会後、その説明の任務で習近平の特使として党中央対外連絡部部長の宋涛を訪朝させたところ、金正恩との会見は実現しなかったようだ。中朝関係は相当に冷え込んでいると見ていいだろう。

 それだけでなく、現状に鑑みれば、北朝鮮は中国が米朝間の「仲介」ないし「調停」の役割を試みることさえ拒んだことになる。

中国は「当事者」として責任を取りたくない

 北朝鮮問題で米中が協調できるかと言えば、それは容易ではない。容易ではないが、可能性はまだ余地がある。米中ともに、朝鮮半島の非核化が共通の目標であることがその根拠となる。北朝鮮が中国の提案する交渉に応じなければ、北朝鮮への対処について米中間で協調の可能性は高まる。

 とはいえ、中国の提案する「北朝鮮は核・ミサイル開発を凍結し、米国は北朝鮮に対する軍事演習を凍結する」というスキームは、トランプ大統領に拒否された。北朝鮮も11月29日に大陸間弾道ミサイル「火星15」の試射というさらなる対米挑発を行うことで、中国の提案に対する拒絶の姿勢を明確にした。

 米国と肩を並べる大国としての中国の外交的面子は丸つぶれであるが、中国はまだ代案を用意できているようには見えない。もともと中国の提案は北朝鮮の了解を取り付けた上で出されたものではなかったから、実現性の低いものであったと言わざるをえない。

 厳しい言い方になるが、中国は米国と北朝鮮が繰り広げる「チキンゲーム」に巻き込まれたくないのであって、「善意の第三者」として穏健な提案を出すことによって、北朝鮮問題から一定の距離を取ることを画策したのではないかと思われる。それが習近平の標榜する「大国外交」と呼ぶに値しない消極外交であることは、指摘するまでもない。中国は朝鮮半島危機の「当事者」として責任を取りたくないのである。

今後、問題になるのは「時間」

 トランプ大統領は、北朝鮮が米国本土を射程に収める核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実戦配備を許容しないという「レッドライン」を明らかにしてきた。よって、今後、問題になるのが「時間」である。米国に残された時間が少ないとすれば、まさに米国の「予防攻撃」もオプションとして現実味を増すことになる。

 米国や日本が「さらに圧力を強化する」と言っている間は、まだ武力行使はない。現段階は、まだかろうじてその段階にとどまっている。しかし、北朝鮮がそうしたICBM能力を持つのがまさに「時間の問題」となれば、来年の前半にも米国による軍事行動はありうる選択となる。

 それをそのまま中国が傍観するようなことがあれば、中国は「外交の敗者」となり、2期目の習近平政権に影を落とすことになろう。まさに中国外交は、その真価が問われる局面にある。

 もちろん、そうした事態が生じれば、日本も無事で済むはずはない。今後、ミサイル防衛を含めた防衛態勢の構築、韓国にいる邦人の保護や帰国のための米韓との協議など、まさに戦争に備えた対応を迅速に進めていかなくてはならない。しかし、安倍政権の北朝鮮政策は「対話よりも圧力」であったのだから、日本は北朝鮮が核・ミサイルを放棄しなかった場合の結果を受け入れるしかない。北朝鮮の核・ミサイル問題に関して、我が国の外交・安全保障にとってもきわめて重大な時期を迎えつつあるのは紛れもない事実である。

筆者:阿部 純一