以前から藤吉(松坂桃李)には、周りが見えずに突っ走ってしまう傾向があった。夢に真っ直ぐなところが長所であるが、それが行き過ぎると時に短所にもなる。『わろてんか』(NHK総合)第9週「女のかんにん袋」では、タイトルの通り、藤吉に振り回され続けてきたてん(葵わかな)のかんにん袋の緒がとうとう切れる。一言も口をきかないてんに、風鳥亭の面々が仲裁に。誰よりも長くてんの側におり、藤吉との仲もずっと見てきたトキ(徳永えり)のセリフは、てんだけでなく北村家、家族を思う愛のこもった言葉だった。

(参考:『わろてんか』第55話では、藤吉(松坂桃李)が、落語家・団吾(波岡一喜)の獲得を目指す

 藤岡屋の従業員として、てん付きの女中であったトキは、てんが藤吉と北村屋へと駆け落ちしていった後も、窮状にあるてんを思い京都から大阪へとやってきた。てんと藤吉がこっそりと手紙のやり取りをしていた頃から、トキはいつもてんの側にいた。てんの身の回りの世話をする役回りであるが、てんが人よりもしっかりしている分、トキはまたしっかりとした姉のようでもあり、気の知れた親友のようでもある。家族以上の縁で結ばれた関係だ。

 北村家が店を畳むことになった際、てんはトキの身を気遣い、藤岡屋へ戻るように言った。瞳に涙を浮かべながら北村屋を後にするトキだったが、彼女は藤岡屋を離れ、またてんのいる風鳥亭へ。トキにすればてんのために尽くすのが、生きがいなのだろう。啄子(鈴木京香)も認めるほどに、機転の利くお茶子として活躍している。

 風鳥亭が軌道に乗り出すと、藤吉は寄席をもう一軒増やすと言い出した。てんと藤吉の間に隼也が産まれ、猫の手も借りたいほどに人手が足りない状態の頃だ。てんは納得できないままに藤吉の話を聞いていた。ついには、隼也やてんの気持ちもお構いなしに、仕事に夢中になってしまった藤吉に、トキが物申す。「おてん様は、家族で過ごす時間を取り戻したいだけです」「一生笑わしたるって誓うたん、もう忘れはったんですか?」。トキは、てんと藤吉の関係を幼い頃から見てきただけに、二人の気持ちが離れていくのが悲しかった。それに、隼也の子守りをしながら、必死に風鳥亭を支えてきたてんの努力も知っている。てんと藤吉と隼也と、家族三人で笑っている日常が戻ってきて欲しかったのだろう。

 端午の節句、てんと藤吉は、芸人仲間たちの作戦により仲直りすることになる。風鳥亭に現れた武者人形に隼也が笑い、次第にてんと藤吉にも笑顔が戻る。トキは、「駆け落ちしよて、おてん様に結婚を申し込んだときのお気持ち、今ここで、隼ちゃんの前で思い出しとくれやす。あんとき藤吉さんは、思いをまっすぐに伝えたはった」と藤吉に念を押す。トキが願うのは、てんと藤吉が仲良くしていること。それがトキにとっての幸せなのだ。

 しかし、気になるのは、風太(濱田岳)とトキの関係だ。てんを陰から支えていくことを誓った風太だが、昔からトキとは腐れ縁のように仲が良い。てんを思う風太を陰ながら見守っていたのも、またトキであり、風太を憎からず思っている素振りも見受けられる。てんの幸せだけではなく、トキが自身の幸せにも目を向けていくのかが、今後のエピソードの見どころでもある。

(渡辺彰浩)