引退会見を行う日馬富士(写真:日刊現代/アフロ)

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 相撲界を揺るがす暴行問題の責任を取るかたちで、横綱・日馬富士が引退を発表した。モンゴルの後輩である貴ノ岩に対する“過剰な愛のムチ”に対するけじめとはいえ、突然の引退に相撲ファンからは同情の声もあがっている。

 元旭鷲山はテレビの取材に「最低、あと5回は優勝できるはずだった」と語っていたが、昨今の日馬富士の成績や相撲内容を見る限り、「あと5回の優勝」など、到底無理に思えてならない。そればかりか、引退のカウントダウンはすでに始まっていたともいえるのだ。

●ワースト2位の金星配給数、今年は自己最多記録

 今年9月場所。白鵬、稀勢の里、鶴竜と3横綱が不在のなかで、“一人横綱”の重責を背負った日馬富士は優勝を果たした。大関・豪栄道を本割と決定戦で破る見事な逆転優勝だったが、これは「1場所15日制以降、初めてとなる4敗横綱の優勝」でもあった。

 しかも、4敗はすべて平幕力士に負けてのもの。「1場所で金星を4つ配給しての優勝」という史上初の珍事であり、休場した3横綱が万全であれば、優勝はおろか2ケタ勝利すら危うかったはずだ。

 同じく“一人横綱”だった11月場所の白鵬が14勝1敗という成績を収めたことと比べても、「横綱としての力量」がはるかに劣っていることがわかる。ただ、優勝40回という前人未到の大記録を成し遂げた白鵬と比べるのは酷ではあるが……。

 そもそも、日馬富士はよく金星を配給する横綱であった。歴代横綱の金星配給数ワースト5を見ると、以下のようになっている。

1位 北の湖…53個(63場所)/1場所平均0.84個
2位 日馬富士…40個(31場所)/1場所平均1.29個
3位 輪島…39個(47場所)/1場所平均0.83個
3位 貴乃花…39個(49場所)/1場所平均0.80個
5位 柏戸…35個(47場所)/1場所平均0.74個
5位 曙…35個(48場所)/1場所平均0.73個
※参考 白鵬…16個(63場所)/1場所平均0.25個

 歴代2位の金星配給数に加え、1場所あたりの金星配給数は上記6横綱のなかでもダントツだ。しかも、上記6横綱のうち日馬富士を除く5人全員が40場所以上を務めており、「長きにわたって綱を張った勲章」ともいえるが、日馬富士の在位数は5人に比べて格段に少なく、“横綱として不名誉”な記録の持ち主といえる。

 ちなみに、部屋別総当たり制となった昭和40年以降の歴代横綱26人のうち、1場所あたりの金星配給数では栃ノ海(1.94個)、稀勢の里(1.8個)、若乃花(3代目、1.64個)、琴櫻(1.5個)、旭富士(伊勢ケ浜親方、1.33個)に次ぐ6位となっている。

 しかも、日馬富士の金星配給数を年度別で見ると、次の通りだ。

平成24年…1個(11月場所での昇進につき、横綱在位1場所のみ)
平成25年…8個
平成26年…6個
平成27年…8個
平成28年…6個
平成29年…11個

 今年に入って配給数がグンと伸びており、日馬富士の“力量の衰え”を見ることができる。

●ガクンと落ちた勝率、今年は6割台に

 日馬富士の優勝9回は歴代15位。とてつもなく立派な実績である。大横綱・白鵬と同じ時代でなければ、もっと回数を伸ばしていただろう。

 横綱としての勝率.727も、玉の海(.867)、白鵬(.829)、大鵬(.858)、千代の富士(.848)、朝青龍(.836)、貴乃花(.813)、北の湖(.811)には及ばないものの、15番目に位置する。

 ただし、年度別の勝敗と勝率は次の通りだ。

平成25年…69勝21敗/勝率.767
平成26年…47勝18敗25休/勝率.723
平成27年…46勝16敗28休/勝率.742
平成28年…67勝23敗/勝率.744
平成29年…47勝23敗20休/勝率.671

 在位5年のなかで今年はもっとも勝率が低く、6割台に落ち込んでいる。さらに.671という勝率は1場所平均10勝5敗である。“横綱の勝ち越し”といわれる12勝以上にはほど遠い成績だったのが、今年の日馬富士なのである。

●今年は一度もなかった“横綱の勝ち越し”

 最後に「12勝率」を見てみよう。これは“横綱の勝ち越し”である12勝をクリアした確率である。

 部屋別総当たり制となった昭和40年以降の歴代横綱26人の「12勝率」は、以下の通りだ。

1位 玉の海(10場所中9場所)/.900
2位 白鵬(63場所中50場所)/.793
3位 大鵬(58場所中38場所)/.655
4位 千代の富士(59場所中38場所)/.644
5位 朝青龍(42場所中27場所)/.643
6位 北の湖(63場所中37場所)/.587
7位 貴乃花(49場所中26場所)/.531
8位 佐田の山(19場所中10場所)/.526
9位 輪島(47場所中22場所)/.468
10位 武蔵丸(27場所中12場所)/.444
11位 曙(48場所中21場所)/.438
12位 双羽黒(8場所中3場所)/.375
13位 2代目若乃花(28場所中10場所)/.357
14位 北勝海(29場所中10場所)/.345
15位 北の富士(27場所中9場所)/.333
15位 旭富士(9場所中3場所)/.333
17位 柏戸(47場所中14場所)/.298
18位 琴櫻(8場所中2場所)/.250
18位 三重ノ海(8場所中2場所)/.250
20位 日馬富士(31場所中7場所)/.226
21位 大乃国(23場所中5場所)/.217
22位 隆の里(15場所中3場所)/.200
22位 稀勢の里(5場所中1場所)/.200
24位 3代目若乃花(11場所中2場所).182
24位 鶴竜(22場所中4場所)/.182
26位 栃ノ海(17場所中1場所).059

 31場所中7場所しか12勝以上がない日馬富士の「12勝率」を年度別に見ると、以下のようになる。

平成25年…2場所(優勝2回)
平成26年…1場所(優勝0回)
平成27年…1場所(優勝1回)
平成28年…3場所(優勝1回)
平成29年…0場所(優勝1回)

 12勝以上が一度もなかった今年の日馬富士は、1年を通じて“横綱として立派な数字”を残せていなかったのである。

 横綱という立場は、力量が衰えたら引退を余儀なくされる。「仮に暴行事件がなかったとしても、日馬富士の引退は時間の問題だった」というのは言い過ぎかもしれないが、横綱として下り坂にさしかかっていたことは事実だ。

 元旭鷲山が語った「あと5回の優勝」など、とても果たせないような力量であったことを、何よりも数々の数字が物語っている。
(文=小川隆行/スポーツライター)