東海大・駅伝戦記  第16回

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 上尾シティハーフマラソン、外国人留学生のサイモン・カリウキ(日本薬科大)が1時間1分25秒でトップフィニッシュを果たした。

 上尾ハーフは好記録が期待できるレースコースである。

 昨年の大会は、東海大の鬼塚翔太が1年生ながら1時間2分3秒という歴代ジュニア2位の記録で3位となり、松尾淳之介も1時間2分17秒で8位。大学生男子の部で1時間3分を切った選手が13名も出た。5km付近と12km付近にアップ&ダウンがあるものの比較的走りやすく、タイムが狙える大会なのだ。また、上尾ハーフは箱根を狙う選手にとってはメンバー選考の最終試験に等しく、大きな意味を持つレースである。

 その1週間前、箱根を目指す学生にとっては上尾ハーフと似た位置づけとなる世田谷246ハーフマラソンが行なわれていた。後半の登りがきついコースだが、そのレースには全日本大学駅伝を走った川端千都(かずと/4年)、國行麗生(れお/4年)、三上嵩斗(しゅうと/3年)、湊谷春紀(3年)に加え、キャプテンの春日千速(ちはや/4年)、名取燎太(1年)が参戦していた。川端、國行、三上は流して走ったが、湊谷は1時間3分4秒で全体の4位、日本人では2位になり、箱根メンバー入りをほぼ確実にした。故障から復帰した春日はもうひとつだったが、9月から調子を落としていた名取が1時間4分59秒で日本人7位となり、調子を上げてきたのは大きな光明だった。


上尾シティハーフマラソンで東海大勢はベスト10に3人が入った

 この日の上尾ハーフは北風が非常に強く、選手は向かい風や横風に悩まされるレースになった。そのせいか留学生をはじめ、全体的にタイムが伸びなかった。

 カリウキがフィニッシュしてから1分30秒程度遅れて、日本人のトップの片西景(駒沢大)がトラックに戻ってきた。その10秒後、伊勢翔吾(駒沢大)と湯澤舜(3年)、關颯人(せき はやと/2年)が競り合い、トラックになだれ込んできた。先行する伊勢を湯澤と關は懸命に追うが届かない。スピードを持っているはずの關は強風の中、5kmから15kmまで先頭集団を引っ張り、体力を使ったせいか、もうひとつ伸びがない。

 結局、伊勢を差せずに關は1時間3分12秒で5位、日本人選手では3位。湯澤は關と同着で1時間3分12秒、日本人4位に終わった。

 レース後、歩きながら待機所に戻る。

「悔しいですね」

 關の表情が歪む。

 駅伝シーズンが始まる前からこのレースを重視してきた。全日本駅伝後は疲労を取り、レース5日前にはポイント練習をこなすなど、この日に合わせて調整してきた。全日本の前に關と話をした時、上尾ハーフのタイムは1時間2分台、日本人トップを目標にしていた。どちらも叶わず、余計に悔しさが募ったのだろう。

 レース中、關に何が起こっていたのだろうか。

「スタートが2列目でちょっと出遅れて、留学生の背中についていけなかったんです」 

 關は最初から躓(つまず)いたようだった。しかもレースはスローペースで進んだ。

 外国人留学生2人が先行する中、關は日本人先頭集団の中にいて5km付近から前に出てレースを引っ張った。

「ちょっと遅いペースだったので、自分からペースを作っていこうと思ったんです。でも、風が想像以上に強く、ペースが上がらなくて……。自分の中では10kmを29分30秒ぐらいと設定したんですが、(1kmが)2分56秒ぐらいかかっていて、かなり遅かった。うまく引っ張り切れなかったですね」

 折り返し地点を過ぎた時、關は先頭集団にいたものの、まだ団子状態だった。

 18kmを過ぎると、日本人トップ集団は關をはじめ、湯澤、西川雄一朗(2年)、高田凜太郎(2年)、郡司陽大(あきひろ/2年)に早稲田大、駒沢大らのランナー加え、11名に絞られ、20km地点では關、湯澤を含めて7名になった。

「ラスト、行きたかったんですが足が動かなくて……。結局、中途半端な引っ張りで終わり、逆に周囲に利用されて勝負どころで対応できなかった」

 そのまま片西に前にいかれ、關はついていくことができなかった。

「思い描いていたレース展開ができなかったです。タイムが物足りないですし、その中で勝負にも勝てないっていうのは、完全に力不足です。強風の中、自分が前で引っ張らずに走っていたらどうなっていたのかなって思うことはありますが、僕は引っ張って勝ち切ってこそ本当に力のある選手だと思うので、それができなかったというのは、まだまだやるべきことがたくさんあるなって思いました」

 上尾ハーフでタイムを出し、20kmに対していいイメージをつかみ、自信を持って箱根に向けて調整していきたかったのだろうが、すべてがネガティブに終わったわけではない。自分でペースを作り、レースの主導権を握って走る展開はこれから世界で外国人選手と戦う上で非常に重要なことだ。その姿勢を貫いたことは高く評価されるべきだろう。それ以外にも關が自分になりに感じた収穫がある。

「後半17、18kmぐらいがキツかったんですけど、落ちずに粘って走り切れたのはよかったです。ハーフに対する苦手意識はないですし、昨年に比べたら20kmを走れる足になってきていると思うので、そこは手応えをすごく感じています」

 關はそう言って、ちょっとホッとした表情を見せた。

 周囲から求められているものが高く、關自身も自分に厳しいので今回の結果には満足はしていない。だが、気になるのは結果以上にスピードと長い距離の『融合』が進行しているかどうかだ。春からスピードに特化した練習に取り組み、1500mでは3分42秒08で東海大記録を作り、オランダでは5000mで13分35秒81の自己ベストを記録した。9月の日体大記録会では1万mを28分23秒37の自己ベストを出すなど、スピード練習の成果が見て取れた。しかし、重要なことはロードレースでそれを発揮できるか、20kmという距離でスピードを生かせるか、である。

 出雲駅伝では6区(10.2km)で区間賞を獲る走りを見せたが、全日本大学駅伝では4区(14km)を走り、区間6位に終わった。この上尾ハーフも日本人3位で、距離が長くなってから思うような結果が出ていない。

「まだ、ちょっとスピードを距離に活かし切れていないですね。完成度としては60〜70%ぐらいだと思います。求めているところには、まだ届いていないですし、20kmでもうちょっといいタイムを出したい。箱根までには、なんとか100%に近づけるようにしたいと思っています」

 悪くはないけど、よくもない。そんなもどかしさを少し抱えているような表情だった。箱根まで1カ月ちょっとだが、そのモヤモヤをどのくらい解消してスタートラインに立てるか。”融合”はもう少し時間がかかりそうだ。

 日本人上位争いでは最後、トラックに關ら3人がなだれ込んできたが、そのひとりが湯澤だった。スタートから日本人先頭集団に位置し、ラストまで走りがまったく落ちなかった。春のインカレでハーフマラソンに出場するなど長距離を走る練習をメインにし、夏は実業団の練習に参加して連日、距離を踏んだ。まだ、優勝こそないが札幌マラソンでは2位、今回の上尾では日本人4位と長距離の練習の成果が表れている。

「今日のレースは、最低でも62分台で行きたかったんですけど、風が強くて前半ペースが上がらなくて……。ただ、日本人の先頭集団についていけば、最後5kmぐらいでの勝負かなと思っていたので、それまでは冷静に対応していこうと思っていました。タイムは最低限ですが、ラスト3kmで攻める走りができたので、それはよかったです」

 レース前に描いていた走りが少しはできたのだろう。表情から安堵感と余裕がうかがえる。出雲、全日本のメンバーから漏れた湯澤にとって、このレースは箱根に向けてアピールの場になったようだ。

「出雲はともかく、全日本は狙っていたんですけど、スピードという部分が自分はあまり身についていなかったのでメンバーには入れませんでした。その分、この上尾ハーフに集中できたのが大きかったですね。この結果で長い距離で勝負できることを見せられたと思いますが、自分はまだ箱根のメンバーに入れるかどうかギリギリのライン。もし選ばれたら、長い距離が得意なので10区を走りたいですね」

 3年生では三上と湊谷が出雲、全日本を走り、結果を出してきた。昨年の箱根を見てもわかるように東海大は3、4年生の踏ん張りが箱根制覇には不可欠であり、それが黄金世代である2年生の活躍以上にキーになる。

「1、2年生には自分らがいるから思いきり行ってもいいよなって思って走ってもらいたいですし、そう思ってもらえるような走りを自分たちがしないといけない。それができるチームになれば箱根は勝てると思います」

 箱根のメンバー16名の中に湯澤が名を連ねていれば、それが可能になる。

 湯澤は自らを箱根メンバー当落線上という分析をしていたが、西川もこの大会が箱根のメンバーに生き残るための最後のレースと位置付けていた。

「もう、背水の陣で挑みました」

 西川は冷静な声で、そう言った。

白樺湖での夏合宿、西川は腰痛を抱えて満足のいく練習ができかった。9月の紋別合宿では足を故障してしまった。本格的に練習を始めたのは9月末からになり、その結果、出雲、全日本ともにメンバーに入れなかった。

「悔しかったですが、そこは切り替えてすぐに箱根を目標にしました。そのためにはこの上尾で絶対に結果を残さないといけなかったですし、やってやるという気持ちで臨みました。日本人6位で入賞できたのはよかったと思いますし、箱根への勝負の土俵に上がれたと思いますが、まだまだ安心はできないですね」


 東海大の箱根メンバー争いは熾烈だ。チーム全体はもちろん、同学年の中でも厳しい生存競争を勝ち抜かなければならないため、常にレベルを上げていく必要がある。

「今回のレースでは、いくつか改善すべき点が出てきたので、そこをどう修正していくかですね。後半は動きが固まっていたので、余裕をもって体を動かせる力をつけていかないといけないと思っています。メンバーに入れたら、どの区間でも区間賞を出していけるように頑張りたい。希望ですか? うーん、4区、7区、9区ですね」

 西川は小さな笑みを浮かべて、そう言った。

 レースのラストはストライドが広がり、少し伸びきっていた。もともと力がある選手ゆえ、ラストを粘っていけるようになれば箱根メンバー入りが見えてくるだろう。
 
 選手たちは待機所でクールダウンのジョグのために着替えながら携帯で各自、順位を確認している。

5位  關颯人
6位  湯澤舜
8位  西川雄一朗
11位  郡司陽大
14位 高田凜太郎
15位 中島怜利(2年)
24位 島田良吾(4年)
28位 西田壮志(1年)

 目に留まったのは、西田の名前だった。

 西田は白樺湖の夏合宿、山登りの練習をしていた。最初は軽い体をいかしてテンポよく登っていたが、頂上近くになって風が強くなるとペースがガクンと落ち、最後は1分遅れでスタートした春日に抜かれた。走り終えると駐車場の地面に倒れ、「体が痛い」としばらく立ち上がれなかった。

 あれから3か月ほど経った……。

「今も”山”中心でやっています」

西田は、明るい表情で、そう言った。

「今回は、距離に不安はなかったんですが、トップの選手がたくさんいる中、ペースの変化についていけなくて……。1時間3分30秒は切りたかったんですが、現実は甘くなかったですね。ただ、今、自分が持っている力は出せたかなと思います」

 西田は山しか見ていないという。

入学前から山を走ることをイメージし、そのための練習を積んできた。ただ、8月末の時点では春日との力の差がまだ大きく、再来年以降に山を走るチャンスを得られるかなと思っていた。ところが、この数カ月で一気にレベルを上げてきたようだ。

「8月は春日さんにぶち抜かれましたけど、今は春日さんとの距離がギュっと縮まってきました。箱根のトライアルでも単独走で平均タイムを上回る走りができました。それは夏合宿での走り込みがあったからで、今も自信になっています。山にも慣れてきて、前はキツイところで粘れていなかったんですけど、今はキツイところで粘れる力がついてきたのを実感しています」

 すでに2回ほど山を単独で走り、タイムも上々だったという。

 西田が春日に追いつき、追い越すような走りができるようになれば春日を平地に置くことも可能になる。箱根戦略の幅が広がり、両角速(はやし)監督にとっては嬉しい悩みになるだろう。

「今日は最後までしっかり粘れたのが収穫でした。さらにレベルアップして、箱根まで残り少ないですけど、16人のメンバー枠に入るだけじゃなく、自分が5区を走るんだ、春日さんからメンバーを奪うんだという意気込みで練習をしていきたいと思います」

 161cm、43kmの小さな体だが、気持ちは強い。

 箱根のメンバー登録まで、あとわずかだが、果たして山登りの5区候補として名前を連ねることができるのか。もし入れば、”秘密兵器”と呼べる存在になりそうだ。
 
 この時期のハーフは、主力選手にとっては現状を把握し、これからの調整に活かしていくためのものだ。一方で「なんとしても箱根を走りたい」という西川や西田ら当落線上にいる選手が意地を見せた。こうした選手の突き上げがチーム力を底上げし、チーム全体を強くしていく。また、箱根メンバーが決まった後も、彼らを支える選手たちが練習でいい走りを見せていくと士気が上がるものだ。

 今の東海大は箱根に向けて、そういうチームになりつつある。

(つづく)

◆全日本で神大に敗れた東海大が、箱根駅伝に向けて得た「苦い教訓」>>