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text:Joe Saward(ジョー・サワード)

もくじ

ー リバティ・メディア F1で何めざす?
ー F1の苦境 立ち向かうには
ー 最優先事項は「ファンを増やすこと」
ー 強力なチームとの摩擦も
ー F1を新たに仕切るのは誰?

リバティ・メディア F1で何めざす?

1月中旬、わずか10カ月前のことだが、リバティ・メディアがF1の経営権を取得し、バーニー・エクレストンは役割の殆どない名誉会長となった。つまり彼の時代は終わったのだ。

チェイス・キャリーが新会長となり、ショーン・ブラッチスをコマーシャル責任者、ロス・ブラウンをモータースポーツ担当に据えた。

この売却手続きの一環として、F1はNASDAQ市場に「FWORK」として上場し、債務の削減と旧株主の影響力排除を行った。

キャリーは現在の債務レベルに満足している。株価は26ドル(2891円)から38ドル(4225円)まで上昇し、その間、最高値は41ドル(4559円)を記録した。市場もリバティの手腕に信任を与えたようだ。

キャリーとブラッチスは、各サーキットとTV局との間でいくつか新たな契約についての交渉を行い、新オフィスへの移転に加え、大量の採用と相応しい企業組織の構築に取り組んでいる。

リバティが目指すのはF1のさらなる成長と、さらに多くのひとによるこのスポーツへの支持だ。

このために経営陣は戦略的、かつ協調的な思考を行っているが、これこそが長く続いたエクレストン時代の「分断と対立」方式を経て、各チームが取り入れる必要のあるものなのだ。

F1の苦境 立ち向かうには

「各チームと積極的に関わることで、全ての関係者にとって本当に価値あるものを作り出すためのビジョンを構築しようとしています」とキャリーは言う。

「いま行っている協調的な議論には満足しています。こういった議論には時間が掛かりますが、このスポーツの長期的な利益のために、われわれがさらに協力していくべきだという事には、みんなが理解を示してくれています」

キャリーは時にF1界を混乱させるような物言いをするが、間違いなく彼は自分が何をしているかを理解している。市場の支持が無い限り、有料テレビに過度に注力しないという方針を明確にしており、これはF1の主要マーケットが賛同する考え方だ。

キャリーは無料放送からの切り替えがF1を苦境に立たせていると考えており、リバティはこの状況を変え、F1を主要なTVチャンネルで中継される状況に戻そうとしている。

同時に、OTTと呼ばれるインターネット・サービスにより、地上波TVやケーブル・チャンネル、衛星放送を経由することなく、ファンが直接F1に繋がる事ができるようにする計画も存在する。

もちろん、このためには巨額の資金が必要になるが、世界中のF1ファンの数を考えると、この計画によってもたらされる利益は莫大なものになるだろう。

一方で既存のTV中継もこれまで同様継続される。つまり、ファンにF1を届けるための答えはひとつではないという事だ。

最優先事項は「ファンを増やすこと」

「当初から、われわれはファンをよりF1に近づけ、このスポーツの魅力をより拡げることに注力しています」と言うのはブラッチスだ。

「このスポーツをさらに成長させるための潜在力は十分にありますが、米国におけるF1への興味を高めようとすれば、F1に対するワクワク感を感じる機会をさらに提供する必要があるのです」

「そのために米国内でのレースを増やしたいと思いますし、米国と同じ時間帯を持つ地域でのレースを6つにしたいと考えています。そうすれば、米国の視聴者にとって好ましい時間にレースを中継する事ができるようになります。いまのところは、オースティン、カナダ、メキシコとブラジルの4レースが米国と同じ時間帯の地域で開催されています」

同様にブラッチスは、こんにちのF1マーケットのもうひとつの大きな拡大市場であるアジア地域でのレースも増やそうとしている。

上海とシンガポールでのF1開催権の契約が短期であることは興味深い事実だろう。

つまり、リバティはF1の価値はまだまだ向上させることができると考えており、長期契約でその価値を固定したくはないという事だ。レースの開催権を巡る列には多くの都市が並んでいる。

キャリーはF1を「選ばれた都市」で開催することによって、各レースをより大きく、より良いものにしようとしている。彼は各グランプリを各国におけるスーパーボウルのような存在にしたいと考えていたが、加えて、リバティはいくつかの伝統的な開催地は維持することで、既存のファンを喜ばせる一方、新たなファン層を作り出そうと躍起になっている。

この方針は、7月に行われたロンドンでのストリート・イベントのように、来年展開される一連のプロモーション活動にも反映されるだろう。

さらには市場調査や2021年導入予定の新ルールの制定を含め、様々な領域で多くの取組みが行われている。

一方で問題も生じつつある。

強力なチームとの摩擦も

これらの計画は各チームのコストを削減し、利益の公正な分配を図るために検討されているが、一方でフェラーリのような強力なチームとの間で摩擦も生み出している。

キャリーもブラッチスも何も言わないが、彼らが断固たる姿勢を取ろうとしている事は明白だ。

フェラーリはあまりにも長く過度な恩恵に浴しており、提案を受け入れるか、新たなレース場所を探す事になるだろう。

もちろん、フェラーリがF1以外のレース場所を探すなど現実的でない事は彼らも知っている。ではさらなる衝突が起こるのだろうか? それはリバティ次第だ。

もし彼らが上手くやれれば、大騒ぎなど起こらないはず。今後の動向に注目だ。

F1を新たに仕切るのは誰?

チェイス・キャリー

キャリー(写真左)は1981年にコロンビア・ピクチャーズに入社し、映画ビジネスとケーブルテレビ・ネットワークの融合に重要な役割を果たした。

1980年代後半にフォックスへ移ったあと、衛星放送サービスのディレクTVによる買収以前には、フォックス・ニュースとフォックス・スポーツの立上げに関わった。

フォックスがディレクTVによって買収された際にリバティ・メディアに参加することになったが、その後、ルパート・マードック率いる21世紀フォックスへ社長として復帰した。そして、マードックの帝国ではトップになれないことが明らかとなり、F1へと移ってきたのだ。

ショーン・ブラッチス

ブラッチス(写真右)は1987年にケーブル及び衛星スポーツチャンネルのESPNへ入社し、2005年にはセールス及びマーケティング部門のトップへと上り詰めた。

その間、ESPNを新たなメディアとして、有料放送の視聴者へインターネット経由でストリーム配信を行えるようにした。また、彼はTV業界幹部として最初にeスポーツの重要性を認識したひとりでもある。