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AUTOCAR JAPAN誌 55号

もくじ

前編
ー 「ヤバすぎるくらい速くてひたすら優秀」
ー 430スクーデリア オヤッと思うのは2点
ー 430スクーデリア フェラーリの「ショーケース」
ー 「目的はただひとつ 速く走ること」
ー ギアが繋がるときのガキッ、がステキ
ー 速くて、俊敏で、ひたすらエキサイティング
ー グダグダ文句をつけるのは的外れ

後編
ー 911 GT2、いざ試乗 まず謝罪
ー これまでのGT2を振り返ると……
ー ターボとGT2 同じところ、違うところ
ー 997GT2、ほとんど文句なしの成功作
ー 最終結論 スクーデリア/GT2 どっち?

「ヤバすぎるくらい速くてひたすら優秀」

昨今、環境政策方面からのプレッシャーはものすごいペースで強まっている。一方で、この次のポルシェ911GT2はあと5年間は出てこない。5年間なんてブランク長すぎではないか。

そのあいだにクルマ関係の社会的状況がどんなことになっちゃうか、考えただけでも恐ろしい。なにしろ0-160km/hが7.4秒という数字(GT2のデータ)が全然フツーに思えちゃうくらいの勢いだから。

このポルシェや新型430スクーデリアみたいなクルマとしては、低エミッション対応の新たな方向性を打ち立てて、それでやっていくしか生き残る術はない。

すなわち車重を軽く。エンジンをもっとクリーンに。今回の2台はどっちもベース車より軽くなっているから、その意味ではまあオッケー。でも現状ではCO2方面がツラい。まず間違いなく、近いうちにNG出されちゃうレベルの量を排出しているはずだから。

ということで、今回の試乗記は「ついにここまできたスーパースポーツカー! ── ほめまくり祝賀大会2007終盤編」みたいなものになっている。

なぜってヤバすぎるくらい速くてひたすら優秀だから。でも、それと同時に墓碑に刻むコトバであるかもしれない。今までみたいなやり方で高性能車を作ることはもうすぐできなくなっちゃうだろうから、そのお墓。

430スクーデリア オヤッと思うのは2点

出だしはちょっとマズかった。マルク・ジェネがそれに乗って速い周回を重ねているところの430スクーデリアからフィオラノのピットへとライブで走行データが送られてきて、それを見せながらEデフ2とF1トラック2の仕事ぶりをデモ……という段取りだったのに、なんらかのテクニカルな問題が発生。

で、僕らが見つめてた画面には、5本の直線が表示されていた。走行データのグラフなら線がギザギザじゃないといけないのに。

ということでジェネ、ピットイン。大勢のエンジニアがよってたかってアレコレやって、でまたジェネはピットアウト。そしたら今度はすべて上手くいった。

430スクーデリアにおけるトラクション・コントロールと電子制御デフのコンビがいかに名コンビでかつそれらがいかに先進的であるか、僕らはたっぷり見せてもらった。

あとそう、60ミリ秒のギアシフトがいかに数えてるヒマなんてないくらいアッという間であるかも。こういったシステムが一般ピープルのドライバーにとっていかにスーパーヒーロー級に素晴らしい存在であるか、それについてはジェネ(態度は丁寧だったし、あと彼はインテリジェントでもあった)が説明してくれた。

なお同システム、一般ピープルとはちょっと言いがたい僕みたいなヒネクレものドライバーにとってもピッタンコだった。

タイヤに熱が入るにつれていくらかアンダーになったり2900万円の値札が最初誤植に見えたりはしたけれど、430スクーデリアはそんな悪いクルマじゃない。オヤッと思うのはその2点くらいで、あとはひたすら素晴らしい。一体全体どうやったらフェラーリに太刀打ちできるのかとスポーツカー界のその他全員が途方にくれちゃうくらい。

430スクーデリアの値段は一見したところコワくなるくらいボッてる感じだけど、イザ乗っちゃうとむしろオトクな買い物であるようにすら思えてくる。ブランドの威光におんぶ&だっこでトンでもない値付けをシレッと正当化しちゃってるケース、ではこれはない。

エンジン性能は20psと0.5kg-mだけ強化されている。すなわち510ps/8500rpmと47.9kg-m/5250rpm。でも、このクルマのパッケージ全体のなかで真に重要な違いというかニュースは別のところにある。

430スクーデリア フェラーリの「ショーケース」

フェラーリによると、430スクーデリアは1250kg。ベースのF430比でまるまる200kgも軽くなっている。

ありとあらゆる受動および能動の安全装備が付いたエンジン排気量4.3ℓのスポーツカーにしてこれ、というのはすごい……と思ってスペック表を見たら1250kgは乾燥重量。フルード類を入れた状態だと1350kg。それでもまだ100kg軽い。

上出来。軽量化策には大きく3種類あって、まずひとつ目はよく気がつきましたで賞の軽量化(カーペット省略)。

ふたつ目はめちゃめちゃコーフンするで賞の軽量化(チタニウムのスプリングおよびホイールナット)。

そして3つ目はやっぱそうきましたか賞(そこらじゅうに使われているカーボンファイバーのボディパーツと樹脂のリアウインドウ)。

しかしながら、フェラーリにとって430スクーデリアはただ軽量なバージョンというだけの存在ではない。ではナニかというと、ショーケース。過去10年に渡って彼らがF1活動で培ってきたテクノロジーの。F1の世界から一般ワールドへのテクノロジーのトランスファー。

しかもリアルで意味あるヤツ。そういうものの実例としては、今までだったらせいぜいキミ・ライコネンのモーターホームがあるくらいだった。見るからにカーボン・ベリリウムでウォッカどくどくで、みたいなアレ。

要はないに等しかったわけだけど、状況は変わった。いや変わろうとしている。ジェネのデモンストレーションラップのデータに基づくグラフを眺めるとそのことがハッキリわかる。

コーナー脱出時、彼は普通なら明らかに早すぎるタイミングでサッサとスロットルを全開にしている。電子制御デフとトラクション・コントロールが上手いことトラクション最大の加速をやってくれるから、ドライバーはただベタ踏みして待っているだけでいい。

もっというと、進入のラインもコンピュータが最適化してくれる。ギコチない介入など全然なし。突然スロットルがカットされちゃうこともまったくなし。あるのはアッという間に行われるキメ細かいアジャストメントだけ。

そういうテクノロジーのキャラをハッキリ立たせるために、まるで80年代末期に日本のメーカーが使ったような手法をフェラーリは採用するにいたった。

「目的はただひとつ 速く走ること」

要はネーミングなんだけど、電子制御デフがEデフ(E-Diff)でトラクション・コントロールがF1トラック(F1-Trac)っていうのはちょっとこっぱずかしい。

ちなみにEデフはF430から、F1トラックは599から持ってきたもので、430スクーデリアへの採用にあたっては、個々に手直しが入っているだけでなく両方が互いに上手く連携プレーで動けるよう教え込まれてもいる。

今回の仕事は全体のなかでそのへんがいちばん大変なところだったとエンジニアのひとは言っている。

なるほどそれはそうだったかもしれない。でも、だったらどうしてあとホンのちょっと時間かけて仕事してくれなかったか。というのは、このクルマのエンジンをかけるためにはわざわざステアリングホイールの向こう側の穴を探してそこへにキーを差し込んでさらにボタンも押して……。

しまいにはクランクシャフトに直結したハンドルをグイッと回せとか言われるんじゃないかと思った。やってらんない。F1テクノロジーを導入するのと比べたら、エンジン始動時の作業をイッキに簡略化することなんて朝飯前だと思うけど。ほんとめんどくさい。

でも幸いなことに、ギミックくさいのはそこまで。ほかの部分は、ステアリングホイール中央右寄りのところにあるマネッティーノの菱形ダイヤルからカーボンファイバーのセンターコンソール上でチカチカ点滅してるスイッチにいたるまで全部バッチリ意味がある。

目的はただひとつ。速く走ること。いかにもエレクトロっぽくカンペキなスロットル制御でもってエンジンがガオッと目覚め、でもって辛抱たまんない感じの出し抜けにキョーレツな排気音。排気管内にはバルブを使ったひと工夫あり。やかましいといえばそうだけど、以前ここで乗った360チャレンジ・ストラダーレほどではない。

僕としては、この音はオッケー。でもリスキーといえばリスキー。なぜって英国のサーキットを走れないかもしないから。騒音規制をパスできなくて。599みたいなクルマならこれはそんなに重大な問題ではないかもしれないけど、でもこれの場合はちょっと。

言うまでもなく、サーキットを上手いこと走れるようにわざわざ作られたクルマだから。この感じだと、トラックデイに430スクーデリアを持ち込んでコースを走れるサーキットはあんまりないかもしれない。どうやらフェラーリはなんらかの解決策を導入してくれてるみたいだけど。

ではさて公道試乗。

ギアが繋がるときのガキッ、がステキ

フィオラノでの走りを見たりそこでのラップがエンツォより若干ながら速いとか聞かされていたので、ナニも知らずに走った最初の数kmはなかなか事態が飲み込めなかった。

というのは、あまりに乗り心地がよくて。

でもってそれは、このクルマだけに施された細かくも重大な変更によるものだった。F430や599では、例えばギアシフトのマップを迅速モードにするとダンパー減衰力も自動的にハード側に切り替わってしまう。

ゆっくりモードだとダンパーはソフト。つまり強制ユニゾンで、迅速とソフトの組み合わせを選ぶことはできない。でも、430スクーデリアではそれができる。

なぜなら、ダンパー減衰力を切り換えるための独立したオーバーライド・ボタンが付いているから。

なおこの際、速いシフトと僕が言っているその速さはホントに速い。マジで。60ミリ秒というのが具体的にどのくらいなのか数えられないんでわからないけど、要は油圧アクチュエータ ──このクルマ専用に強化されている── がクラッチをディスエンゲージしてまたエンゲージしてという作業の開始から終了までにそれだけの時間しかかからない。

試しに、今ちょっと「バンバン」と言ってみてください。できるだけ急いで。次のギアへは、その「バンバン」を言ってる時間内に繋がります。DSGと同じくらい速いシフト。

でも変速のスムーズさではDSGに負けていて、こういっても信用してもらえないだろうけどそれがかえってフェラーリ様ならではの絶妙な演出になっている。

ギアが繋がるときのガキッ、がステキ。その際背骨にくるショックもステキ。要は、クルマのキャラにバッチリ合っている。パート・スロットルで走っているときはシフトはゆっくりめになって、すごくスムーズ。ロード用フェラーリに付いているF1マチックのなかではコイツのデキがいちばんイイ。議論の余地がないくらいベター。

車重が軽いのとあとマッピングも優秀なのか、有効トルクバンドはむしろ広くなっている。さらに、どうしたことかこっちのほうがよりコンフォタブルときている。

もっと言うと、運転のイージーさや乗っててリラックスできる度もスクーデリアのほうが上。トラック上での速さに的を絞って作られたハードコアなフェラーリであるにもかかわらず。いやほんと、マラネロのヤツらのやることはワケがわからん。

速くて、俊敏で、ひたすらエキサイティング

速くて、動きが俊敏で、ひたすらエキサイティング。それに、これだったらひょっとして荒れた路面で乗っても路面振動吸収能力はパーフェクトなんじゃないか。

そういうわけで430スクーデリアは一大事件。パフォーマンス関係の公称値は、例えば0-100km/hが3.6秒未満。0-200km/hは11.6秒。でもって最高速319km/h。

スクーデリアは、サーキットでも公道でも同じくらいイイ。といって僕は、トラックでの走りが大したことないと言いたいわけではまったくない。

こんなクルマなのにロードマナーがありえないくらいよくて、要はそれが想定外だったと。経験のあまり豊富でないお客様のためのセーフティ・ウインドウとして意識的にワザとアンダーステアめにしてあったりはするけれど、それも訊いてみたら調整できますよ。あるエンジニアいわく。

スパナをカマして回すのではなくラップトップを繋げて、オーナー個人の好みに合わせることができるらしい。

エレクトロニクスをフルに駆使してレースモードで走っているときのスクーデリアは無敵の存在だと思う。なぜなら、事故回避のためよりも速さのアップのために電制システムを使っているクルマは、これのライバルになりそうなもののなかにはただの1台もないはずだから。

ECUの躾けが行き届いているから、430スクーデリアでならスライド状態をキープすることもできる。

エレクトロニクスの介入を全部オフに解除すると、さらなるお楽しみの世界が現れる。前後のタイヤはそれぞれ235と285のピレリ(Pゼロ・コルサ)で、トラクションとグリップはエクセレント。

ただ、3周か4周するとフロントのグリップが落ち始めてターンインからミドコーナーにかけての部分で少しアンダーステア気味になる。それは小さな問題でしかないといえばそうだけど、でもほかに問題らしきものがまったくないのでどうしたって気になる。

グダグダ文句をつけるのは的外れ

ブレーキング関係の性能もまた同様に、タイヤのグリップダウンによって限定されてしまう。前後にそれぞれ398mmと350mmの径のセラミックディスクが使われているブレーキ自体は、3周アツくトバすと不平を言い始めはするけれど常にバッチリ強烈な減速Gを出してくれる。

で、なにより最高なのはトランスミッション。上手くいってるのはすべてコイツのおかげと言いたくなるくらいすごい。

フェラーリによるとスクーデリアはフィオラノでF430よりも1周あたり2秒速いらしいけど、僕にとってはそれは逆の意味でオドロキだ。つまり、もっと速くてしかるべきだと思っている。なぜって、変速時間だけで1秒近くは短縮できちゃってるに違いないから。

見た目的にはこのクルマ、誰もが一瞬で大好きになるタイプでは必ずしもないかもしれない。もっとも、他人の好き嫌いなんて僕の預かりしらないことだけど。

でもあえて言わせてもらうと、黒ボディにホイールがゴールドという仕様はイイ。走りのスゴさにぴったり見合っただけのコワさがあって。

あと値段に関して。欲しいなら2900万円くれとフェラーリは言っている。なにしろこれは彼らが今、作ってるなかで最高のロードカーなんだから、グダグダ文句をつけるのは的外れというものでしょう。

僕に言わせれば、たとえ599であってもランキング的にはスクーデリアより下でしかない。

後編につづく。