同居する母親は気になる。だが母のために、自分も当面住むから、と家を買ってもいいのか(写真:polkadot / PIXTA)

今回は、「独身女子がどこまで親の面倒を見るべきか」、というお話です。

「おカネと人生の相談室」にご応募いただいた中から、多くの読者の皆さんに参考になるケースを選定しました。ぜひ一緒に考えていきたいと思います。

一人になった母のために、家を買うべきか


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相談者は、東京都にお住まいの25歳の会社員、北川涼子さんです。大学卒業後、都内の百貨店に勤務。現在は母と同居中です。手取り年収は約255万円、現在資産は300万円。早速、相談内容をご紹介します。

2015年に父が亡くなり、都内で家賃10万円の2LDKのマンションに母と2人で暮らしています。家庭は自営業でしたが、父が亡くなる前には資金繰りも苦しくなり、家を売却して清算しました。母(58歳)は、専業主婦でしたが今は週4日、1日5時間のパートに出て、手取りは月10万円ほどです。「もっと仕事をすれば」といっても、「この年で8時間も働けないわ」と言い、結局、私が毎月13万円ほど生活費として支払っています。母は過去、年金保険料については未納でした。一方で母は自営業を清算したなどで、遺産として、資産を2500万円ほど保有しています。

相談は以下です。母が、家賃をずっと払い続けるのは損だから、家を買うよう勧めるのです。家があれば、将来私が結婚しても母が住む家があるので安心だし、母が死んだら家は賃貸に出せば、私の安定収入源になるとも。私は、母のために家を購入したほうがいいのでしょうか。その場合、いくらまでなら住宅ローンを組んでも大丈夫でしょうか。将来、家庭を持ったときに影響しないでしょうか。
なお、私は、転職して東京を離れる可能性があります。もし家を買っても今後住まないかもしれないのに、母のために住宅ローンを支払い続けることに疑問を感じます。また海外旅行が大好きで休職してバックパッカーをしたり、海外を拠点に仕事をしてキャリア形成を図りたい夢もあります。住宅ローンのために夢をあきらめるのは嫌です。また、母は、鹿児島出身で、実家はまだあるので、いざとなったら鹿児島に帰る選択肢もあります。

さて、皆さんはこのケースをどうお考えですか。25歳と若い涼子さんが、母親のことを心配しつつも、これからの自分の人生もあるし、どうすればいいかと悩むのはよく理解できます。ファイナンシャルプランナーとして、早速ご回答をさせていただくことにします。

私が涼子さんに出した回答は、以下です。読者の皆さんにもわかりやすいように、一部解説を加えます。

結論から申し上げます。金額にかかわらず、家を買うのは反対です。まだ若い涼子さんが、お母様の老後のために借金を背負う必要はありません。

自分が望む方法でキャリア形成をしていき、なるべく広い可能性を持つことができるように、人生を生きていくべきです。今後の足かせになるような借金をすべきではありません。

母親が少しでも安心して暮らせるようにするには?

とはいえ、お母様も、伴侶を亡くされて不安なのでしょう。しっかりした娘に頼りたいという気持ちもわかります。まずは、お母様が安心して暮らせるように考えてみましょう。

まず、最も頼りになる年金ですが、残念ながら、お母様は、過去に年金保険料が未納で、現在、年金がもらえるようになる「保険料納付済期間10年」(2017年8月から施行された制度。従来は通算で25年間納付していないともらえなかった)の条件を満たすために、後納していますね。

お母様の場合、過去2年間と後納3年間分を支払い、62歳まで保険料を納付すれば、保険料納付済期間10年を満たせますので、若い時の厚生年金と合わせて、月額2万円の年金(年間24万円)を受給することができます。この年金の額を、さらに増やすことを考えてみましょう。

まず、62歳で保険料の納付を終了せず、65歳まで納付を続けると、年金額は年間約6万円増えます。また、国民年金保険料のほかに月額400円の付加保険料を納めることで、「200円×付加保険料納付月数」の付加年金を受け取ることができます。

まもなく59歳を迎えるお母様の場合は、65歳まであと6年ほど(今後72カ月間)保険料を納めることができるので、年間1万4400円(200×72カ月分)を生涯受け取ることができます。これで、もともとの24万円から7万4400円増え、年金受給額は31万4400円です。

さらに、年金受給の開始を繰り下げることで、「繰り下げた月数×0.7%」が増額され、この増額率が一生続きます。お母様が、70歳まで年金受給を繰り下げれば、年金額は42%増えて、44万6448円になります。月額にすると、約3万7000円です。

お母様自身の月の手取りは10万円ほどですから、年間は120万円ですね。70歳まで年金受給を繰り下げますので、現在の年間120万円の収入は確保しなくてはなりません。それを前提にして、老後に取り崩してもよい金額を見える化する「老後設計の基本公式」で、お母様の老後の生活費がどのくらい確保できるのかを計算してみましょう。

早速、老後設計の基本公式を以下にあげます。お母様が95歳まで生きるとして、保有資産やもらえる年金を毎年どの程度崩せるのかを見ていきます。式の詳しい内容は、「老後に『毎年取り崩せるおカネ』はいくらか」をご覧ください。お母様が95歳まで生きるとして、ここではさっと眺めながら読み進めていただければ大丈夫です。


お母様は、年金をもらいつつ、年間いくら取り崩せるでしょうか。資産は2500万円あるのですが、70歳まで働き、また、施設に入ることも考え、手元に500万円は残しておいて、生活するという設計です。

涼子さんのお母さんの場合

「保有資産額(A)」2500万円(遺産として受け継いだものです)
「年金額(p)」(上記の計算を前提にして)約44万6000円
「未年金年数(a)」10年間(60歳以降70歳まで)
「働く収入(w)」120万円(もう少し年収を増やすことも考えるべきです)
「働く年数(b)」10年間(60歳以降70歳まで)
「最終資産額(H)」500万円(施設に入る可能性なども考え余裕をもたせたい)
「想定余命年数(n)」35年(60歳以降95歳までと想定します)

「老後設計の基本公式」で計算すると、年間の取り崩し可能額(d)は約78万7000円になります。これを基に年金44万6000円を足すと、年間123万3000円、月額だと約10万3000円が毎月の生活費となります。この金額内で生活することができれば、95歳まで資産を保たせることができます。

しかしながら、家を借りているわけですし、年間123万3000円では、非常に厳しい現実です。現在、涼子さんの月13万円の助けがあって生活している状況ですが、このままでは将来的にもずっと援助を続けなくてはならないのでは困ります。

母親に自立を促して、もう少し働いてもらう

そこで、ここでぜひ考えていただきたいのは、お母様の自立です。58歳という年齢で、「これ以上働く時間を増やすのは難しい」とは思えません。お母様には、この現実を理解していただき、もう少し収入を増やし、取り崩しのペースを落とすようにしてほしいと思います。お元気だということですので、もっと積極的にお仕事をすれば、お母様自身の世界も広がるかもしれません。まだ58歳なのですから、新しいことにも挑戦できるでしょう。

また、現在資産も適切な運用をしていくとよいでしょう。そのときに、間違っても「外貨建て個人年金保険」や、「毎月分配型投信」などを買ってはいけません。そうした商品を勧められないためにも、運用は親子で真剣に考えましょう。リスクを取りたくない資金は、「個人向け国債変動10年型」で運用。一方、リスクを取ることができる資金は、お2人のNISA口座を利用して、国内外のインデックスファンドで運用してもいいでしょう。ただし、大きくリスクを取れる家計ではありません。

そして、なるべく早い時点で、お母様には、ご実家のある鹿児島にお帰りになられることをご決断いただきましょう。住まいがあってかつ、物価の安い地方ならば、月額10万3000円でも生活できないことはないと思います。涼子さんが月に5万円くらいなら、仕送りをしてあげてもいいですね。ともかく、涼子さんが早く自由になることが大切です。

次に、涼子さんへのアドバイスですが、将来、お母様はさらにお年を召され、ギリギリのところで生活されることになります。以前にも増して涼子さん自身がしっかり働くと同時に、資産形成も行い、いよいよ困った事態になったときには、お母様を助けてあげられるように頑張ってください。そういう可能性を踏まえて、ご自身の人生とキャリアプランニングを考えていくことが大切です。

ご自身の資産運用では、個人型確定拠出年金制度(iDeCo)と、来年から始まるつみたてNISAで運用を行うとよいでしょう。税制メリットを考えると、iDeCoが得なので、なるべく大きく使うべきですが、涼子さんの場合は、60歳まで引き出せないことが不都合なケースも考えられるので、配分は改めて考えてみてください。

どうぞ、お母様としっかりお話ししてください。娘の幸せを願わない母親はいません。お母様が、少しずつお元気になられ、ご自身の人生を前向きに考えられるように励ましてあげてください。お母様と涼子さんが、それぞれに新しい人生を歩み出されることを願っています。

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