『電通巨大利権〜東京五輪で搾取される国民』(本間龍/サイゾー)

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 4月3日、東京・汐留の電通本社ビル1階の電通ホールで新入社員145名(男性82名、女性63名)の入社式が行われ、山本敏博社長が歓迎のスピーチを行った。

「約半年間にわたる報道のとおり、入社を控えた皆さんとそのご家族の方々に多大な心配をお掛けしたことを、とても心苦しく感じています。今日こうして、新たに145名の皆さんが電通というチームに加わったことを大変うれしく思います。心から歓迎します」

 山本社長はまず冒頭で一連の事件に振れ、スピーチの最後をこう締めくくった。

「新入社員の皆さんの“志”と“夢”こそが電通の可能性を広げ、輝かしい未来を創り上げることを意味します。電通という企業における唯一にして最大の財産は『人材』です。改めて、今日から電通で共に仕事をし、共に電通を支え、共に電通の未来を創る仲間として、電通を舞台に、皆さん自身の可能性を大いに広げてください」(電通報より)

 2016年9月30日。三田労働基準監督署が、15年12月25日に電通の新入社員・高橋まつりさん(当時24)が社員寮の屋上から飛び降りて自殺した原因を、長時間労働によりうつ病を発症したことによる労災と認定。一連の電通過労死事件が社会問題となった。今年の新入社員145名は内々定、内定のタイミングで事件を知ったことになる。

「採用人数は例年そんなものですよ。逆に中途採用や派遣社員の募集でもっと門戸は広がるのではないでしょうか。人が足りないから事件が起きたわけですからね。でも、電通の派遣社員は悲惨ですよ。仕事は社員と変らないのに、給料は3分の1くらいですからね」

 こう語るのは、10月に『電通巨大利権〜東京五輪で搾取される国民』(サイゾー)を上梓したばかりのジャーナリスト・本間龍氏である。本間氏は18年間にわたり電通のライバルである博報堂に勤務。これまで『原発プロパガンダ』(岩波書店)、『電通と原発報道』(亜紀書房)などの“電通本”を世に問うてきた。いままた新たな“電通本”を世に問う理由を著者の本間氏に聞いた。

●圧倒的に力のある会社

 本間氏は、博報堂勤務時代は仕事を取ってくる営業職についていた。仕事はやはりハードだったのだろうか。

「最初に出した『大手広告代理店のすごい舞台裏』(アスペクト)は博報堂時代の話をメインに、僕の経験した話をおもしろおかしく書いた本です。僕が博報堂に入った時代というのはバブルの終わりくらいで、広告代理店がいちばん無茶をやっていた時代だったので、そのむちゃくちゃぶりを書いたんです。高橋まつりさんの事件があって、広告代理店って死ぬまで働かされるんだ、みたいな話が出たわけですけど、当時は実際にハードな仕事をやっていました。それでも、なんとなく明るく楽しくやってました、ということを書いたのですが、今の若い人たちには信じられないことのオンパレードだったみたいです。労働時間だけを見れば十分ブラックなのですが、それに見合う給料をもらっていたわけで、すべてがブラックではなかったと思っています」(本間氏)

 博報堂の本間氏は、電通社員をどのように見ていたのか。

「それはもう圧倒的な“敵”ですよね。競合プレゼンテーションといったら、絶対必ず相手に電通がいるわけですから。だから電通は毎日意識する相手でした。すべての業種、すべての企業でぶつかるわけです。それこそ小さな案件の取り合いから、大きなキャンペーンの取り合いまで、毎日ぶつかり合っていた。色々なタイプの人がいたけれど、正直に言えば電通には優秀な人たちがいっぱいいました。僕自身の対電通の競合プレゼンの勝率は6〜7割くらいで勝っていたので、あんまりストレスを感じたことはないのですが、それでも『こういう手で負けるのか』とか、『この提案はうちにはできないな』ということで負けた案件はいくつも記憶に残っている。だから、僕は電通を批判はするけれども、決してバカにはしていない。圧倒的に力のある会社だということは認めています」(同)

●国民が知らない電通

 そんな本間氏が、なぜ電通を批判する本を書こうと思ったのか。

「電通という会社がものすごく大きくなり過ぎちゃったからです。その結果、電通が関わっている仕事というのが、国民の生活に見えないところで密着するようになった。広告だけでなく、メディアをも統合するくらいの力がある。20〜30年前なら書く必要もないなという感じだったのですが、本を書こうと思ったのは、やっぱり3.11があったからです。原発広告というのを、大手である電通と博報堂がずっとつくっていた。そういう、世論を形成することまでやれてしまう。それが露骨になってきたので、そういう存在を一般の人にも知らせておかなければいけないと思ったのです。

 とりわけいちばん知らせたかったのは、電通がどんな力を持っている会社なのかということです。あまりにも大きくなって、新入社員の過労自殺は起きるは、インターネット広告の不正請求はやるわ、東京五輪招致の裏金疑惑まで、さまざまな不祥事が山のように出てきた。そして、将来的に国民にいちばん関係がありそうなのが東京オリンピックであり、憲法改正の国民投票であり、そこにも電通が介在している。そこまでいくと、ほぼ8割の国民は知りませんからね」(同)

 20年開催の東京オリンピックで電通はどこに介在しているのか。答えは「すべて」だ。招致活動からロゴの選定、スポンサーの獲得、放映中のテレビ・ラジオのCM等の広告宣伝活動、全国で開催される五輪関係行事、五輪本番での管理・進行・演出等、文字通り全部に電通が1社独占で介在し、他の広告代理店は一切介在できない。これまで1業種1社だった五輪スポンサーも、電通がIOCに働きかけ、何社でもスポンサーになれるようになった。おかげでスポンサー企業の数は膨張し、スポンサー料だけですでに4000億円近く集まったともされる。だが、これだけの金を集めながら、電通と五輪組織委員会は、大会運営に必要な約10万人のボランティアを、ただで起用しようとしているのだという。

「オリンピックを成功させたいという純粋な人たちもいっぱいるわけで、ボランティア自体は否定しないけれども、夏の暑い盛りに10万人のボランティアを無償で使おうというのはどうなのか。暑さで倒れても自己責任、宿泊先や交通費も自腹なのか。電通が集めたスポンサー料は発表する義務がないので正確な金額はわからない。すべてガラス張りではっきりしていて、そのうえでお金がないから無償ボランティアでお願いしますならまだ話はわかるけれど、自分のサイフの中身は見せないのに、ボランティアは全員ただでやってくれというのはおかしいでしょ。そのことをほとんどの国民が知らないのです」(同)

●憲法改正と電通

 さらに、電通はオリンピックの前に、もっと巨大な広告イベントを押さえている。政府・自民党が狙っている、憲法改正のための「国民投票」の広告宣伝イベントだ。改憲勢力である自民党の広告も電通の担当なので、電通がすべて仕切ることになるのだという。

「来年の臨時国会で改憲派が発議したいと言えば、野党が反対して揉めても、最終的には押し切られちゃう。たぶん、来年の年末か再来年の初めには発議されると思います。発議されれば、国民に直接その是非を問う国民投票が行われる。電通はその広告宣伝をすでに請け負っているはずです。護憲派を博報堂が受ければいいのですが、野党の誰がオーダーするのか決まっていない。発議してから頼んでも間に合いません。おそらく電通は発議をにらんでどうするか、メディアプランとPR案の2つをすでにつくっているはずです。どうやって改憲に向けた世論を喚起していくか、そのためにどこでどういうことを仕掛けるか、それを練っているはずなのです。

 これを阻止しなければいけない。そのためには国民投票法の改正案を国会に提出しなければならない。これについては、ジャーナリストの今井一さんが中心になって『国民投票法の改正を考え求める会』で市民案をつくっています。今の野党にまかせると、まとまらないからです。護憲派は博報堂を引っ張り込んで、対電通プランを早急に立てておく必要があります」(同)

 現行の国民投票法では、国民投票運動期間における広告宣伝に関して、「投票日から14日以内のテレビCM放映の禁止」以外、ほぼなんの規制もなく、投入できる広告宣伝費用の上限さえない。つまり、金さえあれば期間中に無制限の広告宣伝が打ててしまうのだ。『電通巨大利権』の第5章『電通のためにある悪夢の巨大イベント』につづられる内容には空恐ろしさすら覚えた。ぜひ一読をお薦めしたい。

 145名の新入社員の“志”と“夢”が折れないことを切に願う。
(文=兜森衛)